一緒に住んでいても謎が多いわ
お読み頂き有難う御座います。
義兄さまはアローディエンヌを飾りたいようですね。
「アローディエンヌう、服を仕立てなあい?」
義兄さまは何故そう唐突なのかしら……。
昼下がり、お昼寝した子供達の揺り籠……と虫籠を眺めてたら唐突に部屋から連れ出されたわ。
今更だけれど、特異な環境よね……。
「要りません。ですが、何か服を仕立てる催しが有るんでしょうか?」
王妃ジーア様の快気祝いパーティーとかならいいわよねぇ。是非参加したいわ。
陛下とティム様が懸命に看病なさってるそうだから、お元気になられたのかしら。
「催し? そおだなあ、私とアローディエンヌとお着換え会とかどお?」
「要りません」
……まあ、義兄さまがそんな催しのお知らせを私にしてくれる訳が無いのよね。
「えー、なんでえ?」
「何でも何もないでしょう。
義兄さまが増やされてるのか、衣装棚にいつの間にか沢山増えてるからです。充分に感謝してますわ」
「ふふう、今日も僕の見立てがよく似合ってるよ。かあわいい、アローディエンヌう」
今着てるのが襟がシンプルで裾が華やかな青のサマードレス。なのだけれど。
コレも、一昨日まで棚に入ってなかったわよね……?どうなってるの、あのギッシリのクローゼット……。その割にゴチャゴチャしてないし……。どう片付けてどうなってるのよ、アレは。四次元に繋がってるとか何かなの?
「裾のフリルが好きかなと思って! お花足してもいいよね。アローディエンヌって涼しげなのが似合うからね! まあ、僕のアローディエンヌに似合わない服無いけどお!」
「似合わないかは置いておいて。ええ素敵ですわ、有難う御座います。
今有る分で充分ですから、お着替えは要りません」
「んもお、似合うよぉ! んー、じゃあ香水かなあ……。最近調香師がアローディエンヌに似合いそうな宵闇ぽい香りを」
「この前集中豪雨だかなんだかの香水頂きましたわよ! 義兄さまご自身のを誂えてくださいな」
「僕の香り? えー? 変えたほうが良い?」
「むがっ!」
相変わらず甘くて頭がボーっと痺れる良い香りだわ……。爽やかさとか決して無いのだけれど。何の匂いかと言われれば……何かしら。花よりも、複数の果実寄りの香り? うーむ、分からないわ。
……そういや、あまり昔から義兄さまって香水を変えられないのよね。お洒落なのに、意外だわ。
「抱きしめるとお、黙って思案してるじゃなあい? アローディエンヌ好きかなって思うんだけど」
「ええ、とてもとてもいい香りですわね。苦しいので離してくださいな」
「でしょお? でも何だかおざなりだなあアローディエンヌう。あっ、飽きた? 変えるう?」
「いえ別に。義兄さまはご自分のお好きな香りを纏われれば宜しいと思います。だから、離してくださいな!」
「んもお、つれなあい!」
つれなあい! じゃないのよ! まだ離さないし!
でも、香りかあ……。
「義兄さまの無差別魅了は、香りに関係しますの?」
「え? 体臭ってこと?」
「……言い方……。まあ、そうですけれど」
……私も、大概義兄さまに夢を見てるわよね……。でも、信じられないくらい美しいからなあ、このひと。
この美しい唇からなんかこう……発して欲しくない言葉があるとか大概よね。滅茶苦茶残酷なのに。俗なことも結構知ってるみたいだし。
「そおだなあ……。
アローディエンヌ以外をぴったり寄せ付けたくないから、分かんないかも!」
「……義姉さまのお姿で参加されてた舞踏会とか、どうされてましたのよ。離れて踊ってた訳が無いでしょう」
「ふふう! 舞踏会で私が? 有象無象とは踊らないに決まってるじゃなぁい!」
えっ、そんな自信満々に舞踏会ボイコットしてたとか言う!? 何しに行ってたのよ、当時公爵令嬢でしょうに! 誰にも怒られ……無かったんでしょうね。でも……何処にいたのかしら。
「まさか、義姉さまが壁の花をされてましたの!?」
「壁の方がマシだねえ。
ショーンの横に居させられたよお。迷惑だったなあ」
「あ、そうだわ。王族の方々は、上階におわせられるのでしたっけ……」
普通、同じフロアにおられないわよね。
それに、当時公爵令嬢の義姉さまが、ホイホイ婚約者(当時はルディ様よ)以外踊らないか……。
嫌だわ、王族を軽々しく考えちゃったかも……。
……でも、ルディ様は私と踊ってくださったわよね。滅茶苦茶苦手な曲目だったから死ぬ気で踊ったけれど。
あのダンス、今更謎だわ。本当に何故だったのかしら……。
「まあ、普通にショーンとも踊ってないよ。でも無計画に燃やしたら、後始末が面倒だったからね。我慢したよお。
偉いよね僕。アローディエンヌ、褒めてえ!」
「……義兄さまはもっと王族の方々(御親戚)を重くお考えくださいな」
「僕も王族だけどお? アローディエンヌもね!」
「義兄さまとシアンディーヌとアウレリオは兎も角、私は付随してるだけですわよ」
「えー、何言ってるのお! 可愛くて高貴な立場なんて、アローディエンヌに一番相応しいのにい!
あ、アローディエンヌが王妃になりたいなら何時でも叶えてあげる!」
「不敬ですし、その地位は要りませんわよ!」
隙有らば、親族を抹殺しようとするのやめて欲しいわ! 王族だから!
「まあ、体臭で寄せ付けるって確かに虫みたいだよねえ。あ、シアンディーヌに遺伝してるかもって心配?」
「いえだから体臭って……。いえ、単なる好奇心でしたが、それもありましたわね」
「毒でも吐けるなら、気軽に身が守れるけどねえ。香りで魅了するなら面倒かも」
「そもそも、何の芋虫なのかも分かりませんしね」
「まあ細かいことはいいじゃなあい。区分けしたところで、芋虫は芋虫だし」
「そうですけれど……」
あんな赤い芋虫、自然界に居るのかしら……。後、出来るだけ毒は吐かないで欲しいわ。吐いた毒の掃除のやり方も分からないし……。塩素系の洗剤とかの出番なのかしら。塩素系洗剤が此処に有るのかすら不明だけれど。
「アウレリオはまだ弱いけど、アローディエンヌに似てるねぇ」
「目の色だけですけれど」
「魅了無効の瞳だよ。アレは好ましいね」
「えっ、そうなのですか!?」
だから、赤ちゃんなのに無表情気味なの!? 変なもの受け継がせちゃったわ……。
「きみたちが同じ色の瞳で見つめ合ってると、可愛いよねえ。一瞬暗闇に沈みそうでぽわーってなるよお」
そんなウットリ見られても困るコメントね……。暗闇ってなあ……。沈みたくないでしょうに。
でも……近いな義兄さま。近い……。
うっ、この凍りそうな……今蕩けてるけれど。兎に角、この薄い青の眼で見つめられたいと思うのが魅了なのかしら。顔のせいなのかと思っていたけれど……。
「義兄さまの場合、魅了は眼なのでしょうか?」
「後ろ向いてても集ってきたから、違うかもお」
「……迷惑ですわね」
「そおなんだよ」
真面目に話してるのに、頬を膨らませないで欲しいわね……。そんな顔も無駄に妖艶で腹立つわ。
「そおいや、初代国王の時代に、魅了の話が有ったねえ」
「ええと、『死骸動かし』の国王陛下ですか。ネクロ……死霊使いな上に、義兄さまのような魅了をお使いに?」
義兄さまに輪をかけた感じ? 凄いチートだわ……。流石創世神話的な感じなのね。
「ううん、それの嫁らしいよ」
「それとは何ですか、不敬な……。ええと、初代王妃アリカ様ですか? 初代国王陛下の愛妻の」
そして2の悪役令嬢日向アリアの娘で世界を超えて国を興す方と御結婚かあ……。
設定いえ、キャラが濃いなあ。
「そお。初代国王の名前は伝わってないけどお、何故か嫁の名前は執拗にネチッこくその辺に残ってるんだよねえ。石像とかで」
「ですから、失礼でしょうが! 義兄さま!」
「見えもしない死人に失礼も何もないよお、アローディエンヌう?」
「気持ちの問題です」
「大体僕、嫌だけど子孫だからねえ。迷惑千万な能力を引き継がされた先祖を扱きおろす権利、有るんだよねえ」
「無差別魅了は、確かにお気の毒だとは思いますけれど……」
「アローディエンヌと出会えず居てくれるからあ! コレ無いと困るけどね」
「……『魅了無効』がお役立ちで何よりですわ」
何か引っかかるわねえ。別にその通りなのだけれど。
努力もせず手に入れたスキルを褒められてもなあ……みたいな。
あ、義兄さまはそのモヤモヤを嫌がっておられるのね。
「あの時僕を助けてくれたアローディエンヌの勇敢さ、本当に素敵だったよお」
「子供を襲う輩は許せませんでしたのよ」
「だよねえ。
まあ、僕以外なら死に絶えてても棄て置いて良かったよお? ショーンとかティミーとか」
「何 て こ と 仰 い ま す の! 何方でもお助けしましたわよ!」
「だよねえ……」
「まあ、あの方々は私なんぞの助けは要らないと思いますけれど」
「何言ってるのお。隙あらば利用しようとしてるよあの馬鹿従兄弟共!
あーあ、アローディエンヌが僕だけにメロメロになれば良かったのにい。
好きな子を魅了出来ないなんて、こんなの世界一役に立たないよねえ」
「唯々諾々と魅了されるのはちょっと……」
というか、顔に出ないだけで美男美女にはドギマギするし、結構ワタワタしてはいるのよね。物理的に顔に血が昇らないし心拍数も上がってないだけで……。
……自分の体だけど、どうなってんのかしら。体調が凪ぎ過ぎでは。
あ、でもスキルが欠けた時は心拍数上がってた気もするわね。ちょっと前なのにかなり前の出来事のよう。
「あ、その辺は加減するよ」
魅了の加減って何なのよ。余計怖いな。
「止めてください。無駄ですから」
「キッパリ断れるアローディエンヌって、素敵!」
「ぐえっ!」
義兄さまは何時でも傍に寄ると暑いわよねえ……。
鼓動もやたら早いし。早死になさらないか心配だわ。
……でも悪役令嬢だしなあ。憎まれっ子世に憚るのよねえ。普通に、きっと。
「……殺しても亡くなりそうに無かったですわね」
「誰を殺したいのお?」
「義兄さまが長生きされそうという比喩ですわよ」
「ふふう、そお? 死ぬ時は一緒だよお、アローディエンヌう。んー」
「むがっ」
矢鱈私のネックレスをジャラジャラ鳴らしながら、キスされた!
首筋触られるとゾワゾワするわ! しつこいな、何なのよ。
「それで、アリカ様のお話とは?」
「えーっとお、魅了の能力を馬鹿にされたから同士討ちさせたんだっけ」
「物騒な……」
もっと軽やかなお話……ではないわよね。魅了だものね。戦場のロマンスなんて血生臭いものだとは思うけれど……。
「まあ、馬鹿にされたらそのくらいやるよね」
「義兄さまは、軽い侮辱程度では軽率にやらないでくださいな」
「僕を侮辱した時点で、顔面は消すよお?」
「……確かに公爵家には体面が大事ですが、顔を焼く残酷行為の前に言葉での抗議を」
「僕を侮辱する有象無象に、僕と喋れる未来は無いよお?
顎関節を黒焦げにしといたら骨が外れて直ぐに命が落ちるから」
「具体例よりも対話をしてくださいな……」
残酷表現を聞きたい訳じゃないってのよ!
「まあ、余程疲れてるとか面倒でもない限り自分で手を下すよお。同士討ちなんてみっともない」
「みっともない……。まあ、みっともないですけれど」
「手心加えてるかもしれないし」
「どういう心配ですの」
今日も義兄さまはそこはかとなく謎よね……。
結局、魅了については、操って同士討ちも可能とか後ろ向いてても勝手に掛かるとか……。
厄介だという事しか分からなかったわ。
前とあまり変わらないわねえ……。
知りたいことは知らない内に。




