読書が趣味の悪役令嬢
お読み頂き有難う御座います。
アローディエンヌが家に帰ってきたら、来客襲来で御座います。
「帰ったのね、アロンにシアンにアウル」
「ただいまって……ブライトニア。窓から入るのはアレ程止めてと言ったじゃない。危ないでしょう」
「……」
「もあーん、ニアちゃまー」
やれやれ旅行から帰ってきた割に疲れてないな……と思って自分の部屋に入ったら、美少女皇帝が本とお菓子片手に寛いでいたわ。まあ、お気に入りのクッションまで横に置いて。
見慣れてはいるけれど、一瞬何のドッキリかしらと思うわね……。見た目は滅茶苦茶可愛らしいお人形のようなのだけれど……血の気多いからなあ。
「細かいことは気にしなくて良くってよ。あたくし、大概の事は力ずくで捻じ伏せてきたもの」
「それが心配なのよ。
……そうだわ、そう言えば魚を預かってくれたのだったわよね。
急で御免なさい、驚いたでしょう?」
「ええ、年寄りの物書きの魚よね。
問題ないわ。あたくしとオルガニックの伝記を書かせていてよ」
……早速私利私欲に満ちた有効活用している辺り、とても悪役令嬢らしいわよね。
というか、サラッと受け入れてくれたのは良いのか悪いのか……。かといって、他に……残酷じゃない手立て……うーむ……。
本当に良いのかしら。
「私の身内? かもしれないのだけれど……、受け入れて良かったのかしら。いい人では無いのだけれど」
「聞いていてよ。
あの魚、魚顔じゃないアロンに似てないわね」
「魚顔って個性的な顔、中々居ないわよ……」
私はのっぺり個性無さげのモブ顔だしね……。
「遠い血縁なんて其の辺に居たからどうでも良くてよ。役立つかそうでないかだわ」
ブライトニアの家族は……一部を除いて疎遠だものね……。苛烈な性格も有るけれど。そもそもオルガニックさん以外の人間にあまり好意的ではないけれど。私には未だ優しいわよね……。
「いやまあ……でも、ご迷惑よね」
「迷惑になった時に責任を取らせるから、取り敢えず撫でなさいアロン」
……うーむ、ブレないわね。
頭を押し付けられたからつい撫でたけど、相変わらずサラサラした髪だわ。蝙蝠ウサギ時のモケモフな感じとはまた違うのよね。
「ニアちゃま、シアンもーもわーあー」
「我慢出来ない女はモテなくてよ、シアン」
「……」
私が抱いてるアウレリオは兎も角として、シアンディーヌは体を左右に揺らしながらの匍匐前進? が早くなったなあ……。もうブライトニアに辿り着いてる……。芋虫歴も長いからかしらね。
そろそろ普通に歩いてくれる割合増やして欲しいわ……。
一般的な子供ではないから匍匐前進? で良いのかしら。
あ、義兄さまは仕事が有るとかでこの部屋に来なくて良かった。ブライトニアが居ると煩いものね。まあ、気付いてるとは思うから急に来るかもしれないわね。面倒だわ。
「シアンディーヌをあやしてくれて有難う、ブライトニア」
「未来の義妹ですもの、構わなくてよ」
「ももあえーん……もーすーもー」
「あ、寝てしまったわ」
「変な姿勢で寝るわね」
「た、確かにね……」
アウレリオは大人しいけれど、シアンディーヌは落ちそうになるからなあ。
今もブライトニアが支えてくれてないと、長椅子から落ちるわね……。
「それで、今日は遊びに来てくれたの?」
「ええ。火山に遊覧してきたと聞いてよ。熱かった?」
「か、火山ん⁉ 行ってないけれど!?」
どこ情報よ、それ!
火山って、火山……!? いや、温泉近くに火山は有ったけど……それ!? そんな危険な場所に家族で行くと思われてるの!?
「いや、近くの温泉に行ってきたのよ……」
「聞いてよ。火山の湧き水でしょ。火山で間違いないんじゃない」
ドートリッシュとの会話でなんとなーく思ってたけど、この世界って温泉はメジャーじゃないのか!
せ、説明が難しい!
「火山に沸かされたら、水は水として存在出来ないわよ! じゃなくて、火山から少し離れた……ええと、温かめの池! ……かしら」
湖……規模ではないわね。沼でもないし。あ、温かい泉だったかしら。名前が泉なのに。
「池? 池で何をするの」
「お風呂にするのよ。泉だったかしら」
「泉でも池でもどっちでも構わなくてよ。
どの道不衛生ね」
お風呂嫌いなブライトニアにそう言われるとは……。いや、人に入れてもらうのは好きなんだっけ? あの子分としてしまった彼等にお世話されてるんでしょうね……。女の子も居たから其の辺は安心だけれど。
「いや湧き水というか、中身はお湯になった地下水なのよ……」
「お湯? 罪人でも煮るの?」
「何でよ煮ないわよ……!
いや、食材なら煮炊きものに使う事もあるかしら……」
「そもそも、火属性と水属性が揃っていて何故他国の熱い池とやらに行くのか意味不明ね」
「……いや、私の魔力はショボいからお風呂を仕立てる程水が出ないのよ」
うう、夢と魔法と溢れてるかは知らないけれどな世界で、情けないトークだわ……。
私も異世界無双出来ると信じていた時が……無かったわね。義兄さまのチートを目の当たりにした時から即無かったわ。因みに義兄さまは出来るわ。何故知ったかと言うのは黙秘するわ。
「馬鹿兄貴に属性と魔力を吸い取られてるからでしょ」
「え?」
吸い取られてる?
どういうこと? え? そんな事出来るの?
「だから、何をどうしたのか知らないけど。
元々無さそうな水属性を馬鹿兄貴が扱えるのは、アロンの魔力を吸い取ったせいよ」
「……は? あのひとそんな事出来るの?」
「普通なら不可能ね。木属性なら吸収は一時的に出来るとかほざいたティムも居たけれど」
「え、そうなの?」
と言うか……、ティム様そんな事出来るの!? 木属性怖! と言うかあの方自体が普通に怖!
「馬鹿兄貴がどうせアロンの知らない間に色々としたんでしょ。
医者に掛かった方が良いんじゃなくて?」
「え、私改造されてるの?」
悪役令嬢って人体改造もするの!? 嫌だわ、とってもしそう! でも、改造って、何をされたのかしら……。特に美人になったとか屈強になったとか、何も無いな……。子供の時から変わらずか弱いモブだし。
「でも、私改造された所で何の屈強さも無いけれど。義兄さまの手先にもなれてないし」
「馬鹿兄貴の屈強な手先になって何の得が有って?」
……義兄さまの手先になって得……。
特にないな。今と何か変わるかしら。
「私が屈強になると、義兄さまは安心できるかしら」
「やめなさい。馬鹿兄貴にこれ以上貼り付かれたいの?」
「……まあ、人間身の程を知るべしよね」
そもそも義兄さまに勝てる相手が……あまりおられないわよね。
敢えて言うならレルミッド様と死闘を繰り広げないで欲しいくらいかしら。
そもそも、私以外の誰でもいいけれど……。もし何方かが死闘を繰り広げたら誰も生き残らない気もするわ……。
お強い方々が多いものね……。後、義兄さまに貼り付かれるのは面倒だわ。
「このクッキー、まあまあね。オルガニックの焼いてくれたものの次に褒めてやってよ」
この子もね……。耳のすぐ上で結ばれたツインテールを揺らして人参クッキー食べてる所は可愛らしいんだけどなあ。
「やっぱりブライトニアって人参が好きなの?」
「白詰草もまあまあ食べてよ。遠慮なくあたくしに柔らかい草を寄こしなさい。多少苦くても良くてよ」
「……味覚はウサギ寄りなのね。蝙蝠としての好物は有るの?」
「そもそもあたくしは蝙蝠ウサギだもの。
蝙蝠が何を喰らうのか知らなくてよ」
「そうなの……。獣人さんの味覚も色々多様なのね……」
確かによく知らないな……。
蝙蝠とウサギがドッキングしてるように見える蝙蝠ウサギだけれど、謎が深いものね……。
背中の付け根とか撫でてもイマイチよく分からないし。
「ふすー……」
「アウルも寝たのね」
「まあ本当に」
ソソソっと何時の間にか寄ってきた使用人が、子供達ふたりを抱いて隣の部屋に寝かせに行ってくれたわ……。
相変わらず気配がゼロで忍者のようね。本物に会った事無いからイマジナリー忍者だけれど。
「此処の本も大概読んだけど、他の蔵書も読みたいわね」
「大概!? あの量を……?」
大きめの図書室に収納されてるウチの蔵書も結構あると思うけれど……。も流石に読みきれてない。
まさか、全部読んだのかしら。凄いな悪役令嬢!?
「ソーレミタイナに図書館はないの?」
「レギが仕事を押し付けてくるから、あっちではあまり呑気に読めなくてよ」
「ちゃんと皇帝のお仕事出来てるのね、偉いわブライトニア」
「そう! そうよアロン! あたくしは褒め称えられて当然なのよ! 撫でなさい!」
自信満々に頭を擦り付けて来さえしなけりゃ……。まあ、其処が可愛いのだけれど。
「それで、此処に無いなら王城かしら。アロン、一緒に来なさい」
「王城に? まあ、それは構わないけれど……先触れを出さないと」
窓から見える空は、ゆっくりと赤くなっている。近くとは言え、今から王城にお邪魔するのはちょっとマナー違反よね。
「勝手に塀を乗り越えたら良くてよ」
「いや良くないし、私によじ登れる能力は無いわよ!」
「安心なさい、浮かせるわよ」
「滅茶苦茶驚かれるから止めましょうよ……。それに、もう遅いし明日にしましょう、ブライトニア」
「ブギィ……グゲ……」
「……相変わらず身代わりが早いわね」
もう泊まるとなると、蝙蝠ウサギに姿を変えて膝によじ登って来たわ。スカートを前脚でガリガリしてる。抱けってことかしら。
さて、義兄さまを説得しなきゃな……。耳の先だけ黒くて他は薄茶色のグラデーションの掛かる柔らかい垂れ耳が擽ったいわ。
しかし、生まれつきグラデーション髪ってどうなってるのかしらね。不思議だわ。
基本、どの悪役令嬢も己に自由です。




