悪役令嬢は危険地帯にでも行きたいらしいよ(ニック視点)
お読み頂き有難う御座います。
遠く離れたもう一組の悪役令嬢とサポートキャラの日常です。
やっぴょーん! 今日もコレッデモン宰相府でマジメに勤労中のニックでーす! そう、今からマジメに書類をお配りしに……。お配り……。
「ゴフッ……」
うわ、めちゃ重。こりゃ頑張ったら肩とか腰がお亡くなりになるヤツ! 無精せず手押し車要るよなあ。取りに行かなきゃにゃー。
「オルガニック!」
「ギャフン!?」
親方! 窓から蝙蝠ウサギが突っ込んで来やしたぜ! すわ敵襲!? てやんでえ! この有事に何故窓を開けておいた!?
いやオチツケオチケツ。じゃ、なくて!
こ、この薄い茶色から黒グラデの髪に勝ち気な垂れ目は!
何と!
お仕事中には関わりたくない系悪役令嬢! フィオール・ブライトニア!
……いや、本音が出ちゃったね。でも口にしてないからセフセフセーフ!
「あたくしに会いたかったでしょうオルガニック!」
「いや、今朝めたんこ会ったよね……。そもそも同居だよね」
「朝から寂しくてよオルガニック! オルガニックもそうでしょう!? 憂い有る顔も良いわね」
「寂しくて……か、かなあ?」
……か、顔に出てたかにゃ。ヤバタニエンでやんす。でも寂しくてでは無くてよってのがバレなくて良かった、かも。
……一応この間、この子と結婚しちゃってたからね。マジかよー夢であってそんな日々だかんね。
悪口はね。伴侶に関わりたくないなんて酷……いんだけど。
うう、でもさー。
マジでせめて、お仕事中には関わりたくないんだよお。この子は嵐も災害も振動も……兎に角破壊を呼ぶんだよお。死亡フラグきょわいよお!
「信じられないわ、ルディに馬鹿兄貴の奴、アロンと外国旅行をしたんですって!」
「りょ、旅行……?」
おおっと! こっちのテンパる様子に気付かれずにラッキーだが、な、何のお話ー? 拙者、混乱の渦にグルグル巻き込まれ系!?
しかしかかし、外国旅行……とは? 我が心の女神と崇め奉るアロンたんが、おにいたまと……何故かルディ様も? ぴえんウラヤマシス!
しかし、情報量多いのにイミフとはイカにタコに軟体動物に?
「オルガニック、あたくし悔しくてよ!」
「にゃ、何がなのかなー?」
「あたくしもオルガニックと濃厚な旅行中にアロンと旅行先で会いたかったわ!!」
わ~、目の前ってば美少女ー!
言葉は通じてるのに、何聞いても分かんなーい!
濃厚な旅行って、何ぞやよ!? 他国でオッサンによる美少女連れ歩き罪とかない? 変な罪状適応されにゃーい!? とか被害妄想いや容赦ないリアルが炸裂するから、ぶっちゃけ知らんお国には行きたくないよ! そんな気持ち、ブライトニアに届け!
「……へ、へえー。奇跡のタイミングで行き先バッティングしちゃったのかにゃ……。それよかブライトニア、お近くすぎてボク、寄り目になって眉間が痙攣しそうでヤンスよ」
知ってた? 鼻がくっつきそうな距離で大声聞くのって中々かなり辛ぅ御座んすよ。苦行なんダスよ!
……まあ、身長差はたかだか10cm弱だから確かにそんなに無いけどね!? チビじゃないよ小さめ男子なの!
「干からびた溶岩地らしいわ! 悔しくてよ! あたくしも旅行がしたいわ、オルガニック!」
うう拙者の話まるごと聞いてにゃい……けど何つった、この子!
溶岩地!? そんな危険な地帯にアロンたんとおにいたまがお出かけ!? どゆこと!?
「ひ、干からびた溶岩……!?
え、何処其処!? まさか噴火口かなんか!?」
「知らないわ。アロンが帰ってきたら洗いざらい話させてやってよ」
「そんなご迷惑な。突撃訪問はやめといてよ。しかし……何故に、おにいたまはアロンたんをそんな場所にお連れしたの……?
悪役令嬢のお考えが凡人には眩しくて見えない……。おお、シャイニングイミフ……」
まさか火口に……いやーんな加害してきた輩を放り込みに行かれた……!?
やだーん、まざまざと想像出来ちゃう。ガチなリアルで。
ででででも、アロンたんは処理現場に連れてかないよねえ。
そんな事しなくてもおにいたまは完全犯罪を成功させて高笑い……きょ、きょわいよお! 妄想でも背筋凍る! 怖すぎ!! 胃に穴がポッカリボコボコ開きそう! 妄想やんめた! 死んじゃう!
「だから、海底火山を見に行きましょうオルガニック。最近ソーレミタイナで見つかったらしいわ」
「海 底 火 山!? ボクのスキル、火気厳禁が見事に反応して、死亡フラグ!! 火砕流がブチッと当たって死ぬやつじゃん! 滅茶苦茶行きたくないよ! 勘弁してえええ!!」
「じゃあ海底かしら」
「空気がない地に何故連れてきたいのおん!? 密かに死なす気なの!? ボクイズ弱々惰弱ひ弱三十路なんだよおおおお!?」
「安心して、オルガニックはあたくしが守るわ!」
「何ひとつ! 安心材料がないよおおお!?」
ファンタジーな世界ですけど、人間の呼吸は水中で不可! 死亡フラグ不可避! そこリアル!
魔術であらフシギ★ とか、おクスリ飲んだら水中呼吸出来てしゅてき! とか、無理だから! 少なともボクはそんな魔術もおクスリ開発も会得出来ないよ!
「あたくしもオルガニックと旅行がしたいだけなのに……。馬鹿兄貴よりも派手なところを……」
「ブライトニア、派手なのがいいばっかじゃないんだよ……」
何故おにいたまに対抗するの。悪役令嬢同士だからなの? やめて欲しいぞえ、その反発心。ボクは細胞レベルで何ひとつ対抗出来ないんだから!
「あらあら、何をしてるの、ウサちゃん。不法侵入するんじゃないわ」
「出たわねルーニア! お前、この頃無礼よ! オルガニックと属性が同じだから調子に乗ってるんじゃなくて?」
「何ですって?」
「どんな難癖だよ!? めたんこ失礼でしょブライトニア!!」
……女神と崇めたいレディのおひとり、ルーニアさんが降臨されるまで、海底火山に連れて行かれるフラグは潰えなかったよ。
ボクはか弱いんだってば!!
救いの女神ルーニアさんには後で何か犬グッズを送っておこう。犬派なんだよね。ボクは猫ちゃんもラブだけど。ウサギは……まあ、最近苦手オーラは無くも……無きにしもあらず?
「あ、師匠。今日は」
「……ティミー、よくお外で会うねえ……。
今日も相変わらずケンケントゲトゲして、ふてぶてしいプリンスぶりだにゃ……」
「あはは、刺々しいのはいつも通りですよ」
……めたんこ機嫌悪そう。関わりたくにゃいけど、ピッタリ背後霊してくんのはどうしてなの。
ティミーったら、最近ボクより育ってるから獰猛さアップで可愛げ0で怖いのなんの。やめて欲しいよ。そして何故他国で軽やかにウロウロしてんの。君はお隣のドゥッカーノのプリンスじゃろ。王子様はお城においでなせよ……。伯母さんのジーアさんいるじゃろうに。
「それは編み物の本ですか。引き千切るのにピッタリですね」
「借り物なんだから止めてよ。何イライラしてんのか知んないけど、モノに当たるのは下衆いよ」
「……まあ、そうですね。レルミッド以降勧誘が上手く行かないものですから」
え、何のリクルートしてきてんのこの子。レルミッドさんは何をさせられんだろ。
ドゥッカーノ絡みからな。えー、王子だから使える人材を探せとか言われてるとか? 他国で?
……王子様に任せる事案じゃない……。
個人的な部下でも探してるとか?
「前世混じり、欲しいんですよね……」
「へー」
そんなマジマジと見られてもにゃあ。相変わらず迷いの森みたいな底知れぬキレイな色の目だよね。
でもでも! 幾らイケメンでも、結構酷い目に合わされた歳下美少年王子様に油断しないよ!
モブだからこそ慎重にするよ! そもそもボクなんぞ要らんでしょ! 侍らせる価値なし!
「信頼されてませんねえ……」
「そもそも何を信頼すんのさ……」
「あはは、それもそうでした」
相変わらず歯を剥いて嗤うしさあ。悪役ぽいわあ。
この子、一応乙女ゲーのシリーズの一番手に紹介されるヒーロー王子様なのに。
まあ、全くその欠片も気配も無いけどね。
多分シリーズの中でも一番人気は……やっぱしルディ様なのかにゃあ。
「フィオール・ブライトニアから逃げたくなったら塔へ来てくださいね」
「え、塔って何処の? 天体観測のお誘い?」
「……まあ、空を見上げるのも偶には良いかもしれませんね。高みから見下ろすのではなく」
「支配者階級の科白、怖……」
……帰ってったけど……。結構何しに来たんだろ。
ちょこーっとトゲトゲが抜けてたような抜けてないような……。
ティミーもなあ……。
悪い子なんだけど、どーもねえ。放っとけないよね。
ティミーのお気に入りは中々に手強いようです。




