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サポートキャラに悪役令嬢の魅了は効かない(その後の小話集)  作者: 宇和マチカ
王城では穏やかに

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焼け跡から見える景色

お暑い中、お読み頂き有難う御座います。

「何処か、行きたい所は有りますか? どうですアローディエンヌ」

「あの……ティム様。観光ではないのでそう言われましても……」


 滅茶苦茶気楽に聞いてこられるけれど、適当な感じね……。本当にアテとか無いのかしら。

 ………無いんでしょうね。有ったら調べ尽くされておられるでしょうし。


「観光気分で気楽にどうぞ。

 アローディエンヌが楽しんでくれると、アレッキオへの弁解も楽ですし」


 べ、弁解……。何を為さる気なのかしら。あんまり危ない事を為さらないと良いのだけれど。王城が被害に遭ってはならないわ。タダでさえでも義兄さまが燃やしてるってのに。私も変な所でコケないようにしないと。

 義兄さまがイチャモンをつけないように……。


「何故、馬鹿兄貴にアロンの弁解が要るのよ。

 アロンは、あたくしの傍らを離れず彷徨きまわる権利があるわ。

 このあたくしが認めていてよ」

「ブライトニアの傍限定なのね……」

「アハハ、懐かれてますねえ」


 そんな朗らかに嘲笑われる事かしら……。

 ご両親が見つかれば、少しでもこの毒気が抜けてくださるかしらね。でも、素直な好青年のティム様か……。とても人格矯正は今更無理では無いかしら。良い方になられるならなられるでいいのだけれど、そんな都合よくいかない気がするわ。


「ティム様は、ご両親の事を何方かにお聞きになられたのですか?」

「取り敢えず両親を覚えているマトモそうな方々には、全てお聞きしましたね。

 陛下、ジーア伯母上、ノエミ・クレモンティーヌ伯母上、アルヴィエ侯爵……バルトロイズ前子爵と近衛騎士アルヴィエにも普通にお伺いしましたよ。

 マトモでない方々には、まあそれなりに」


 成程。きっと皆様快くお話なさったでしょうね。ただ、ティム様がマトモでない方には何をされたのかは、聞きたくないわね……。

 この方和み系の外見にそぐわず、かなり苛烈だからなあ……。

 ……いえまあ、苛烈を秘めてらっしゃらない御知り合いの方が少ないけれど。

 チート級のお知り合いしか居ないのは、何故なのかしらね……。


「ふーん。マトモでないのが生き残っていて? 火事で燃やしたんだと思っていたわ」

「当時領地に居たのもいますからね。早々中々駆除は難しいんですよ。

 悪運が強いのが細かく残っているので大変ですよ、アハハ」


 その穏やかな笑顔と笑い声がとても怖いわ……。

 擦れ違う女官や文官達が床に張り付く勢いでお辞儀して道を譲ってくれてるのに……。いや、王族でおいでだからその辺りは当たり前、なのかしら?

 しかし、物騒トークを廊下でしてしまって、本当に申し訳無いわ……。

 せめて何処か個室で……。


「ろ、廊下で話し込んではお邪魔ですわよね……」

「どうしました? 我々、第二王子と隣国皇帝と筆頭公爵夫人ですからねえ。普通に敬ってもらわないと。

 大概僕らは此処で何をしても良いんですよ?」

「気にすることなくてよ、アロン」


 そんな傍若無人を当たり前な顔されても……滅茶苦茶良かあないわよ……。見た目はキツめの美少女と穏やか美青年だから、つい騙されそうだわ。

 しかし、このふたりもゲームの内容によってはくっつくのか……なーんて考えちゃうわね。リアルは有り得ない組み合わせなのに……。


「私は働く人達の迷惑にならないよう、先ずは人気のない所から探したいですわね……」


 まあ、ナチュラルに王族だものね、このふたり。それで納得するしかないわね。

 公爵家生活も長い筈なのに、どうも前世から培われたシミったれた庶民気質が抜けないのよねえ。

 貴族としてツンケンしたい訳では、決して無いのだけれど。

 この辺に格の差を感じるわね。


「人気のない所ですか……? 襲われちゃいません?」

「じゃあ、お前だけ遠慮なく襲われなさい。あたくしとアロンは返り討ちにしてくれてよ」

「私は普通に返り討ちするのが無理よ、ブライトニア」


 義兄さまが変な護符? のアクセサリー(襲われると相手を燃やす)を私にシャリンシャリン煩い程付けて取れないものだから、多分大丈夫でしょうけれど……。いやでも発火するしなあ。危険な目に遭うのも普通に嫌だわ。

 それに、油断は禁物よね。


「アローディエンヌの装飾も、以前より凝ってますよね。威力が華やかになってますし」

「そ、そうですか……。やはり」


 威力が華やかって、何なのよ……。

 うーむ、何かまたデザインが知らない内に変わってる気がしたけれど威力迄変わってたのね……。

 下手に変な感じで発動しないと良いのだけれど。王城を破壊するとかそういうのは遠慮したいわ。


「おや。アローディエンヌ自体は戦えないんでした?」

「ええ、愚鈍な身の上で申し訳御座いません。

 ですが、ティム様の危機に一瞬の盾くらいには」

「絶っ対に止めてくださいね。アレッキオに拷問されたく無いので。

 そんな事をされるくらいなら、君をこの命を賭して守りますよ」


 し、真剣に真面目に止められたわ。

 ティム様にこんな食って掛かられるの初めてかしら。いつも取り止めなく笑っておられるのに……。一体このアクセサリーに何が仕込まれてるっていうの……。


「じゃあアロンを守って誇らしく死になさい。

 その死んだ足で死んだ親に会いに行けば良くてよ」

「いや何なのよブライトニア、死んだ足で誇らしくって! 

 と言うか本末転倒ですわ、ティム様! それに、例えばのお話です! 今の王城で、王子殿下が襲われたら洒落になりませんわ!」

「いえいえ、アローディエンヌに守られるなんて例えとしても怖いですよ。

 アレッキオを本当の敵に回す位なら、僕ひとりで遠くの他国に亡命します」


 焦った濃い緑色の目に滅茶苦茶真剣に見つめられたわ……。義兄さま、一体ティム様へ何をしたっていうの……。聞こうにも、はぐらかしそうで腹立つわね。


「本心は死なない程度に守って、両親を弔って寿命を全うしてから会いたいんですよ」

「ティム、往生際の悪い愚かしい注文が多くてよ。

 アロンの為、潔くくたばりなさい」

「いや、そういう話じゃないでしょう。ブライトニア! 

 ティム様のご両親を探しに行く話でしょう! なるべく静かに穏やかに!」


 何で私の為にティム様が死ぬ話になってんのよ。しかも、お使いのついでみたいになってるし!


「静か……。それでは燃えた森とかどうですかね。植林が進んでますよ。僕も手伝わされてますし」

「まあ……」


 そうなのね。

 義兄さまが巻き起こした王都の火事から、もう何年も経つもの……。

 ……義兄さまは責任取ってないわよね、絶対に。あのひとこそ植林するべきではないかしら。

 似合わないな……。せめて何か出させるように言わなきゃ。


「森に埋まった死骸なんて山程有るんじゃなくて?」

「流石に王家の森は、気軽に人骨を棄てに行くには面倒が多いと思いますよ。

 少ないと思うんですがね」

「お前の祖母の変な王女とやらが矢鱈埋めてそうじゃなくて?」

「うーん、それもそうですねえ。たっぷり有りそうですよね。でもそれはそれで良いのでは?」


 いや、だから会話が物騒でダイレクトなのよ……。ギョッとした顔を隠す、擦れ違いつつお辞儀したままの人々に申し訳ないわ……。

 義兄さまと歩いてても大概物騒で、慣れてしまった自分が嫌だわ……。


「アローディエンヌ、森を歩きますが足は平気ですか? 

 靴を取り替えます?」

「あたくしが浮かせてやっても良くてよ、アロン」

「浮くのはちょっと……」


 それって、私の意思でどうにか動けるものなのかしら。ブライトニアの事だから、悪いようにはしないでしょうけれど……。


「いいんじゃないですか? アローディエンヌがヒラヒラ浮いていたら、虫の妖精みたいで可憐ですよ」

「虫の妖精……」


 そんなの居るのかしら、と思ったけれど何を隠そう我が娘シアンディーヌが芋虫だものね。

 虫の妖精位バンバン居そうよね。どんな外見なのかしら……。そもそもシアンディーヌは、何の芋虫なのかも未だ不明だし。


「奥方様、こちらのお靴を」

「あ、りがとう?」


 い、何時の間にか廊下のど真ん中で囲いが作られて椅子まで用意されている!

 ボケッとしてる間に、淡いブルーの薄い布靴から飴色のショートブーツに履き替えさせられてしまったわ。

 ウチの使用人のステルス力も吃驚だけれど、何故囲いなんて大きな物を……。何処にそんな荷物を抱えて目立たないよう付き従っているのよ……。


 まさかラノベ御用達の、空間収納でもあるのかしら。

 うーむ、義兄さまはフツーに荷物……武器だけれど持ってる時も有るものね……。鞄とか持ってる所は……あまり見たこと無いかも。


「何だかこの殺風景な中彷徨くと眠くなってきたわね」

「あ、ブライトニア」

「歩くの面倒だわ」

「僕が抱いて運びます?」

「あたくし、アロンが良くてよ」

「えっ」


 急に腕を抱いて凭れ掛かってくるから吃驚したわよ! まさか今、私に運ばせようとしてる!?


「えっ、ちょっと! 駄目よブライトニア。

 ティム様のご両親を探すんだから、蝙蝠ウサギになっちゃ駄目!」

「何か見つけたら教えてやってよ」

「いや、何時もブウブウとかしか聞こえないわよ!」

「僕も蝙蝠ウサギ語、判りませんしねえ。

 他の言葉は近隣で扱われる程度しか聞き取り不可能です」

「無能な男ね、ティム」


 普通に有能だと思うけれど……。私も義姉さまのついでに付けられた家庭教師が適当だったお陰で、この共通語しか話せないもの。


「私も普通に分からないからティム様を罵らないで、ブライトニア」

「仕方ないわね……」


 鼻まで鳴らして、滅茶苦茶嫌そうだわ……。でも、変身しないってことは納得してくれたみたい。


「じゃあ、森でお茶にします? 休憩が必要ですし」

「森で、ですか……」


 素敵なお申し出だけれど……。

 森って、テーブル設えるような場所有るのかしら。


「未だ未植樹の焼け跡は平らですから、其処にしましょう」

「や、焼け跡……」

「焦げ臭く無くて?」

「流石にこれだけ経ってるので、燃えカスに混じって草とか生えてますよ」

「あら、掃除もさせてないの? 無能ね」

「下手に掃除させると、物的証拠が破損されたりされたら困りますし。

 だから、今はルカリウム一族と僕しか入れないことになってます」

「お前が何か変なものを埋めてるんじゃなくて?」

「ブライトニア!」


 ルカリウム一族……レルミッド様も入れると言うことかしらね。

 レルミッド様には霊感無いのかしら。


「でも、何故森なんでしょう」

「兄上様が見掛けた母上らしき後ろ姿は、森でも見掛けたそうなんです」


 て、手がかり有るんじゃないの! 私、揶揄われたのかしら。


「無駄口を叩きながら、『母親』が彷徨いたところを引きずり回してくれてるって訳ね。性格の悪い男ね、ティム」

「偶には離れている知己と語らうのもいいじゃないですか、フィオール・ブライトニア」


 これでもこのふたり、仲は悪い方じゃないのだから、困ったものよね……。もう少しで森かしら。

 長い廊下の窓の外には、シルエットだけれど塔が見えるわ……。

 近付くのは初めてかもしれない。いえ、初めてだわ。

 あれが『残酷な愛に殉じる塔』なのね。あれが……。

 いや何だか……思ったよりも尋常でない量の鳥が集ってるわ。あんなに沢山の赤白の鳥が居たとは……。


「まあまあ、アローディエンヌ。取り敢えずお茶にしましょう。君は本物のか弱い貴婦人ですしね」

「何がどう私が本物で貴婦人らしいのか不明ですが……有難う御座います?」


 ティム様は虫の妖精やら貴婦人やら、よく分からない評価をくださるわよね、さっきから。

 あれ。……また私がボケっとしてる間に、森の奥の方にテーブルと椅子が設えているわ……。


 奥には、『残酷な愛に殉じる塔』

 行ったことがない割に、私の運命が変わった場所……。


「何あの塔。赤茶けて小汚いわね」

「小綺麗にしてはいけないんですよ。薄汚く保たなきゃいけないんです」

「掃除をサボってるだけじゃなくて?」

「それも有ります。

 普通に大変らしいですよ、本物の鳥の巣みたいなものですから」


 ……ええい、シリアスになれないわね!





残酷な愛に殉じる塔は、今の所平和利用中です。

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矢鱈多くなって来たので、確認にどうぞ。
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