王城が秘めるもの
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王城に付いたら、とある人物に絡まれました。
「相変わらず変な結界に覆われてるわね。こんなのあたくしに掛かれば直に塀を乗り越えられるわ。
簡単よ、アロン」
「そうなの……。
取り敢えず塀を乗り越えずに門から入って、おしとやかに、おしとやかーに! 歩いて王城へ入りましょうね、ブライトニア」
アレ程言ってるのに、何故塀を乗り越えたいのよ……。
王城って、変な結界に覆われてるのか……というモブらしき感想もオチオチ抱いてられないわね。
ええと。
このドゥッカーノ王都は結界に覆われていて、他国から入るのは簡単だけど、他国人が出るのには許可が要る……システムなんだったわね。
その中でもきっと、王城はセキュリティが厳しい……んだわ。
まあ、よくブライトニアに乗り込まれてるけれど、チート悪役令嬢だから其の辺は仕方無いわよね……。
……あれ。
「ねえ、ブライトニア。出る時許可を貰っている?」
確か、他国人は出る時は許可が無いと出られないのよ。行きは良い良い帰りは怖い……と言うのを地で行ってるのよね。
……許可の取り方ってどうするのかしら。出入り口でお金でも払うのかしらね。後で調べておきましょう。うう、長年住んでるのに何も知らないわ。
「あたくしは好きな時に好きなように出入りしていてよ」
「……ね、ねえ、ブライトニア?
貴女、皇帝という手続きや法を護る立場よね? 好きなように過ごすのは良くないわよ」
「前にディマに言ったり言わなかったりしていてよ」
「へっ、陛下に!? と、歳上の殿方を呼び捨ては良くないわよ……」
「いいのよ。あたくし、皇帝だもの」
「そうだけど! 外交とか外聞がね」
「気にしなくてよ。そう言えば、ティムにこの前会ったわ。あの男、本当にウザったくてよ」
国王陛下にティム様……。ブライトニアに諭して差し上げて……くれないかしら。
特にティム様は、気楽にブライトニアが塀を乗り越えるの許可するだろうなー! 何気にルディ様も許可されそう!
あの方々、本来従兄弟だけれど、時々凄く似ておいでなのよね……。不敬だけれど、偶に享楽的な所とか……。
「それより本は何処かしら」
「図書館……かしらね」
そういや、あまり王城の図書館って来たことが無いかもしれないわ。
何というか……用事のある時にしか来たことが無いのよね。
「其の辺の詰所に転がってる本でも良くてよ」
「よ、余所の方の私物を勝手に見ては駄目よ。この前を思い出してねブライトニア」
「レルミッドの叔父あたりに何か言われたわね、そう言えば」
覚えてる割に直さないんだからなあ……。何で悪役令嬢って堂々と自分勝手なの……。
「お知り合いの方の私物も勝手に見ては駄目なのよ、ブライトニア」
「あたくし、私物は特に無かったからよく分からないけれどそうなのね」
「ブ、ブライトニア……」
何てこと……。ブライトニアは、放置されて生きてきたから……あまり物に執着が無いのか……。
私があげた首に巻いた臙脂のリボンも、縒れてる……。
「どうしたの、アロン」
「御免なさい、ブライトニア。
是非貴女に贈り物をさせて頂戴。そのリボンを大事にしてくれて有難う」
「あら良くてよ。アロンからなら受け取ってやるわ」
「今度は何色のリボンが良いかしらね。青も似合うかしら? それとも服が良いかしら」
「服ならオルガニックが織ってくれたり手下が寄越したり、ルーニアに貰ったりしたわね」
「そうなの? 沢山贈り物が有ってよかったわ」
「そうね。前よりは持ち物も増えてよ」
胸を張るブライトニアは可憐だわ。
孤独だった彼女が愛されていて……うっ、つい目が潤む……気がする。
感情高ぶってるのに、何で通常通りの湿り気なのかしらね、私の眼球は。
「それにしても、ひと一人会わないのは何故かしら」
……ここ、王城よね。普通にお勤めの方々と擦れ違う筈では?
玄関ホールから廊下に入ったけれど、最初ドアを開けてくれた衛兵さんとニアミスしただけで、他は全く人気が無いわ。
「壁の向こうには誰かのさばって居てよ。蹴破ってやりましょうか? アロン」
「そりゃ誰か居られるでしょうね。
お邪魔してるのに、のさばるとか言っちゃ駄目だし、蹴破るのはもっといけないわよ!」
流石に王城で、殺人事件は嫌すぎるわよ。
「やっぱり、侍女を連れて来るべきだったかしら」
「アロンの使用人なら、其の辺に彷徨いてるじゃない」
え?
いや、後ろに誰も居なかった……わよね?
「御用でしょうか」
「……!? い、何時の間に……。い、いえ、特に今は何も無いわ」
「畏まりました」
け、気配が消えた……。え、どうなってんの? と言うか……馬車に、居た? え、外に乗ってたとか?
「た、偶に幽霊が居たのかしらって思うわね」
「ルディじゃあるまいに、幽霊もオバケも認識出来なくてよ」
「え、ルディ様? ルディ様って霊感有るの?」
土をお人形状にして、操れるのは知ってるけれど……霊感持ちかあ。
あんなに王子様然とされていて常にキラキラされてるのに、何気にルディ様も属性多いわよねえ。
……うーむ、能無し地味モブなの私だけでは。
「ルディは胡散臭いもの。何が出来るのか不明よね。
勿体ぶるの好きみたいだし何を考えてるのか得体が知れなくてよ」
「いや失礼でしょう、ブライトニア」
「おや、其処にいるのはフィオール・ブライトニアにアローディエンヌ。
相変わらず仲がいいですね」
……そのお声は……に聞き覚えは無いけれど。この何と無く引っかかる言い方、ティム様かしら。
声変わりされたの、聞き慣れないなあ。
「あらティム。図体がデカくて邪魔さが増したわね」
「あはは、フィオール・ブライトニアは相変わらずですね。
僕が可愛らしく可憐になっても怖いだけでしょう」
そ、そうだけれど……。
いやそうじゃなくてよ。
草原に行かれて長身の影のあるイケメンになられたけれど、相変わらず得体が知れないなあ……。お顔の怪我は、少しばかり薄くなられたかしら。
「お久しぶりですね、アローディエンヌ。相変わらず微動だにしない小動物のようです」
び、微動だにしないとは……顔面のことよね。それと、伸び悩む身長のことかしら……。いやいかん、ツッコミは後で、カーテシーしなきゃ。
此処は王城で、ティム様は王子様で私は臣下なのよ!
「お久しぶりで御座います。ご機嫌如何でしょうか、ティム様」
「ふたりに会えたので、上向きですね」
「お前、常に苛々してるものね。感じ悪くてよ」
「アハハ、そうですね。
でも、フィオール・ブライトニアも嘗てそうだったじゃありませんか。コレが僕の基本系なんで諦めてくださいよ」
「お前の機嫌なんて、どうでもよくてよ」
「相変わらず手厳しいですね」
「ブライトニア、失礼でしょう! 申し訳御座居ません、ティム様」
「そんなに急いで逃げずともいいじゃありませんか、アローディエンヌ」
うっ、後退りがバレた!
嫌な予感が漂ってるから、早くこの場から逃げ出したいのに!
「何なの? お前の相手なんかしてる暇無くてよ。あたくし忙しいの」
「王城に探し物ですか? もしかして、此処の宝物か何かに興味が出たんですか?
アローディエンヌなら、アレッキオに頼めばどれでも直に手に入るでしょうに」
「ほ、宝物は必要有りませんわ。
全て王城に相応しいと思いますので、持ち出しはいけませんわね」
要らないし、王城の宝物ならパクれば? って、とんでもないこと言い出されるわね⁉
と言うか、そんなこと頼むもんですか! 義兄さまが嬉々として持って帰って来そうで、滅茶苦茶嫌よ!
「そう言えば、フィオール・ブライトニアは音波振動で色々探せましたよね」
「何なの? お前の頼みなんて聞かなくてよ」
「そうですか。所でこのマフラー、師匠に頂きましてね。重ね重ねお礼を言わないとと思っていたんです」
「え、凄いですわね」
マフラーっていうと、コレ編み物なの? ファッションには疎いけれど、大判の高級な布を仕立てたみたいに艷やかで素敵。
滅茶苦茶布みたいに綺麗で細い糸で、花咲き乱れる綺麗な森が編まれているわ……。ティム様の黄色のお召し物……王族の装束にもよく馴染んでいるみたい。
オルガニックさんの腕前は職人さん並みね……。
神官画家だったかしら。流石絵を職業にされていただけあるわ。
「……名前が入ってるわ」
「ええ、ティミーって入ってますね。夏向きのも有りますよ」
「ブライトニア、顔怖いわよ」
……この綺麗な模様の滅茶苦茶よく判りにくい所にデザインとして名前が入ってるわね。よく見つけたな……。そしてガン見するブライトニアの顔が滅茶苦茶怖い……。美少女なのに、瞳孔開いてるわよ。
「あたくし、貰ってないわ」
「え、色々貰ってるでしょう? 帽子を貰ったって言ってたじゃない」
「名前入りは、無くてよ」
ぎ、ギリギリ言ってる……。蝙蝠ウサギ時並みに滅茶苦茶歯ぎしりして、今にも足をダンダン踏み鳴らしそう……! 心なしか、室内なのに風、いえ振動が……! 何だか前髪がバサバサ吹き荒れてきた!
「何でお前がオルガニックから名前入りの贈り物をされているのよ」
「やだなあフィオール・ブライトニア。僕とニック師匠は長い付き合いですよ。贈り物を交わすのは当然でしょう?」
「……オルガニックさんは、義理堅いのですわね……。ほら、ブライトニア。伴侶の貴女が悔しがる必要はないでしょう?」
「名前入り……」
「ブライトニア……」
いかん、名前入り手作りグッズが欲しすぎて私の言葉が届いてないわ。
何て罪なことを為さるのよ、オルガニックさん! でもブライトニアの性格なら今から帰って強請りそうなものだけれど……。珍しく、留まってるわね。
偉いわブライトニア! 我慢を覚えたのね!
「でも、無理矢理作らせるのも大変ですしね。師匠もお忙しい身の上ですし」
「……オルガニックは有能なの。暇なお前とは違ってよ」
「偉いわ、ブライトニア。オルガニックさんを想いやれる心が素敵よ!」
「アハハ。
謙虚な伴侶のフィオール・ブライトニアから強請るのもお恥ずかしいようでしたら、図太い僕から然りげ無く頼んであげましょうか?」
「……まあ、お前がどうしてもそうしたいなら、そうすれば良くてよ」
あ、其の辺を揺らしてた振動が止んだ。浮き上がってたツインテールも下に落ちたわね。
「それで、少しばかりお願いを聞いて欲しいんです」
「仕方無いわね、少しだけ聞いてやってよ」
……こ、交渉が上手い……。
滅茶苦茶流れるように自分を手伝わせる方向へ持って行かれたわ……。
「この王城の中に、僕の両親が埋まってるみたいなんです。手を貸して貰えませんか?」
「……え」
「アローディエンヌも共にどうです?」
「まあ、退屈しのぎにはなるんじゃなくて?」
ちょっと待って。
ティム様のご両親……というと。
「ティナ様と、その御伴侶の方……ということですわね? ついに何か、手掛かりが」
「いえ物理的なことは何も無いんですが」
無いんかい! 有りそうなのに!
「兄上様が、ジーア伯母上に似た女性を王城で見かけたと聞きましてね」
「……ルディ様が⁉」
それで何で……埋まってるってことになるのかしら。ルディ様には霊感がお有りになるから? 亡くなっておられないとか、他人の空似説とか……他にも考えられそうだけれど。
「それ、ジーア本人なんじゃなくて? 離婚したいとかほざいてても、王妃なんだから彷徨くでしょ」
「残念ながら、伯母上はアレから弱られて殆ど寝たきりなんですよ。血が足りず魔力が安定せずですから、彷徨くのは精々同じ階位ですね」
やはりまだお体がお悪いのかしら……。酷い怪我をなさってたらしいものね。
「口は達者ですが」
「お前の伯母ならそうでしょうね」
「ブライトニア!」
「それで、フィオール・ブライトニアでしたら埋まっている物を見つけられるでしょう?
どうです? 王城探検は如何でしょうか」
「……まあ、他国の城を見物するのもオルガニックへのお土産話になるわね」
「……乗り気なのね、ブライトニア」
ティム様のお母様で、行方不明のティナ様。
他国のご出身『魔法使いディレク』様の双子のお嬢様のおひとり。
王妃であらせられるジーア様の片割れ……。
どんな方を伴侶に迎えられた、とか。どんな性格の方だった、とか。何時行方をくらまされたのか、とか。
謎に包まれているのよね……。
悪役令嬢は伴侶に対して夢見がちです。他へはおざなりです。




