4.連れが可愛いからナンパされるのは分かるけど……
お読み頂き有難う御座います。誤字報告、拍手誠に有難う御座います。
アローディエンヌがブライトニアと贈り物探しに出かけます。
…………うーん、日差しは明るいし、どのお店も活気に満ちているわ。
思わず伸びをしたくなるわね。背筋が伸びそう。
久々の外は賑わっているわね。
本当に久々にシアンディーヌから離れて外出したけど、こうも解放感に浸れるなんて………。勿論シアンディーヌは可愛いけど、可愛いだけじゃ無いしなあ。
それに普通の子供連れの方の暮らしならこんなリラックス出来ないでしょうし、私って恵まれているわね。
「アロン、あそこにチョコレートの山があるわ。あの山を5個くらいオルガニックにどうかしら。積み上げた山の中からあたくしが飛び出して、チョコレートの中でオルガニックと愛を」
「ちょ、止めましょうブライトニア!!」
………いかん、ボケッとしてる場合じゃなかった。
目を離さないでおこうと思ったのに、早々にこれ!?お、恐ろしい考えを止めないと!!
何でこんなタイムリーにチョコレート山積みの店の前に通り掛かるのよ!!くそっ!!王都に長らく住んでるのに全く土地勘がない私が悪いんだけど!!
「大好きなチョコレートの中であたくしと戯れるのよ?オルガニックにとって望外で大喜びな素晴らしい考えじゃなくて?」
止めた筈よね!?
発想が一周回って元に戻るのはどうしてなの!?
「いやだから!何処からそういう考えに至れるの!?そもそも食べ物を粗末にしちゃ駄目だってば!!」
「恋愛小説を読んで参考にしてやったのよ」
「そんな破廉恥な内容なの!?間違いなくブライトニアが読んだら駄目な年齢制限の本じゃない!!」
「オルガニックが嫌がったから、あたくしちゃんと未成年向けを読んだわ」
「えええ……?」
未成年向けー?ほ、ホントかよと言いたくなるんだけど。
「前に騎士団で拾ったのより挿し絵と語り口が子供向けなだけで、おためごかしもいいところね。中身は大して変わり無くてよ」
え、マジなの……。
最近のティーンズ向けは、異世界でもあからさまにエゲツないんだなあ……。
それ、間違いなく成人向けではないの?みたいなティーンズ向けも前世では有ったしなあ。うーむ、何処でも変わらないのかしら。
「オルガニックさんは、グイグイ来られるのは苦手でいらっしゃるんじゃないの?」
「……………そうだったわね。つい、オルガニックに襲いかかりたくて」
お、襲いかかりたいんだ……。やっぱ、と、止められて良かったわ。
でも止められて良かった。ブライトニアをショボンとさせちゃったけど良かったわ。
今、私オルガニックさんを……とてもサポートキャラらしく救った気がするわ。多分。
「ほ、他には何か………あるでしょう?」
兎に角何とか軌道修正したいところね。えーと、周りに何か……。
あ、お花屋さんがあるわ!
小さいけど、カラフルなお花が綺麗にディスプレイされているわね!うん、あれなら良さそうかもしれないわ!大量に買わせなきゃマトモな贈り物だし!うん!きっとそうよね!上手く行って欲しいの信じてるわ!!
「お花屋さんよ、ブライトニア!!見ていかない?」
「オルガニックはお花が好きなのよね。ミルクティーとチョコレートも」
あ、適当に言ったけど……そういやそうだったわね。
まあ、ご本人から聞いてないオールティム様からの情報なんだけど。ブライトニアもあれから好み情報アップデートされてないのかしら。………されてなさそうね。きっとお会いするとテンション上がりきっちゃうんだろうなあ。連れ込み宿は流石にホントにどうかと思うけど。
「ティム様はそう仰ってたわね。お可愛らしいものがお好きなのかしら」
「ティムを呼べば良かったわね。こんな重大な時に何故草原なんかに追いやられているのかしら。あたくしの役に立てる栄誉ある機会をフイにするなんて、無礼だわ。本当に使えない男ね」
酷いわ。其処まで罵らんでもって位に罵るわね……。しかも別にティム様を嫌いじゃないらしいのよね、この言い草で。
話に出したのは私だけど、こんな往来で王子を罵ったら駄目でしょう!?しかしそうストレートにも叱れないな。何か人目が多くなってきた気もするし。
「いや、あの方が草原にお出でなのは………ある意味罰で自業自得だけど、流石に散々な罵り過ぎるわ、ブライトニア。それに草原なんかってレルミッド様の大事な故郷をけちょんけちょんに貶すのは駄目よ」
「草原には何もないド田舎で帰りたくないってレルミッドが言っていてよ。精々苦労するといいんだわ」
「出身者が言うのと他の人が言うのとでは違うのよ、ブライトニア」
「ふん、まあいいわ。アロンの言うことにも一理あるから引いてやってよ」
肩口にグリグリ頭を擦ってきたわね。
蝙蝠ウサギ時にもよくやるんだけど、撫でろって。
………端から見たら迫力ある美少女がチビなモブに頭を擦り付けてるってどう思われて………あ、遠巻きにされてるわ!!お花屋さんに地味に人だかり出来てるのに、営業妨害してる!?
「何?アロン、不愉快なのでもいて?」
「い、いえいえ。何でもないの」
いかん、選ぶにしてもとっとと選ばないといけないわ。
ついでに義兄さまへの贈り物?も此処で買おうかしら。
うーん、薔薇に、牡丹に、何かよく分からない細かい花に………色とりどりね。冬なのに。園芸もサッパリ出来ない私には、どういう魔法なのか分からないけれど、シーズンオフなお花を咲かせる術が有るの?何かスペシャルな機能の温室とかかしら。流石に化石燃料は………見たことない気がするわ。
「アロン、オルガニックにはどっちが似合うかしら」
「ええとそうね……。ちょっと待ってブライトニア」
ブライトニアが指差していたのは、茶色の………菊?かしら。それに、赤みの強いものや、オレンジの線が入ったとか、似た花が幾つか。何だか甘い匂いがする、どれもとても可愛い花ね。
「どれもチョコレートコスモスと言うらしいわ。こっちの赤いのと茶色のはオルガニックの瞳に似ていてよ」
「そ、そうね」
………オルガニックさんの瞳の色ってこんな色だったかしら。前に至近距離で見た気はするんだけど、暫く有ってないからイマイチ記憶が定かじゃ無いなあ。髪の毛は卵多めのクリームみたいな色だった気がするのよ。ええ、多分。
確かに、ブライトニアが今首に巻いてる私のあげたリボンの色に似通ってるかしら。まあ、オルガニックさんラブなブライトニアが言うんだから間違いないわね。
「臙脂色と茶色。オルガニックの瞳の色だわ」
「可愛いお花よね」
茶色系のお花が冷たい冬の風にサワサワと揺れて、ふわっと薫る。その側で微笑むブライトニアはオルガニックさんの事を考えているのね。
可愛いわ。可愛いし、頼むから健全で過ごしている想像をしつつ微笑んで居て欲しいわ。妄想過多な私が言うのもなんだけど。
て言うかコスモスって秋の花じゃないのかしら。今、冬なんだけどホント季節感は何処へ行ったのかしら。やっぱり気になるな。
……まあ、多分何か不思議でファンタジーなメカニズムが何とかしてるのよね、きっと。
そもそもこの世界、最早知ったところで意表を突く分からん物が多すぎよ!!逆ギレしたくはないけれど!
「これを持って行けばオルガニックは喜んでくれるかしら」
「ええ、控えめな量をお持ちすれば喜んでくださると思うわ。だからお花が浸けてあるバケツから手を離しましょう」
何でこんなにみっしり入ってるバケツを動かそうとするのよ!!
ああ何かガタガタ鳴ってるし!テンション上がって音波振動発動してない!?してるわね!?
ああ、店員さんが不審そうな目を向けている!!
「店員、花束を作りなさい。出来るだけ巨大なのが良いわ」
「いいえ、控えめなオルガニックさんには普通の大きさが喜ばれると思うわブライトニア!大体花瓶の用意が大変よ!」
何で巨大にする必要が有るのよ!?
………悪役令嬢って、皆プレゼントの物量戦に持ち込みたがるのかしら。義兄さまは迷惑なくらいに勿論だけど………。もしかして、1の不破ミズハと2の日向アリアもそうなのかしら。どうだったかなあ。うーん、この頃イマイチ思い出せないな。日常にかまけていて脳が老化してるのかしら。嫌だわ。
「…………あ」
そういや義兄さまにも何かプレゼント頂戴って言われたんだったわ。
………お花で良いんじゃないかしら。あーでも消えものじゃ煩いかしら。
でも、私が何か残るものあげたら………擦りきれる迄使ってくれそうよね。それに変な物をあげたら見かける度にダメージが。困ったな。どうしましょう。
……義兄さまから常に色々頂いてるしなあ。結局編み物もシアンディーヌが生まれてから捗った例がないし。まあ全然言い訳なんだけどね。……何せ今まで忘れていたわ。投網は絶対に編まないし編めないけど、何とかしなきゃ。
「どうかして?アロン」
「えーと、義兄さまに何を差し上げようか悩んでいるの」
「馬鹿兄貴?そこの間引きした草でも投げつけてやればいいんじゃなくて」
「いやだから!不用品を勧めないで欲しいのだけど!」
て言うか、隠すように置いてあるゴミ箱の中身にまで目敏いわね!!お花に集中して欲しかったわ!!
「大体馬鹿兄貴の好きなものって、アロン以外に存在するの?」
「………そりゃ有るわよ。そんな流石に私が至上みたいな恐ろしい事は無いと思うわ」
「じゃあ何なの?」
「……………えーと、義兄さまもお花が好きだと思うわ。矢鱈買ってくるし」
「アロンを飾りたいからでしょ。馬鹿兄貴が自主的に趣味に没頭しているの見たこと有って?アロンと関係なさそうな趣味のモノなんか見たことないわ」
「……………そ、そうかしら?」
た、確かにそうかもしれないな。趣味……何でも出来るチートな義兄さまだけど、趣味……。結構べったり張り付かれてるし付き合いは長いけど見た事無いわね。
「馬鹿兄貴に捕まってからあたくしは未だ日が浅いけど、断言できてよ。ルディ辺りに聞けば肯定するわ」
「そ、そうかしら……。あ、ルディ様に伺えば義兄さまのお好きな物が判明するかしら」
「ルディに聞くの?そう言えばルディはオルガニックとまあまあ仲が良いわね」
仲が良い……良い方かしら。
オルガニックさんがかなり遜っておられて臣下みたいな感じだから、仲が良いというか……。いや、身分差が有るから仲が良いとか言う問題じゃないか。性格のせいもあるけれど、うーむ。殿方同士の関係はよく分からんわね。
「取り敢えず、私も義兄さまに何かお花を買っていくことにするわ。何時もお世話になっているし、欲しいらしいし……贈りたい気もして来たし」
「赤けりゃいいんじゃなくて?」
「そんな適当な……」
確かに義兄さま=赤かド真っ赤なイメージだけど。えーと、どれにしようかしら。
「お嬢さんも何方かに贈りものですか?」
「はい?」
……傭兵かしら?顔に傷の有る男性が声を掛けて来た。
大柄な方ね。義兄さまより大きいかしら。サジュ様位身長は有るかなあ。
歳は……20後半から~30代ぐらいかしら。コレッデモン王国の方々みたいな感じよね。この頃私の精神年齢も下がって来た気が凄くするしなあ。
「其処のお嬢さんとの会話を聞いてしまって。お兄さんに、と聞こえてね。兄弟仲が良いんですね」
「あ、いえ……」
え?あ……しまった、つい義兄さまって呼んでたか。
つい名前で呼ぶの忘れるのよね……。
「何なのお前。馴れ馴れしくてよ」
「ブライトニア、失礼でしょう!」
思わず手を出しそうな勢いで睨むブライトニアの手を引いてしまった。
……お店が壊れるような事になったら困るわ。
「見知らぬ女に声を掛けてくる方が失礼でしょ。邪魔よ。あたくしとアロンの邪魔をするんじゃないわ」
「はは、手厳しいね」
全く意に介していないわ。向こうからしたら小娘が吼えてらあ位なのかしらね。まあ、確かに私達なんて大きい殿方から見たら無力な小娘共よね。
ああ、実力を見誤って、変に手出ししてこないと良いんだけど。
もし、ブライトニアがキレたらその辺が……更地にでもなったら!!お、恐ろしいわ。
変な手合いのナンパで無いと良いんだけど。ブライトニアを怒らせたく無いわ。
「ちょっと聞きたいんだけどね。可愛いお嬢さん達、獣人の子供達を知らない?4人居るんだ。」
……えっと。
…………これって。
ウチで今休んで貰ってる、あの……獣人の子達……の事なの!?に、人数迄ピッタリなんだけど。
「獣人がどうかして?」
「うん、その子たちに用事が有ってね。探してるんだ」
「じゃあ勝手に足を棒にして探せば?あたくし達、忙しいの」
「うん、こっちも闇雲は勘弁願いたくてね。ふたつ結びの髪が可愛いお嬢さんも獣人だよな?」
え、……何でバレたの?
……呑気にお花買ってる場合じゃ……無くなって来た気がするわ。
顔に沢山の傷の有る割に、あまり怖くない雰囲気が怖い……この人。
この傭兵っぽい人、何者なのかしら……。
美少女が連れだと起こるナンパイベントですが、不穏っぽいですね。




