5.正体不明の気になる人
お読み頂き有難う御座います。誤字報告有難う御座います。
ブライトニアとお出掛け中のアローディエンヌは、傭兵風の男性に絡まれました。
「……獣人だったら獣人をかくまっているとでも?短絡的ね」
「可愛いのに、手厳しいね。だったら……」
うーむ、困ったわ。さっきから傭兵風の人に立ち塞がれているけれど、平和的に解決が出来そうに無いわ。
それに、彼の背が高いから見上げる首が痛くなって来たんだけど……。ブライトニアの機嫌も超悪いし……。
布を頭に撒いてる髪の毛の色は……オレンジ掛かった茶色、みたい。顔は右目尻の大きな傷が特に目立ってるわね。日に焼けていて、眼光鋭いんだけど目の色が柔らかいオレンジだからかしら。其処迄恐ろしさは感じられないわね。傷は多いけれどそれがまた様になってるって言うか、な感じかしら。
でもうーむ、ニヒルな笑いってのかしら。なんとなーく悪い大人オーラがするって言うか……。優し気な喋り方は仕事の一環、みたいな感じって言うか。
……兎に角、只者じゃない雰囲気が漂った人だわ。
「君さ、フォーナの妹のフィオールちゃん、じゃないのかな?」
ええええええ!?
ま、まさかの知り合い!?しかもフォーナごと!?と、言う事は神殿関係者!?それとも皇帝の宮殿関係!?
思わずブライトニアを見たら、……うん、さっきと変わらない胡散臭そうなって言うかゴミでも見てるのって言う失礼極まりない顔をしてるわね。美少女なんだから、その凶悪な顔芸、止めて欲しいわ。
「何なのお前。不躾に」
「ああ、ゴメンね。名乗りもせずに。俺はグレッグ。しがない傭兵医者って言うか、そんな感じかな」
へえー……傭兵とお医者さんって兼業できるのかしら。
何だかこう、インドアとアウトドアが拮抗して戦いになりそうな気がしてならないわ。
RPGのヒーラーみたいな感じなのかしら?回復できる傭兵……。そもそも、回復魔法が使える人=お医者さんなのかも……微妙ね。分からないわ。
いや、まあ……オルガニックさんも神官画家だったそうだし、何でその組み合わせ?みたいなの有るわよね。まあ、義兄さまからして悪役令嬢にして公爵だものね。訳が分からんわ。
因みに私の立場、サポートキャラの公爵夫人って……結構居そうだけど、あんまり思いつかないわね。
あ、名乗られたからには名乗り返さなきゃ。
「私は……」
「勝手に名乗って来た奴に名乗る必要有って?」
って、危ないな!!引っ張るこたあないじゃないの!!
「ちょ、つんのめるじゃないの!!」
何時の間にか作って貰ったらしい、チョコレートコスモスの花束を持ったブライトニアが、私の腕を掴みつつグレッグさんを容赦無く睨んでいる。
で、でも蹴りそうになってないだけ、まだマシかしら……。
と、思ったのに。
ブオンッ!!
んん!?
何今の風を切るような音!?お花屋さんで聞かない音がしたわよ!?
「って!!っわああ!!」
「退きなさい、傭兵医者!!」
「ブライトニア!!」
あああ蹴ってるし!!め、滅茶苦茶蹴ってるし!!止める間も無く蹴っちゃったし!!
あああ!!やっぱりあんな大きい殿方がよろけるぐらい………音波振動とか力とかを乗せて蹴ってるわね!?
何とかグレッグさんは踏み留まってくれたみたいだけど……。その辺は流石にお店の中だから流石に手加減したのか、あのグレッグさんって方の体幹の鍛え具合が良かったのか……。
ああああまたミニスカなのに、足をあんなに上げて!!
「ブライトニア!スカート!!」
「ふん!行くわよアロン」
「あ、待って!」
た、確かにもう此処に留まる必要は無いけれど!
ああええと!グレッグさんにお怪我はないみたいだし、花を入れてるバケツがちょっと移動したぐらいで、被害はないみたい。
よ、良かったわ。ブライトニア、少し成長したのね!!
「え!ちょ、あ、あ……ご、御免なさい!!グレッグさん、失礼し致します!!」
「退きなさい野次馬共!!酔狂であたくしを見るなら、高額の賠償をその身で支払わせてよ!!」
お店の人に頭を下げるのも早々に、私は野次馬の人混みを蹴散らすブライトニアに大通りまで引っ張られて行った。
凄いわ、物凄く野次馬が薙ぎ倒されてく………。ええと、音波振動のせい?
……ブライトニア、強いわね。滅茶苦茶こういう所、悪役令嬢だわ。
でも足早くて着いてくの大変!!
「ちょ、ブライトニア!!足早いし、力強いわね!!」
「そう?浮かしましょうかアロン?」
「いや要らないわよ!!それってあの……フォーナの!?滅茶苦茶空に吸い込まれそうな奴じゃ無いの!!」
それ、思いっきり出会った時のフォーナ状態にされるって事!?
あの、レルミッドさんに繋がれた風船の犬っぽかった……いえ、服の紐を持たれていた、あの時の魔法使われるって事!?
い、嫌すぎるわよ!!あの時ホント結構大変だったんだから!!
「そう?まあ、確かに最終的には空の塵になる予定だったわ。中々詩的な発言ね」
「いや、何を気にいってるの。止めて頂戴」
恐ろしい末路を聞いてしまった上に、要らん事を言ってしまったわね。
義兄さまが解いてくれて良かった。いや、その義兄さまに借りを返せって脅かされてるしな……。ああフォーナ、本当に義兄さまが御免なさい。
………悪役令嬢って碌なことしないわね。
「………ねえブライトニア、どうしてフォーナと仲が悪いの?
もしかして、其処まで嫌うような悲しい事件が有ったりしたの?」
「別に何もなくてよ」
無いんかい。
本気で昔からウマが合わないのね。まあ、だから姉妹なのに主人公と悪役令嬢なんでしょうけど……。うっ、昔は仲良かったけど誤解ですれ違いみたい、でもその後に和解な展開を勝手に期待していたのに。
「あたくしに馴れ馴れしくてウザい上に、オルガニックにまで馴れ馴れしくてとんでもなくウザい存在だからよ。そういやあの駄姉のせいであの傭兵医者に絡まれたのね」
「いえ、絡まれたのはフォーナのせいじゃないでしょ」
歩み寄りの気配が無さすぎて酷過ぎるけれど、オルガニックさんの件で余計に拗れた感じなのかしら。
イラッとしたみたいで、チョコレートコスモスの花束の包み紙をシワシワにしてるし。
しまった。変に煽っちゃったわ。
「………苛々してきたわ。駄姉でも蹴飛ばしつつ、レルミッドにコレッデモンへ送らせることにしてよ」
「いや、普通にフォーナを苛める行いは許せないし、レルミッド様も送ってはくれないわよ、ブライトニア」
「何故?あの駄姉の知り合いの傭兵医者のせいで、あたくしとアロンは不愉快な思いをさせられたのよ?」
「たかがお知り合いの責任を取れってのも無茶な話よ。それに、ブライトニアが平和的……?に連れ出してくれたんだからいいじゃないの」
お店を巻き込む大立ち回りにならなくて本当に良かったわ。
最悪バケツの10や20蹴飛ばして、お店ごとグレッグさんをブッ飛ばすもんだとばかり……内心怯えてたもの。被害が無くて良かったわ。しかし………フツーの穏やかな買い物って難しいのね………。
ドートリッシュと出た時もそんなにフツーじゃ無かったしな。そして今回も大して何も買えていないし。
「アロンは甘くてよ」
「………よくこの頃言われるわ。義兄さまとかブライトニアに甘すぎるって」
「あたくしには良いのよ。あたくしは馬鹿兄貴と違ってちゃんと言うこと聞いていてよ」
「うーん、そう……かしら?」
義兄さまに比べりゃブライトニアは……私の話を聞いてる?かしら。まあ、比べるのも良くない気がするけど………何だかこう、根本が似てる気がするのよねえ。
「それよりあの傭兵のせいでケチが付いたわね。アロン、これからコレッデモンに行きましょう」
「え、ホントに行くの!?私も!?」
「そうよ。ついでに馬鹿兄貴への土産物もコレッデモンで拾えば良くてよ」
土産物………。いや、プレゼントはお土産では無いと思うんだけど。出先から持って帰ってきたものはお土産……かと言えばそうなるのかしら?うーむ。
って、そうじゃなくて。私もコレッデモンに行くの!?
「さ、流石に国外は困るわよ」
「アロンが一緒に居てくれればオルガニックが逃げないわ」
「……に、逃げられてるの?」
何でまた。と言うか私が居たところでオルガニックさんは歓迎する……のかしら?私如き、そんな餌に出来るようなもんでも無いわよ。流石に……もう諦めて頂いてると思うんだけれど。
「ええ、少しだけ、何回か、来訪する手紙と一緒に行っただけなんだけど」
「え」
………それって、フツーにアポなし訪問って言うんじゃないのかしら。
そりゃ逃げたくなるのも頷けるような。
前に連絡してから来てよ!って仰ってたものね。
「ブライトニア、お会いしたくなったら何日か前にお手紙を出せば良いじゃないの」
「嫌よ待てなくてよ。コレッデモンは遠いから手紙が着くまで1週間掛かるの!」
「そ、そうなの………」
本当に堪え性が無いわね……。いや、前に比べりゃ辛抱出来た方なのかしら。
「だから、連絡用に鳥の獣人でも探していたんだけど、魚の方でも良いわね」
「え、そんな理由であの子達を保護したの!?」
「有用そうな手下を集めるのは必要でしょう?あたくし、閉じ込められ気味で育ったからそんなに手先が居ないし」
有用………。いや、完全なる善意のボランティア精神であの子達を拾った訳では無いんだろうなと……そういう気はしてたけどね。勿論、優しさも……有るわよね。有って欲しいわ。
鳥って、あの丸い謎の鳥の子の事よね。何の鳥なのかしら。そもそも飛べるのかしら。何故か海でもないのに魚の子は飛んでたけど。
「手先呼ばわりは良くないわ。って……ブライトニア、もしかして、小さい頃体が弱かったの?」
「いいえ?一緒に生まれた姉妹共がさっさとくたばったから、あまり外に出されなかっただけよ」
「いや、だから言い方………。でも、一緒に生まれた姉妹が居たの?嫌な事を聞いたわね、御免なさい」
「居たのは居たけど、気にしてなくてよ」
「悲しい思いをしたのね、ブライトニア」
「さあ?どんなのか覚えても居ないからどうでも良くてよ。兄弟姉妹が多いと碌な事が無いわ」
いやまあ、境遇が境遇だからそうなんだけど、危害を加えられた訳でも無い姉妹にまで酷い言い草……。
……フォーナには未だ優しい方なのかしら。……ブライトニアが乱暴な気性なだけで。顔は似てるのになあ。
「じゃあ手始めにレルミッドを捕まえに行くわよ。どうせ暇そうに鳥の世話をしていてよ」
「え、鳥?レルミッド様って鳥飼ってらっしゃるの?」
「知らないの?鳥を飼ってる一族だそうよ。本人は鳥が近寄るとクシャミが出るし猫が飼えないから嫌らしいわ」
この世界にもアレルギー有るのよね………。
しかし、鳥……。そういや義兄さまが鳥番って呼んでるわね。ツッコミたかったけど、流されて結局分からない奴。だから鳥番なのかしら。義兄さまの渾名と言うか、呼び方もホント独特よね……。渾名ってそんなもんかもしれないけれど。
レルミッド様も滅茶苦茶属性多いわよねえ。
………それにしても、ブライトニアの方が滅茶苦茶詳しいわね。私のこの役に立った例が無い前世知識の浅さが、世間知らずと相まって悲しくなってくるわ。
ゲーム知識に頼れる時は永遠に来なさそうよね……。いや、現実なんだけどさ……。やっぱりこの混ぜて考えたくなる癖、抜けないわ。
「じゃあ、何だったかしら。変な塔が王城の近くに有ったわね。あそこに鳥が溜まっているから其処に居るはずよ」
「て、適当ね……」
もしかして、残酷なえーと、何だっけ、そう、怖い名前の『残酷な愛に殉じる塔』。
……そういや、あの義兄さまが間違いなく絡んでそうな凄い火事は、森を中心に焼けたんじゃなかったかしら。立ち入りが禁止されている訳じゃ無いのね。
あそこで鳥なんか飼ってるの?益々分からないわね。
「あ!オールちゃんに、アロンさん!!おふたりですか!?仲良しさんですね!!オールちゃんと仲良くしてくれて有難う御座います!」
あれ?この明るくて可愛い声は……フォーナ!!
振り向くと、紺色の髪をショートカットにした赤紫の瞳の美少女が居た。
相変わらず可愛いわ。にこやかで軽やかに近寄って来るのがまた、ヒロインって感じでホント癒えるわねえ。……隣のブライトニアからは、あっという間にこやかさが消えたけど。
しかも何だか横の街灯、変な動きで揺れてない!?
「駄姉……」
「え、どうかしましたかオールちゃん?」
「お前のせいで不愉快な目に遭ってよ!!責任を取って」
「は、はわあ!?い、いきなり何が有りました!?」
「ちょ、ちょちょちょっと!!そうじゃないでしょ!!だから、お知り合いなだけで責任を取れなんて言わないの!!」
割って……入れないから腕を引っ張るしかないけど!!女の子の間に入るにしてもチビで非力だからどうしようもないな私は!!
くそっ!!せめて今からでも上背が欲しいわ!!牛乳飲めば良かった!!
「はわあ!?お、お知り合いですか!?い、一体何が……」
「お前の知り合いにナンパされて、あたくしもアロンも物凄く不愉快な思いをしたのよ!!」
「はわああ!?な、ナンパですか!?そ、それは大変です!!ご、ご無事だったんですね!?」
え、何故私の周りを色々回り出したのフォーナ。
私は何もされていないわよ?
「いえ、私はされていないし、ブライトニアがそもそも狙いって言うか、ナンパって言うより……別の目的が有りそうよ?」
「べ、別の目的ですか!?た、大変です!!アロンさんとオールちゃんに危機が!!こ、こうしてはいられません、侯爵邸に来てください!!侯爵様とロンさんにご相談しましょう!!あ、丁度いい所に東地区行きの駅馬車が来ました!!」
「え、何故!?ええと、単に、その……」
何時の間に駅馬車の停留所の前に来てたのね!?
って、いや、そうじゃなくて!!
獣人の子を預かってるんだけどそれに関して絡まれたのよって……何処で聞かれてるか分からないし、迂闊な事を言えないわね。
「えっと、東地区帰るんなら家に帰るわよ、フォーナ」
「馬鹿兄貴が絡むと煩いじゃ無いの。レルミッドは居ないの?アレを寄越しなさい駄姉。焼け野原の塔に居るんでしょう」
「焼野原なの……」
「大規模に焼けたみたいで、復興が遅れてるみたいですね。あ、レルミッドさんは別の場所でお仕事中なんです!!」
「何なの?使えないわね」
「す、すみません!!えっと、急にレルミッドさんはお立場がちょっと偉くなっちゃわれまして」
お偉い?王族でいらっしゃるから、偉くなっちゃったって……まさか国王陛下に電撃就任されるって……!?
そんな訳無いわね。ルディ様がいらっしゃるし、滅茶苦茶嫌がっておいでだものね。
まあ、継承者全員御が嫌がってお出でだったけど。陛下がお気の毒でならないわ。
って、どういうことなのかしら?他のお役目でもお受けになられたとかかしら?受領されたとか、封爵されたとか?義兄さまから聞いてない……と言うか、義兄さまはレルミッド様の爵位とか心底どうでも良さそうだから話のネタに上がる訳無いわね……。いかん、ホント新聞を読まなきゃ。この頃シアンディーヌの事で忙しい上に義兄さまに絡まれるから、読む暇が無さ過ぎたのも敗因ね。
「あの、元々お偉いわよね?どう言う事?」
「駅馬車の中でする会話でも無いわね。まあ、アルヴィエ侯爵邸に行ってやるわ。どうせ王城に行くにしても近いしね」
そ、そりゃそうなんだけど……。
て言うか、私がお邪魔しても良いのかしら。以前、辛いお話を聞きに上がったアルヴィエ侯爵邸に……。
そしてフォーナ、すっかりアルヴィエ侯爵邸のお家の人になっちゃった割に、駅馬車で動いていいのかしら。
私みたいな紛れるモブは立場を気付かれないでしょうけど。しかし、この華やかな可愛い顔立ちの姉妹の間に挟まれると本当に私って存在が薄いわねえ。
道行く人がフォーナとブライトニアをガン見してるのに、真ん中の私は全く見向きもされないし。
変な兼業職業が多い中、傭兵医者って普通な気がしますね。
そしてフォーナ登場です。4の登場人物が多くなってきましたね。




