異国での再会
お読み頂き有難う御座います。
隣からやってきたルディ君と異国で再会ですね。
「アローディエンヌか、暑そうだな」
「よっ、義妹殿。お邪魔してるぜ」
うっ、久々にお目にかかるイケメンおふたりが眩しいわ! 流石ゲームの攻略対象の自然な輝き! 煌めいてるわ……。このおふたりのスチル、欠片も無かったけれど。
じゃなくてよ。
久々に前世のミーハー心が出たわね。さっきのやり取りで心が疲弊したのかしら。嫌だわ、軟弱な。
「お久しぶりで御座いますわ、ルディ様、サジュ様。アレカイナの地でもお目にかかれて光栄に存じます」
「て、丁寧だな……。出来っか?姉さん」
「出来る訳無いじゃない! 深くお辞儀で何とかなるかしら」
そ、そんな悲壮なお顔で……。全然大した口上でもなくて本の受け売りだと言うのに。
「バルトロイズ子爵令息にモブニカ伯爵夫人も相変わらずだな。次はルーニア辺りに言っておこう」
「ややややや止めて下さい! そんだけは! ルーニア様だけは!! いや、他の四騎士の方々もヤベえ! うわあ!」
「ごごごご勘弁してよ白フード!! いえ、王子様! えっと、名前何だったかしら? ルディ王子で良かった?」
あ、相変わらずこのご姉弟はコレッデモンの四騎士様がたが苦手よね……。私にはお優しかったけど……相性が有るものね。でも、活発なおふたりだから、違う感じで可愛がられているような気がしたのだけれど。
……だけれど、顔色が悪すぎるわね。
「あの、お二方大丈夫ですか? あの、ルディ様。此れからはきちんとショーン殿下とお呼びすべきでしょうかしら」
「あ、それ! それですわ義妹姫様!」
「要らんぞ、アローディエンヌ。
サジュの姉君は、未だに僕の名前を覚えていないのか。感心するぞ、才能だな」
「名前を覚えるのが苦手なのよ!! 顔は一致してるわよ!」
「スンマセン、ルディ様。
オレんち、とゆーかモブニカ家はどーも田舎モン育ちですから、長い名前って、覚えづらいんすよね……」
「……ほう、田舎で育つとそうなのか? 確かにレルミッドも長い名前を覚えるのが不得手だな。どう思う? アローディエンヌ」
え、私にお話を振って頂けるのは光栄だけど……こ、コメントに困るわね。どう答えたものなのかしら。
「何方にも苦手な事は有りますものね」
「目の前で何度も喋っているのを聞いているのにだぞ? ……ふむ、興味深い」
……た、単に覚えにくいだけじゃないかしら……。でも確かに私の名前のアローディエンヌを、あんまり呼ばれた事が無い……かしら?
まあ、私の場合は……渾名が多いのも、地味に気になる所だけれど。
「私の名前も長いですものね……」
「義妹姫様は素敵な渾名を沢山お持ちですものね! フロプシーやフォーナはアロンって呼んでましたわ! マデル様は、雨の器のお花ちゃんでしたかしら! 素敵ですわよね!」
「義妹姫ってのもそうだよな。あ、もうアレッキオ卿の嫁さんなのに悪ぃか?」
「い、いえ。お好きにお呼びくださいな」
そもそも私がまだ義兄さま呼ばわりしてるものね。……いかん、そろそろ変えないと子供達が混乱してしまうわ。でも、つい口から出ちゃうのよねえ。
「それで、炎上芝居はもう終わりか?」
「えっ? 炎上……ですか?」
まさか、義姉さまったらまた何かを燃やし……あっ!
「さっきの、私の親戚? が……」
「えっ、親戚? ルーロ様の事ですの?」
「いえ、そちらではなくて……母方? の親戚らしいわ。でもよく知らないし、変な因縁を付けてきたけれど……」
「えっ、ヤベー親戚が義妹殿に居たのか。じゃー、とっ捕まえっか!」
「そうね! 私も助太刀するわ!」
「い、いえ……お心は有り難いのですが」
「アレキが燃やすか斬り落としているか、蹂躙しているのではないか?」
「じゃあ安心ですわね!」
良かあないわよ……。
そんな邪気のない笑顔で……つい頷いてしまいそうだわ。恐るべしね、ドートリッシュの笑顔は。
「あ、安心……かしら。普通に住居侵入だから、真っ当に刑罰を受けて欲しいわね……」
「此処の司法に掛けろと? アローディエンヌも中々残酷だな」
「私刑よりは人道的かと……」
義兄さまいえ、義姉さまの手に掛かるなら普通の刑罰より残酷表現増し増しだと思うわ……。でも、アレカイナの司法ってそんなに苛烈なの? ど、どうしたもんなのよ。
「そもそも、だ。
その不法侵入者の勝手な戯言を、アローディエンヌは信じたのか?」
「え? ……信じ……?」
信じて……え? 一瞬頭がフリーズしたわ。
え、ルディ様のお言葉が……分かるのに分からない。
信じたって……ど、どういう事かしら。
「ええー? 白フード、どういう事よ」
「も、戻ってるわよ、ドートリッシュ……」
「呼び方なんぞどうでも構わんぞ」
「そうよね! ……取り敢えず四騎士様の御前では、失言したらルーロ様に抓って貰う事にするわ! 気にしないで白フード!」
「ふむ、意味の分からん明るさだな。サジュ」
「ね、姉さん……。ルーロにも気を付けさせろよ……」
……地味にルーロ君は、ルディ様が嫌いだものね……。しかし、抓るのは……テンパッたら仕方無いのかしら。
「話を戻すが、アローディエンヌはアレキが侵入者を始末する所を見たのだな」
「い、いえ。流石に殺人現場は見ておりません」
「そうか。まあ、それは後で分かるが……。アローディエンヌは何故その者を親戚だと思った?」
「え、ええと。ややこしいのですが、義姉さまいえ、アレッキアが私のフリをしてその者をやり込めておりまして……」
「相変わらず、芝居がかった真似が悪趣味なんだぞ」
た、確かにちょっと……芝居がかってはいたわね。
態々私の髪色のカツラ迄用意して……無駄過ぎるわ。
「アローディエンヌ、その者と親戚として会った記憶は有るのか?」
「あ、有りません。幼少期にユール公爵家へ参りましたので」
「へー義妹殿も複雑な身の上だな」
「若様と仲良しですものね! 幼少期からの愛って素敵ですわ」
うっ、そうかなあ。
好意的な姉弟のコメントが居た堪れないわ。幼少期からの愛……なのかしらね。
「そもそも、ディエット家はとっくに断絶しているぞ」
「え? あ、ルディ様は私の生家の名前をご存知で……。ディエット家と言うのは本当なんですのね。何時断絶したのでしょう?」
「5年か其処らだな」
「い、意外と最近……。義妹姫様がご存知無いって事は良くないわね」
「あまり良くされた覚えもないから、生家の事を忘れていたのよね」
寧ろ、親とか気にしていた時って有ったかしら? レベルなのよね……。
「まあ、義妹姫様ったらお強いですわ!」
「そ、そうかしら……。薄情なだけよ」
「変な家なら関わらねー方がいーかもな。アレ? でも断絶したんなら……その、義妹殿が見たヤツって誰だ?」
あ、そうか。
断絶、と言う事は……。
「爵位を返上したと言う事ですわね?」
「その届けすら出ていなかったから、5年程前に自動的に返上されただけだがな」
え、滅茶苦茶迷惑じゃないの。
「私が動かなくてはならなかったのでしょう。お手間を取らせてしまいましたわ」
「無理だな。ディエット家が貴族の本分をこなさなくなったのは、アローディエンヌ。お前が引き取られて直ぐだぞ」
「えっ……」
な、何ですって……。
貴族の本分をこなさなくなったって事は……。
「税収を収めて居なかったと言う事でしょうか」
「そもそもディエット家に僅かしか領地が無かったが、その辺もだな」
「何て事……」
ええ……。まさか、税金逃れも一家バラバラになった件として含まれてるの? 滅茶苦茶嫌なんだけれど。
「義妹姫様は、ユール公爵家に御出でになる前は生家の領地でお暮らしになってましたの?」
「そ、それが記憶に無いのよね……」
「王都で暮らしてたとか? 偶に居るよな、領地無しでフラフラするヤツ」
へえー、そんなの居るのね。領地無しなのは王宮勤めとか……いえ、サジュ様のお言葉のニュアンス的に違うかしら?
「余所の国は官位のみ保持する領地無し貴族も居るが、ドゥッカーノでは居らんな」
「え、そうなんスか? 騎士団の中にも領地無くてって言ってる奴居ますよ?」
「そう見えるだけで、実際は親の領地がある。本人は付属として見られているからの発言だろう。まあ、それはいい」
ルディ様の薄茶色の瞳がクルリと部屋を見回したわ。
……何かご不興を買うものが有ったかしら? 透き通った……麗しくも底知れぬ眼差しだわ。
……まあ、ルディ様のお考えを慮るなんて無理だけれど。
「税収逃れの件は、とっくに捕まった者達が連座で罪を償っている。だとしたら、アローディエンヌが見た親戚とやらは何だ?」
「何……なのでしょう」
「公爵家に嫁いだアローディエンヌの親戚を騙っている者、として見えるが?」
「か、騙り……!?」
……そ、そんな事をして何の得が……いえ、結構有るわね。
寧ろ私ってば、今迄そんな詐欺行為に引っ掛からなかった事がラッキーなのかしら。引き籠もってたからかなあ。
「成程、偽物かー。よく有る話だな……」
「た、確かに不法侵入者の話をちゃんと聞く方がおかしいわね……。やるじゃない白フード!」
「……ですが、何故今になって私を騙しに来たのでしょうか。いえ、本当の親戚がどうとかはどうでもいいのですが、それが気に掛かりますわ」
「ほう? 不法侵入者は何と言っていたのだ」
「義姉さま、いえ私に跡を継げと。私こそがディエットの後継者だと」
あの変な外道人材派遣を、何のノウハウもない素人の私に継げとか、そもそも本当だったのかしら。
確かに色々お粗末よね。素質のある人に継げと言うなら、兎も角……破綻し過ぎだと思うわ。
「ふーむ? アローディエンヌにアレカイナでのディエットとして家業を継げと?」
「いや、無茶だろ。家と無関係に過ごしてる義妹殿に継げとか。フツー、当主教育受けるよな」
「そうだな、サジュもバルトロイズ子爵家の当主教育に邁進しろ」
「うっ!!」
「な、何て返しにくい正論意地悪なの……。やはり白フードは良い人じゃないわ……」
胸を押さえるサジュ様が居た堪れないわ……。そして正論意地悪って何かしら。でも余所の当主教育の進捗に口出しは出来ないし……。
「アローディエンヌ。どうしても気に掛かるなら、血縁関係を調べる術が有るぞ」
「えっ」
「血縁関係を立証した上で絶縁を申し立てるのも手だ。無いなら無いで詐欺罪を訴える事も可能だな」
「まあ……」
べ、便利なのね。でもさすがファンタジー異世界。いえ、住んでるからファンタジー現実世界? 驚きが一杯だわ。
「有る有る。オレも、タカってくる親戚モドキを追い払ってくれった騎士団への申立て、聞いた事有る」
「だがまあ……アローディエンヌ」
「はい、何でしょうか。ルディ様」
「血縁を立証した所で得るものはあるか? 不法侵入者を親戚と信じたい何かが芽生えたか?」
「いえ、有りませんわ。何も芽生えませんでした」
どれだけ記憶を探っても、親を慕ったとか……無いもんなあ。幸いな事に忙しい毎日だったし、可愛がられた覚えもないもの。勝手な話だけど、子供達や、血が繋がって無い人達との絆の方が強いと思うわ。それに子供達の為ならば非人道的とか言っていられない。得体の知れない意味不明な親戚モドキとか、害にしかならないもの。
「なら、詐欺師で結論づけるか」
「そうですわね。それが宜しいですわね」
平和的な解決は、今回は考えなくて良いわ。
もし本当の親戚だとして、子供達に変な火の粉が降り掛かっては……耐えられない。いや、火の粉は義兄さまが撒き散らすから被れ慣れてたけれど、物理的にそうではなくて。
「お待たせえ! 私の可愛いアローディエンヌう! あ、何だ。未だ帰ってないのかショーン」
火花じゃなくて本物のお花を飛ばしそうな満面の笑みで入ってきたと思ったら、この憎々しげな言い方に顔!! テンションの振れ幅が酷いわ!!
「何なんですか義姉さま、失礼でしょう! ……ルディ様がたがいらっしゃってたのをご存知でしたの?」
「鬱陶しい気配は感じるからねえ。空気が死んでくるから早く帰れよ」
「お前に用はないんだぞ。アローディエンヌにだ」
「余計に帰れよ」
「義姉さま!」
「いやー、仲良いよな」
「そうよね! ルーロ様、早く帰ってこないかしら……」
だけど。義姉さまの意図だけは、少し気になるわね。
丸め込まれた感も無くはないアローディエンヌです。




