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サポートキャラに悪役令嬢の魅了は効かない(その後の小話集)  作者: 宇和マチカ
人形劇とアローディエンヌ

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墓の在りかを探す女

お読み頂き有難う御座います。

間が空いていて申し訳なく。


「あら? そこの貴女、どうしたんですか?」

「私はフローリー・エリーン。貴族の娘なの。お忍びだから、内緒にしてね」


 小ぢんまりとした貴族の館の、裏門に蹲っていた女は伯爵令嬢と名乗った。


 庶民にはそぐわない服を着たドミ・マダットという魚は、フローリー嬢という女性の人生を乗っ取っていたらしい。

 盗賊に襲わせて、皆殺しにしたエリーン男爵家の長女に成りすましていた。

 そして、数々の嘘をばら撒き、人々から金品を奪い取っていた、らしい。

 親切に声を掛けた女性も騙されて、社交界の知人(まぬけなカモ)を紹介させられていたらしい。


「私がフローリーになるわ。相続したお金をあげるから仲良くしましょうよ」


 何故盗賊とそんな取り引きが成立したのかは判らない。

 余程弁舌が立ったのか……今は不明だが、現在の魚の知能から言って、人を自在に操る頭脳が有るとはとても思えない。

 ディエット家の脚本家として、生きてきただけではないようだ。今も少しだけ垣間見える華やかな目鼻立ちから、婚約者のいる男性を、令嬢から奪う役柄なんかを演じていたのかもしれない。


「騙しの手口は緩やかな毒か。判断力を奪う程度の」


 ユール家の者達が調べた冊子を軽く流し読みしたルディはつまらなさそうに断じた。それを聞いたアレッキアは、更につまらなさそうに鼻で嗤う。


「つまらない答え」

「えー違うのか? アレッキア卿みてーな魅了アリとか?」

「まあ、魅了持ちって、少ないけどそこそこ居るしね。コイツには何の魅力も無いけど」

「お! そっか。気ィ付けねーと危ねーな」

「あんまりしつこいから、害虫にのみ好かれる魅了持ちに貼り直してやったのも居たね」

「へー、本物の害虫に集られるのはヤベーな。オレ、持久戦嫌いだし」

「軽快に人を呪う辺り本当に悪辣だな」

「んー、ぐんむー!」


 呑気に語り合う三人の眼の前には、鎖でグルグル巻きにされた老婆がひとり、転がっていた。

 彼らが部屋に入った時からそうだったのだが、誰ひとりとして解こうとするものはいない。


「恐らく、ディエット家の芝居の件に関しては関与は有るまい。知らんが」

「知らねーんスか!? 滅茶苦茶知ってそーだったのに」

「ショーンの知ったかぶりに振り回されない、騎士サジュ。

 脚本を書いてる時点で同罪だからどうでもいい」

「おね、お願いタスケテ……ガフ!」

「煩いな」


 緩んだ猿轡から解放された口の周りには火の粉が漂う。あまりの熱さに怯み、ドミ・マダットは口を噤んだ。


「今のお前が成りすます予定だったのは、ベラ・ロクシに接触した『青い瞳の令嬢』」

「わ、私はあの哀れなディエット家の為にギャッ!」

「煩い口だな」

「大体、彼女の歳は僕と同い年だが? その歳で成りすましとは図々しいにも程がある。年齢不問にも程がないか」

「あ、オレも同い年ッスね」

「煩いんだよ年齢が同じだから何。

 私の可愛いあの子に成りすます企み自体が、気に喰わない。うざったい。邪魔過ぎる。燃やすしかない」

「あ、あの娘はディエット……」


 アレッキアは弱々しい訴えを鼻で嗤った。


「本名も知らない癖に」

「……そ、それは……」

「あの優しい顔も、私を魅了して止まない美しい青い瞳も、私の全てを受け入れる温かい心も」

「絶対受け入れとらんと思うぞ。諦めているだけだ」

「ショーン煩い」

「確かに意地悪顔だもんな、アンタ。あのお人好しな義妹殿に化けるにはな。まー無理だろ」

「な、ぜ……。何故、私の薬が効かないの」

「毒の間違いだろう」

「ど、毒では……」


 ルディは首の後ろを撫でた。其処にはもう何も捺されては無いが、少しだけ皮膚が引き攣れている。無意識に嘗て勝手に推された徴と盛られた毒を思い出したらしい。


「一度掛かった罠にはもう引っ掛からん。ドゥッカーノの王都でも同じ代物を売っただろう」


 其の問いにビクリ、と老女は肩を揺らす。


「……な、何の事でしょう」

「薄赤い娘に売ってそして、使わせた。その国の馬鹿金髪の王子に」

「別に馬鹿にはなっとらん。勇敢で献身的で素晴らしい従兄の活躍で救われた平凡な王子だ」

「平凡な王子って何スか。しっかし、本当に先輩好かれてんな……」

「あ、貴方に何か関係が」

「有る」


 反論する老女の顎の下の石がボコリ、と鳴り少しだけ床が隆起した。ルディはどうやら苛ついたらしい。


「流浪の旅を続ける旅芸人の庶民が男爵令嬢に亡国の姫に成り代わる。個人の欲望も有るだろう」

「……」

「とまあ、それ程の騒ぎを起こしてもアローディエンヌはお前に見向きもしないし、興味も持たない。残念だったね」

「!」

「ん?」


 ニヤリ、と更に悪辣にアレッキアは嗤う。

 ビクリ、とドミ・マダットと呼ばれた老女は肩を揺らした。


「……興味が、無い……?」

「お? アレッキオ卿、どーゆーこった?」

「何だ、引っ掛かっとらんのかアレキ」

「お前に分かる程度には調べるに決まってるだろ」

「ん? どゆこった?」

「そうだな。其の辺で細かい悪事を働きつつベアトゥーラ・ロクシを恨んでるのは本当。

 アローディエンヌに成りすますというのが、此奴の嘘なのだろう。なあ?」

「……何の事やら。私はただ、ディエットの為に」

「弟の為だろ」

「弟おー? このバーさん、弟いんのか?」

「居たんだよ」


 先程のふてぶてしい様子とは打って変わって、老女は震えている。

 アレッキアの突きつけた事実に怯えているようだ。


「名前は消されているが、此奴らは元は帝国の伯爵家の生まれ。

 役者やら裏方でコキ使う孤児を集めているディエット家に引き取られた」

「貴族が亡命に邪魔になったから棄て置かれたというのが正しいか。ふむ? はぐれた? 違うのか? 迎えに行かねば同じだろうに」


 ひとならぬ何かに話しかけられたらしく、ルディは小首を傾げている。


「ルディ様、何か見えてんすね。先輩居なくて良かった」

「放っときなよ、面倒だし」


 その様子をアレッキオは胡散臭そうに見やり、吐き捨てた。しかし、それを聞いた途端、老女は藻掻き始めた。


「あっ、貴方! 死者が視えるの!?」

「視えたら何だ。何もせんぞ」

「おっ、お願い致します! 弟を……弟の場所を教えてください! あのお嬢様の、ディエットの青い瞳のお嬢様の、祖父なんです!」

「ほーう?」

「ん……ええ!? マジかよ! また義妹殿の親戚かよ!」


 とんでもない発言とともに必死に藻掻く老女の姿に、ルディは瞬きし、サジュは驚愕した。

 アローディエンヌの伯母? が出てきた騒動があったばかりだというのに、まだいたらしい。


「『アローディエンヌの母方の祖父』ねえ……。確かな証拠でも有るのやら」

「何でもお話します! 伯爵家のことも、皇女様の事も!」

「皇女だらけなのに何を話すのやら」

「私と弟の父である伯爵令息は、帝国に甚振られた皇女様をお慕い申し上げていました! 幼馴染の侯爵令嬢と共にお救い申し上げる筈で……」

「何か複雑な話になってきたな、アレッキア卿」

「死人だらけだから裏が取り辛いんだよね。そもそも、伯爵令息ってアレでしょ。皇女にトドメの一撃掛けた奴」

「と、ち、違います!」

「心を折ったんだろ」


 力なく震える老女は、啜り泣きを始めた。

 先程までの弱々しい演技とは違う。彼女もまた、若い頃には『ディエット家の役者』もしていたのだろうか。


「父は、虐待される皇女ベアトール様を愛していたんです。お救い出来なかった事に絶望していたら、国は滅びました」

「滅びた国の歴史なんて、生き残りの適当な話しか確かめようがない。普通なら」

「私の命はもうすぐ尽きます。この先祖返りでは、もう持ちません。それまでに会いたかった。弟の忘れ形見と……弟に!」

「本当なら可哀想だな。何とかならねーんですか、ルディ様」

「本当にサジュはお人好しだな。感心するんだぞ」

「人を騙して生きてきて、死ぬ死ぬ詐欺だろ」

「……うっ、うっ……。」

「いやでもなあ、ちょい気の毒じゃねーか」

「その女、コレッデモンのギレン家に仇なす者だけど其の辺は忘れてるね、騎士サジュ」

「ギー卿ッスか……。……関わり……うーん」

「すぐしがらみを忘れるのは悪い癖だぞ、サジュ」


 悩むサジュを尻目に、へたり込んだ老女の眼の前に、ルディはしゃがみ込んだ。


「ならば少しばかり、命尽きるまで働いて貰うか」

「な、何を……」

「簡単な仕事だ。とある暴虐な皇帝が治める飛び地だぞ」

「な、な……」

「ショーン、何を勝手に決めてる」

「僕は此奴の間接的な被害者だぞ? 権利は有る。伴侶の家族を勝手に始末しようとするアレキよりな」

「勝手に付いてきて図々しい」

「それに、死すれば弟と同じ場所に葬ってやる」

「! わ、分かるのですか!!」

「アローディエンヌと似たような者がウロウロ彷徨いている所だろう」

「ああ、神様……!」


 縋り付かんとばかりに、老女は感激し……意識を失った。何処からともなく出てきたユール家の使用人達が、濡れた紙で彼女を包み、隠してあったらしい馬車に乗せてしまう。

 手際が良すぎて暫くサジュは目を剥いていた。話の流れについていけないのも有るようだ。


「……結局何だったんだ。つか、このえーと、義妹殿の親戚? 何処へやるんスか」

「暴虐な蝙蝠ウサギの皇帝が住まう場所だ」


 暴虐な蝙蝠ウサギ……と聞くと、茶色と黒の混じった複雑な髪を二つ結びにした少女、フィオール・ブライトニアがサジュの脳裏に過る。

 成程、確かにこの頃は暴れていないが暴虐な皇帝だ。


「……フロプシー……ッスか?」

「勝手に決めるな」

「アレキこそ勝手に押し付ける気だっただろう。薄着の皇女と仲か悪いにも関わらず」

「其の辺に拘留して置いときゃ野垂れ死ぬし、どうでもいい」

「アローディエンヌが何と言うかだな」


 アレッキアは嫌そうにそっぽを向く。


「……まー、義妹殿はフロプシーのトコの方が喜ぶかもな。善人だし。それにしてもベラベラ喋ってたな、あのばーちゃん」

「徴を捺して有ったからな。大方、『井戸端の出席者』辺りか?」

「え……し、徴ィ⁉」

「それがどうした。不審者を無傷で放流する理由有る?」


 固まって目を剥くサジュに、アレッキアは肩を竦める。何か苦言でも申し立ててくるのか? と見つめると彼はキラキラした目でうんうん頷いている


「呪ったのかよ! ……あっ、でも、ルーロが居た! そっか! 成程! うっわー、頭脳戦だなアレッキア卿!」

「大した手口でもなかろう。褒めんで良いぞ、サジュ」

「王族とノロットイ家しか使えないから、大した手口でもないけどね」

「さて。では、そろそろ僕達は戻るか。飛び地にも行かねばならんしな」

「精々フロプシーに媚びるんだね」

「行くぞ、サジュ。宿を引き払わねば」


 アレッキアに返事をせず、ルディは踵を返した。


「じゃー、また国でな! アレッキア卿!」

「其処のショーンを道すがら残虐に謀殺しても構わないからね」

「しねーよ!」


 そして古い街並みにもう一台停めた馬車に、アレッキアはドレスの裾も軽々とエスコート無しに乗り込む。


「さあて。ギレンの御曹司はアローディエンヌをちゃあんと納得させてるかな。まあ、してなきゃしてないでどうでもいいけど」


 ふふう、と嬉しそうに笑ったアレッキアは、愛する伴侶の待つ別荘に向かうのだった。









フィオール・ブライトニアは可愛くて残虐な皇帝陛下で御座います。

アレッキアとは犬猿、水と油の仲です。悪役令嬢同士は仲良くなれないようですね。

ヒロイン同士も当作では難しいでしょうが……。

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登場人物紹介
矢鱈多くなって来たので、確認にどうぞ。
― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりにフロプシーの近況が聞けました。 ニックと一緒なので、少し落ち着いてきた様でなによりです。 [気になる点] ドミ・マダットは魚要素はどこかにあるのかな?と。 [一言] サジェくん…
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