死骸動かしと傀儡皇女
お読み頂き有難う御座います。
アローディエンヌはドリーと出掛けることになりました。
アレコレ有ったアレカイナへ来てから、……一週間位かしら?時間の感覚が
今日は……久々にドートリッシュとふたりなの。
義兄さま……いえ、義姉さまがアレカイナのお偉いさんの元へ出掛けているし、子供達は別行動になってしまったの。
まあ、出かける前に一悶着……いえ、百悶着位した気がするわね。
子供達じゃなくて、ええ、勿論義姉さまとね!
「やだあ! アローディエンヌと離れるのやだあ! 個人的な家族旅行なのにい! 何で仕事しなきゃならないのお!」
「まあ、それもそうですけれど……。ご挨拶だけでしょう?」
何でも、ルディ様と義姉さまにご挨拶したいそうなのよ。この、シーランケード……だったかしら。その領主が義姉さまにお会いしたいんですって。そして、偶然居合わせたルディ様にも……。
「アレキだけ行け。僕は観光してくるんだぞ」
「馬鹿なの? ショーンだけが行けよ」
まあ地面やら壁やら揺れるわ、火花は散るわでモメてモメて……。
それが、義姉さまのお立場的に……ルディ様のお供だったから、余計にモメて!
「ああうざったい! こんな面倒で差別的で陰険な国、綺麗サッパリ燃やしたあい!」
「何てことおっしゃいますの! 国単位で犯罪したいとか、やめてくださいな!」
「でも、アレッキア卿は温泉目当てに来たんだろ? 燃えたら無くなるんじゃね?」
「囲っときゃ良いだろ」
「そういう問題じゃ有りませんわよ!」
「取り敢えず、サッサと行って帰ってきましょうよ、ルディ様。アレッキア卿」
「義姉さま、無茶やら無理難題に駄々をこねたりをすればサジュ様からご報告頂きますわよ!」
「酷おい! 無茶なんてしないもん! 私悪くないもん!」
子供か!
「はあ……」
「もあーん、おかしゃま、シアン、もあーん」
「……」
「シアンディーヌ、壁によじ登らないで」
あの騒動後……。
もにもに芋虫姿で動くシアンディーヌを追いかけるのが、若干辛いわね……。
アウレリオも重くなってきたし……。おんぶ紐でも作ろうかしら。また、脚立でも届かなさそうな位置に登るわね。
あの大きさを支えるあの足、凄いわ。
「高いところで蛹になったりしないでね、シアンディーヌ」
「シアン、たかいところもにゃーん」
うーむ、最近喃語と言葉のミックスが多いわね。……あのもあーんって、どういう系統の鳴き声なのかしら。
芋虫は鳴く虫じゃないし……。
「お昼寝のお時間で御座います」
「あら、そうなの……?」
好きな時間に寝てる気がするけれど、子供達にそんなスケジュール管理されてたとは知らなかったわ。
あら、あの使用人が抱えているおくるみは……イジェノアちゃんね。
「イジェノアちゃんも一緒に寝かせてあげるの?」
「いえ、彼女は別で」
「そうなの?」
「もあーん! ゼノアもー」
「シアンディーヌ、のた打ち回るのは止めなさい」
「もももにゃー!」
あんなにぐりんぐてん暴れているのに……使用人の腕はびくともしないわね。私なら落としているのに。しかも、知らぬ間にナイスキャッチされているけれど。
……うう、情けないわ親なのに。筋トレしようかしら。
「こんなに暴れるなら無理かしら」
「おかしゃまのいにわゆー! もももわー!」
「イニワユって何なのかしら。あ、意地悪ってこと?」
「……っ」
「シアンディーヌ、静かにしなさいな。アウレリオとイジェノアちゃんが起きるでしょう」
アウレリオが寝そうなのを妨げられて、眉間のシワが凄い事に……。未だ私より表情豊か? で良かったけれど。
こういう所義兄さま、いや今は義姉さまに多少似たのね。良かったのか悪かったのか……微妙ね。
「イジェノア迄ご一緒させて頂けるなんて、感激ですわ義妹姫様!」
「……まあ、ドートリッシュ。御免なさいね、シアンディーヌが」
「シアン姫様の御側で眠れるなんて、きっといい夢をみまくりですわ!」
「そ、そうかしら……」
「……」
「にゃももあーん!」
こんなに煩いのに……。
物言いたげなアウレリオの瞳が刺さるわね。この子、この頃、意思疎通を目でしてくる気がするわ。目力が強いっていうか……。
赤ちゃんなのに……。
「分かった、分かったわ。シアンディーヌ、イジェノアちゃんの方に転がったりしないのよ。寝惚けて天井を這っても駄目よ。」
「もあん!」
「まあ、ベッドは分けるけれど」
「もあ! もあ!」
分かってないご機嫌加減ね。
はあ。……取り敢えず一緒の部屋ならと許可しとくか。
虫籠型ベッドを時々突破するのが、難なのよねえ。重しでも載せておくべきなのかしら。
「御前失礼致します」
「有難う、使用人さん達!」
「ドートリッシュは相変わらず朗らかで礼儀正しいわね」
「ととと、とんでもないですわ! 臣下仲間ですもの!」
「そ、そうなの……? 他国の伯爵家なのに、義姉さまが無茶苦茶言うから……」
「細かい事はよく分かりませんけれど、返せない程恩が御座いますわ!」
「そ、そうなの? ……義姉さまが無茶苦茶したら教えてね。叱るから」
「若様を叱られるようなこと、されませんわよ!」
有りまくるのよ。
でも、自信満々なドートリッシュが眩しいわ。
「あ、そう言えば、人形劇がやっていると聞きましたわ。若様が義妹姫様と行っておいでって仰りましたの」
「へえ、人形劇……」
ドートリッシュが見せてくれたのは、パンフレットね。……字が凝りすぎてて読みにくいけれど、他国の文字?
人形劇ならこの前みたいな事……親戚? が出てくる事はないかしら。
しかし、エンタメ性の高い街ね。流石観光地。全然寂れてないじゃない。
「題目は何なのかしら」
「えーと、『死骸動かし蝶々』と『傀儡皇女のカニ』らしいですわ」
「読めるの? 博識ねドートリッシュ」
「いえいえ、農業新聞によく載ってた文字ですの。コレッデモン王都に行かざるを得ない時、いえ、お呼び立てされた時によく立ち読みしましたわ!」
「そ、そう。何故農業新聞に……。でも……見当がつかないわね。どういう題目なのかしら」
朝の騒いでた義姉さまがチラつくから、蝶々はパスかなあ。しかも物騒ね。死骸動かしだなんて、ネクロマンサーなの? フィクションとはいえ、色んな蝶々がいるものなのね。
人形劇なんだから、もっとほのぼのした題目だと思ったけれど……。
「カニの方にしましょうか」
「最近出来た高級宿の劇場だそうですわ!」
「へえ……」
エンタメ性が本当に高い街なのね。
少しばかり楽しみかも。ワクワクするわ。
そんなこんなで、私はドートリッシュと出掛けることにしたわ。
『死骸動かし』は滅茶苦茶近所に居たんですけれどね。




