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サポートキャラに悪役令嬢の魅了は効かない(その後の小話集)  作者: 宇和マチカ
王城では穏やかに

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悪役令嬢は張り合うものなの?

お寒い中、お読み頂き有難うございます。


「『前世混じり』に『巻き戻しの塔』ねえ……」


 世にも麗しく甘い美声が耳をくすぐるけれど、頭の上がウザったらしいわ。……しかも暑いのよ。

 何なのかしら、藪から棒に。話の導入が適当なのよ。まあ、義兄さまに礼儀正しく話しかけられても、身構えるけれど。うーむ、我が儘かしら?


『前世混じり』は私やオルガニックさんのような、

 転生者のことよね?


 謎なのは『巻き戻しの塔』だけれど、正体が分かったのかしら。この前ティム様に聞いたっきりだわ。巻き戻しの言葉がこの世界に無いのが驚いたわね。デジタル機器が無いから、そりゃそうなんだけれど。義兄さまのことだから直ぐに解き明かしたのか、そうでないのか……。


「何ですか、義兄さま。

 暑いのでいい加減離れて頂けません?」

「ええー!? やだあ! 僕がくっつきたい時にくっつきたあい!」

「いや、今はシアンディーヌとアウレリオが居ますでしょ」

「別によくなあい? ふたり共寝てるし」

「ぷふー、もふー」

「……」


 ……家族仲が良いのは素晴らしいことだけれど。

 何故全員私にへばりつくの。大きめの長椅子は四人じゃ狭いし全員体温高いから、暑くて堪らないわよ。贅沢だけれど、もうちょっと距離を保ってくれないしら……。成長したら、子供達の方が遠慮しそうね。それは悲しいかも。

 しかし、こう並ばれると似てるなあ……。私の遺伝子はシアンディーヌの髪色と、アウレリオの瞳の色だけかしら。


「なあに? 僕がアローディエンヌの一番で、滅茶苦茶可愛いでしょ?」

「子供達と張り合わないでくださいな。

 大人げないでしょう」

「えー? 僕ってちょおーっと前は未成年だよ? そんな程度で大人になる訳なくなあい?」

「未成年の頃から、大人として公爵されてますでしょうが!」

「あんなの誰でも出来ないからやらされてるだけで、どうでもいーよお?

 あっ、何時でも投げ出して領地引っ込めるからね? 明日にする? 今晩?」

「……明日以降もその才能で、恙無く公爵をお勤め上げくださいな」

「ええー?」


 ええー? じゃないのよ。隙あらば領地に引っ込もうとするわね。

 しかし、王城も人材不足なのかしらねえ。騎士団に優秀な方々がおられるというものの、あまり優秀な貴族の話は聞かないし……。ユール(ウチの)公爵家の派閥とか無いのかしら。普通、貴族を束ねて率いるものよね? 今となっては全く見ないわ。


 元養い親の時は、決起集会的な? 集まりとか開いてたわよね? 義兄さま(あの時は義姉さまの姿だったけれど)がよく被害に遭っては返り討ちにしていたようだけれど。

 ……。思い出したら腹立ったわ。……開かなくていいわね。下手したらシアンディーヌとアウレリオが危ないわ。あの子達は可憐で可愛い子供達だもの。親バカかしら。


 しかし私、国内ならアルヴィエ侯爵様とこの前代替わりされたバルトロイズ子爵のサジュ様しか知らないわね。

 それって、公爵夫人として最悪な部類の社交嫌いなのでは……。でも、社交しようにも、義兄さまが許可しなきゃ誰も呼べないものね。

 地味に最近、ブライトニアしか来てないわ……。他国の方が貴族の方々のお知り合い多いわよね。その内、コレッデモンの四騎士の皆様に、公爵夫人らしい心得のご教授賜りに行こうかしら。


 って、うん?

 急に膝が軽くなったわ。その代わり体の左側面にべったりと張り付いて来られたけど。どういう体温されてるのかしら。


「義兄さま、シアンディーヌとアウレリオは何処へ」

「お昼寝させに行ったあ」


 さっきから義兄さまは私に張り付いていたから、何時の間に使用人が連れて行ったの……?

 相変わらず手回しが良いわね……。長年住んでるけれど此処のシステム、どうなってるのよ。子供の頃は他力本願な使用人ばっかりだったというのに。義兄さまの人材集まって本当に凄いわあ。其処は尊敬するのよ。其処は。


「……何か重要なお話ですの?」

「アローディエンヌの眼の前に変な塔が現れたら、入っちゃ駄目だよ」

「はあ? 何ですかそれ」


 いきなり変な塔が現れるって、トリックかマジック? あ、魔術か魔法かしら。ファンタジー世界だものね……。私は何も扱えないに等しいから偶に虚しいものではあるわ。


「それって、巻き戻しの塔のことですか?」

「それ。

 ティミーが適当に話を放置したでしょお」

「単に、残酷な愛に殉じる塔が眼の前に有ったからのお話では?」

「ティミー、思わせぶりなことばっか言うからね。あんなのに優しくしないでいいよお」

「義兄さまも大概ですわよ」

「ひどおい! アローディエンヌが聞いてくれたら大体何でも話すのにい!」

「大体とは……」


 聞かなきゃ話してくれないことも、たんまり有りそうよね……。気を張らないとなぁ。


「そおだなあ。

 昨日、陛下が王妃ジーア様を見舞いに行って冷たいんだかなんなんだか。そーんな思わせぶりな態度を喰らわされたらしいよ。くだらないよね」

「不敬でしょう! ご夫婦の繊細な間柄のことを茶化さないでください!」

「そもそも、陛下って碌でもない女しか引っ掛けられないよね。旅先で口説いた女は死に逃げ出したし、薄赤い屑は言うまでもないし」

「旅先の女性は存じ上げませんが、ロージアの毒牙からは逃げられて幸いですわよ。陛下に失礼ですわ」

「まあね。アレはもう二度と何処にも出てこられないからねえ」


 ……義兄さまは、何をしたのかしらね。薄情だけれど、アレだけ嫌な目に遭わされたから、ロージア(ヒロイン)の冥福はお祈り出来ないわ。

 終わったもの凪いだものとしたいけれど、心がザワつくものだわ。


「ジーア様は家族想いの良い方ではありませんか」

「甥と娘のことしか考えてない風を装ってるけど、陛下のことも憎からずじゃなあい」

「えっ、まあ! そうなんですか!?」

「食いつくねえ、アローディエンヌったらあ!」


 はっ、しまった。

 つい義兄さまに詰め寄る……必要がない位くっつかれてるから近い!


「何で他人の色恋沙汰がそう好きかなあ。

 僕という、アローディエンヌを愛してやまない可愛くて素敵な伴侶が居るのにい!」


 自分で言うからなあ……。そりゃその通りなのだけれど。何故余所の色恋沙汰が好きかと言われても、好きなんだもの。前世から乙女ゲームユーザーだもの。まあ、結構忘れてきてるけれど。


「お知り合い……この際はご親戚ですが。お幸せな姿に繋がる機会って素敵じゃありませんか」

「ふーん、恋愛小説見てるみたいな感じかなあ」

「そうですわ、そうです!」

「本は己に当て嵌められるけど、親戚の色恋沙汰なんて生々しくて気持ち悪いよ」

「何てこと仰いますの! ……? どうしました、義兄さま」


 何で急に手を取られたのかしら。手首、首、両耳……アクセサリーをジャラジャラ付けられてる場所ばかり触られる。


「……もう、塔に入ってしまってる」

「は?」


 間近に迫る薄い青の瞳が、揺れている。

 何の話なの? 塔って……結局残酷な愛に殉じる塔にも登ってないし。義兄さまも知ってるものね。


「誰か君に触れようとした」

「ブライトニアですか?」

「フロプシーじゃない。気配が魔力じゃないな。似てるけど、僕じゃない」

「私、王城にこの前ブライトニアと行ったっきり何処にも行ってませんけれど」

「それ以外で……ああ、夢? だから気づかなかったか。……女? 古い店……」


 アリア、と名乗る……ええと、ゲームの……悪役令嬢と会ったのだったかしら。

 アクセサリーベタベタ触られただけで、何で其処まで分かるの? いえ、いわく付きなのは知ってるけれど……どんなチートアクセサリーなの、コレ。


「塔の前で一瞬眠りこけてしまいましたけど、その時のお話ですか?」

「やってくれるなあ、その女。名前覚えてるう?」

「アリア、と……言う方でしたかしら。青い髪と、赤い瞳の凄く綺麗な方で」

「容姿に関しては、私の方が上でアローディエンヌの最愛の好みってことで良いよね?」

「いや、話の流れ。何で其処で張り合うんですか」


 ブライトニアにも言われたわね。

 悪役令嬢同士は、美で張り合うお約束でも有るの?

 ジャンルの違う美しさって有るでしょう! と思ったけれど……そうジャンル違いでもないのかしら。

 不破ミズハ、日向アリア、アレッキア、ブライトニア……。

 似通ってる美しさも、有るような。

 張り詰めた気高くて、ハイスペックで。脆さも有る美しさ……。


()()()()、可愛いでしょお?」


 だから、話の流れ!! そんな真剣にムクれながら言うことかしら!? ていうか、散々褒めを要求するわね!? まさか悪役令嬢って、どの子もそうなの!? うーむ、ゲンナリしてきそう……。顔は動かないから声だけだけれど。


「……ええ、お可愛らしいですとも。ご満足くださいな、義兄さま」

「なあんか、話を進めたくて無理矢理言ってるう! アローディエンヌったら、悪うい! そんな所も可愛いよお」

「アレッキオ!」

「ねえー、僕のアローディエンヌう。

 僕の為に声にも感情が乗るようになって大声も出せるようになったアローディエンヌう。僕の可愛い伴侶アローディエンヌう!」

「いや、分かりましたって、何なんですか! 狭い!! 痛いでしょうが!」


 子供達が居ないのに迫りくるから、肘置きがめり込んで脇腹が痛い! 何時ものことだけれど毎回痛いのよ!


「僕に向き合ってしがみつけば解決なのに、何で毎回反対に避けるのお」

「迫られたら、普通に逃げ出したくなるんです」


 真剣な顔してると滅茶苦茶迫力あるのよ、義兄さまは。

 普段はどうってことないのだけれど、寄られたら逃げたくなるのよね。


「アローディエンヌったら、恥ずかしがり屋さんなんだからあ!」

「ですから、夢で何処に行こうが義兄さまのお傍に戻ってるでしょうが」

「まあ、そおなんだけどお……」


 腑に落ちないようね。流石に夢はどうにも出来ないわよ。


「アリア、アリカ……ねえ。ティミーを締め上げるかな」

「ティム様は特に何もされてませんでしょう」


 相変わらず傍若無人なんだから……。

 はあ。逃げても無駄だけれど、暑いのよね……。そう言えば、ティム様が初代王妃の話をされていたわね。名前は、アリカという方だったわよね。


「アリカという方が、その内生まれる娘だと言ってましたわ」

「……成程ねえ……。それだと、引き擦りやすい訳か。有難うアローディエンヌ。大体解けた」

「はい? 何がですか?」

「土着の女神像有るでしょ? あの顔の怖いやつ」

「恋を愛する女神像、でしたかしら」

「初代国王が、死んだ王妃を偲んで手を加えた像なんだよね、アレ」


 手を加え……? でも、初代王妃様ってお美しかったのではないかしら。あの像、外出しなさすぎる私は滅多に見ないけれど……顔滅茶苦茶怖いわよね?


「……その割に顔が怖いような。いえ、失礼ですけれど。

 でも、そんなこと、国の成り立ちに書いてあったかしら……」

「王室典範の? えーあんなの読んだの? アローディエンヌ」

「あんなのとは何ですか。普通に必要かと思って読みましたけれど」

「貴族年鑑も邪魔だし棄てたいんだよね」

「せめて新たな版が来るまで、本を大事にしてください」

「うん、アローディエンヌがそおいうと思って取ってるだけだよ」


 貴族らしさの欠片もない意見ね……。余所はどうだか知らないけれど……。


「と、とりあえず。初代国王陛下が女神像に手を加えたら、何が起こりましたの?」

「普通に強い呪いの像になったよ」

「そう、普通に……はあ!?」


 な、な、何ですって!?


「詳細は省くけど、土着の神って大体呪われてるんだよね」

「か、神様の像なのにですか!?」

「増えたり消えたり欠けたり割れたりするよ」

「四則演算!?」

「まあ、触ったりしなきゃ何もないから、と思ってたのに不覚を取ったよ。

 アローディエンヌが狙われるとはなあ……」

「まさか、恋を愛する女神像……初代国王陛下のアリカさんへの思いが、呪いを強く……。

 でも、私、塔にも女神像にも近づいてませんけれど」


 ブライトニアと馬車で王城行った時、ニアミスでもしたのかしら。初代国王陛下の愛が深いのは良いのだけれど、呪いのパワーアップはかなり迷惑じゃないかしら……。何をされたのかしら。


「急に眼の前に現れるらしいよ。塔の姿じゃなくてもね。コレッデモン王配フランジール・ノイエンドーヌは塔だけど中で骸骨を見たって言ってた」

「ノイエンドーヌ様も……」


 骸骨、怖いわね。……ん? え、ということは。

 夢で見た……まさか……あの金物屋さんって、『巻き戻しの塔』なの!?

 そんな馬鹿な……。

 だって、あの金物屋さん……なんて名前だったかしら。兎に角、そんなファンタジーなお店では……。普通に金ダライとかお鍋とかタワシ付きのマット売ってたわよ!? それに、ええと。微かの記憶に……イケメンがいた気がする! 関係ないかしら?


「だから、帰ってきてねアローディエンヌ。迎えに行くから」

「ええ、勿論帰りますわよ。

 無駄に家を空けると、子供達もアレッキオも心配ですし」

「其処は僕への愛で必ず帰ってよお!」


 う、煩いわ……。でも、帰ることが出来て良かったと心から思うの。

 流石にもう、異世界転生はしたくないわ。此処にいたいの。強くそう思うわ。


死骸を連れて攻め込んで建国した初代ドゥッカーノ国王は、チートでトリッキーなキャラらしいです。


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矢鱈多くなって来たので、確認にどうぞ。
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