11.片方の光を失うよりも(レルミッド目線)
お読み頂き有り難う御座います。拍手、誤字報告誠に有り難う御座います。
レルミッド視点に戻ります。
終わるかと思ったんですが意外と長くなり、終わりませんでした。
ミーリヤねーちゃんとカータを見送って、俺らも馬車から降りた。
今は庭っぽい所に居る。庭っつーか厩舎だな。前に見たサジュの馬……ごつい顔の怖えブチの馬の尻が見える。見た目の割には気性が大人しかった気がするが、デケエな。名前何つったか。ハラなんとかだっけか。コイツ、名付けに向いてねーなと思ったんだが、……名前覚えらんねーんだよな。カータの事言えねえかも知んねえ。
しかし、静かだな。
今日は雨でもねーし、風もそんなにねえ。まあ、普通の過ごしやすい日って感じか。
まあじーっと座ってるのもつまんねーしな。かと言ってつっ立ってるのもな。
ルディは持ってきた徴の本を捲ってんな。
つか、ミーリヤねーちゃん強えんだっけか。まあ、ねーちゃんの事だから大丈夫だとは思うが……カータが何者なのかと分からねえしよ。家大丈夫なのかよ。
「いー加減何か教えてくれませんか、ルディ様。何をどうやる気なんですか?」
サジュが痺れ切らしたみてーだな。
まあコイツもそんなに気ィ長くねーよな。
「ふむ、ある程度煽って貰わんとな。レルミッド」
「アァン?何を煽るってんだ?
レッカ煽ってもしゃーねーだろ。アイツ、攻撃手段持ってんのか?」
「いや、ねーと思うぜ先輩」
「へー。あのごっつい足の鉤爪で蹴りゃあ結構なモンになりそーなもんなのにな」
「良いよなあの足。かっけえし」
かっけえか?まあ、強そうなのに使わねえのは勿体ねえって気もするが、女だしな。邪魔かもしんねえ。
間違いなく蹴られたくはねーが。
アァ?
……魔力の流れを感じんな。東側の……端っこか?
ルディも気付いたのか、じっと同じ方向を見てやがる。
……僅かにジワジワ漏れる、この水魔術の気配は。
何つーか、水の割に……粘性のある、足やら体に纏わりつきそうな……魔力は。
……アレは。
ああ、そうだ。クソボケブス……?あの、薄赤い頭の女。
「あの部屋に結界を張ってくれるか、レルミッド」
ルディも感じ取ったみてーだな。滅茶苦茶嫌そうな顔をしてやがる。……俺もだろーな。
魔力の気配だけで何か腹立つ。
……しかし、何でクソボケブスの気配が?
もしかして……ババアなのか?ババアの欠片だっけか?があの気持ち悪い魔術を生み出してんのか?
「どしたんスか、ルディ様に先輩」
「あの東の一番端の部屋は何だ?」
「レッカに貸してる部屋じゃなかったでしたっけ」
……当たりじゃねえか。
俺は魔力を練って……しかし、あの部屋にだけ結界ってどーやるんだ。流石に部屋丸ごと外から結界で囲った事ねーよ。
適当でいいか?
「……サジュ、何処かに墓らしきものはあるか?」
「墓?いや、無いと思……いや、墓っつーか石碑みたいなのは有りますよ、ほら其処。何かの遺跡の後ですかね?」
サジュが指差したのは……気付かなかったが、後ろにでけえ石の何かがある。
花が供えてあるみてーだな。
サジュの言う通り、何かの遺跡の跡を記念して……みたいな雰囲気にも見えるが。
「遺跡でも何でも無いぞ。僕の祖父エンバルド・バルトロイズの腕が埋まっているようだな」
……祖父の腕。腕。……腕ぇ!?じいちゃんの!?は、此処に!?この石の下にかよ!?
……何だとおおおおお!?
何をそんな、シレッと軽く言ってんだよコイツは!!
「……ハァ!?腕!?腕ぇ!?」
「う、腕埋めてんのか此処に!?」
「何だ、侯爵と伯父上から聞いてなかったのか?僕が奪われたから祖父は王城に乗り込んで片腕を斬り落とされたんだぞ」
いや聞いたけどよ!!忘れてた訳じゃねえ。
だが……改めて聞くとホントえげつねえな!!あのババア、ホント許せねえ。
「いや聞いた、気がしますが……マジかよ!!何で自宅に腕埋めてんだよ!!」
「他人の家に埋める方が非常識だと思うぞ」
「そりゃそうだけど、墓とか!!」
「サジュは生前に墓を用意する質なのか?用意が良いな」
「いや確かにそりゃそんな金懸かる事しねーし出来ねえけど!!
え、何だ!?御養父殿の父上の……腕がその石の下に!?フツー埋めるか!?」
そもそも戦争でもねえのに、あんま生前に腕ぶった斬られる経験もねえよな。
もし術師が近くに居て治療が早いなら魔術で治るだろーし、その腕の所在に悩むこともねえし……。
……いや、腕くっ付けられる程の回復魔術の使い手は早々居ねえか?俺も回復魔術は下手くそ過ぎるし。
フォーナがきっちり勉強すりゃ出来るようになりそーだが、今現在先行き不安だしな。
もしかして腕無くすような大怪我って多いのか?俺が知らねえだけで。治療院の事情とか知らねえしな。
……考えただけで痛ぇ。
「斬られた腕を日干しにして保管しても恐怖じゃないか?」
「日干っ……グロイ事言うんじゃねえよ!!」
「……いやまあ、戦争とかじゃ持って帰れねーけど……。王城内だから持って帰って来たのか……。くっ付かなかったんだな」
「当時王都は汚職やら何やらでゴタゴタしていたそうだし、欠損を修復できる治療師なんて早々見つからんだろう。ましてや、王族に逆らった子爵を治療しようなんて酔狂な者はな。間に合わせに傷を塞ぐ位は誰かがしたんだろうが」
……腹の中の魔術が吹き荒んで暴れだしそうになって来た。
頭も痛くなって来たし、当時に生きてたら怒鳴り込んでやりてえしブッ飛ばしてやりてえ。
ウチのじーちゃんもだが……ルディのじーちゃんの状況も酷過ぎんだろ。
「だが、これ幸いだな。僕にはお祖父様の御加護が有るかもしれん」
腕がかよ。言っちゃあなんだが、腕に何か有んのか?
魔力は全く感じられねえぞ。普通の石碑に見える。
……いやでも石碑だからって気を抜くのは駄目かもしんねえな。何せあの女神像やら御神像も別に魔力の気配全くしねえのにあんな変な加護あんだからな。
「御加護?……前バルトロイズ子爵エンバルド殿に何かそう言う……スゲェ能力有るんスか?」
「サジュの思うすげぇ力が何か分からんが、そんな物が有れば僕がもっと人外じみている筈だろう」
「……アンタも先輩も結構人外じみて……いや、まあそれ以上何も無くて良かったスね」
「どーゆー意味だよボケ。
人外じみてんのはアレキちゃんだろーが。まあルディも何かどっかおかしいけどな。俺は人外とは断じて違う」
「そのルディ様とアレッキオ卿を閉じ込められる時点でアレだぜ先輩」
聞こえねえ。
俺の魔力がどーとかは生まれつきであって、頼んだわけじゃねえし。
まあ、有るからには便利に有効に使いてーけどよ……。
「ああ、流石レルミッドだ。ムラの無い均等な結界だな。すまんが維持を頼むぞ」
こて、とルディが首を傾げて歩き出す。
……?何処行く気だ。
何か変な鳴き声もすんな。
「何処行くんスかルディ様!!変な鳴き声してますよ!?」
「何処も何も、因縁退治に決まっているだろう」
「いやオレも行きますって!!つか、オレんちですし部屋分かんないでしょ!?」
「レルミッドの結界のお陰で無力化していると思うぞ」
「気が立ったミーリヤ様にぶった斬られたらどーするんです!!あの人の剣アホ程早いから魔術で反応出来ねーんですよ!!」
「ほう、一応味方のミニアの方が怖いのか。困ったものだな」
「ああ怖いですね!!長距離なら兎も角それ以外なら間合いとか通じねーし!!」
「散々だな。では頼むぞレルミッド」
「おー」
……この時は大丈夫だと思ったんだよ。
ミーリヤねーちゃんも居るし、サジュも居るしよ。ルディに何か有るなんて思いもしなかった。
確かに、ルディは無事だった。レッカも一応ガーゴイルの姿だけど、無事だった。
……何で俺はあの時一緒に行かなかったのか、無策でアイツ等をあっちにやったのか。
回復魔術とは相性の悪い俺だが、何かアイツ等にも防護壁を掛けるとか、有ったのに。
あのクソボケブスに連なる……いや、じーちゃん達からの恨みつらみの根源のババアに向かわせるべきじゃあなかった。
この戦闘特化な組み合わせじゃ無くて誰か、回復魔術の使い手を連れてくるべきだった。フォーナとかな。
危なくても俺が守ればサジュはこんな目に遭わなかった。
悔やんでいる。多分、一生悔やむだろーな。
「んな……顔すんなよ、先輩……レッカも泣くな」
「サジュ、サジュ……!!ごめんなさい、ごめんなさいいいい!!」
俺なんて何の力もねえただのガキだ。
ルディとレッカを庇って、顔の左半分にあの魔術の沼を被った。
剥がれねえ。
あの、二股の滴の沼が、剥がれねえ。
サジュの手当ても出来ない俺は、無力だった。
事の顛末はこうだ。
ミーリヤねーちゃんがババアの言動にブチ切れて、レッカを乗っ取ったババアを拘束したらしい。
倒れた花瓶の中の花を使ってな。それはスゲエ話だ。
で、サジュの案内を受けたルディが入り込んで、無力化させようとした……。
先にカータに握らせていた菓子の中に、起点となる石を渡していたらしい。
玉座の石毟った奴らしいがそれはどうでもいい。
それ自体は上手く行ったらしい。
沼は消えた、ように見えた。
「……何をぉしたのぉ?」
「僕も一応ドゥッカーノ王族なのでな。本職では無いが徴を貼り付けるのは可能らしい」
あの手に持ってた本。
アレは、元々ティムの野郎が探し出したモンだったらしい。だから結構奥の方に仕舞い込まれて見つけるのが大変だったらしいが。
あの大騒動『スキル剥がし』の元になった、徴。
その徴は元々、あの意味分からねえ女神だけじゃなく他国の神……コレッデモン王国でも信仰していた神の加護も有るらしい。
「しろい蝶々、色々できるね。話むずかしいの?」
「そうでもない。単純な話だ。魂の四分の一が『王女ローリラ』なのだから、それを削れば良かろう?」
「ルディ様……それ、四分の三で生きろって事かよ!?」
「ならばサジュ、レッカの魂の四分の一を残したまま、今一生を終えさせるか?」
「っ……」
油断、だったんだろーな。
俺の結界がもーちょっとちゃんとしてりゃあもっと強力に無力化出来てたのかもしんねえ。
ババアが削られたとはいえ、レッカ自身には皆警戒はしてたらしい。
薄暗い部屋の中、消えていた沼が浸食して、跳ねようとしてた事に……誰も気付かなかったらしいんだ。
「ま……ダ……諦めナいもんッね……」
しかも二方向。
違う場所に飛んだ飛沫のような、二股の滴の沼の跳ねに気付いたのは……魔力操作の下手くそな、だが唯一水属性のサジュだった。
レッカと、ルディ。
ババアに狙われたのは両方。
「ルディ様、レッカ!!」
サジュは一瞬早くルディに襲い掛かろうとした沼を浴び、レッカの体に覆いかぶさって……。
「サジュ!!」
「サジュちゃん!!」
飛沫自体は、小さなもんだ。
だが……だが。
張り付いた沼は、じわじわと浸食していく。
「あ……」
「……ガーゴイル、起きた?」
「え、何!?カータ!?え、いや、サジュ!!?どうしたのサジュ!!イヤアアアアアア!!」
大声を上げるレッカの悲鳴で駆けつけて、見たのは左の目から頬にかけての顔が二股の滴の沼に浸食されつつあるサジュ。
そして、俺が聞いた事の顛末だ。
「……連れてくるわ」
「……誰をだ、ミニア」
流石にミーリヤねーちゃんに答えたルディの顔が青褪めてやがる。
いや、俺も皆似たようなモンだと思うが。
「……王族で、徴と回復魔術の使い手に決まっているでしょう」
「……仕方あるまいな」
「別に呼びに来なくて良いよ。どうせこんな事だろうと思ってた。面白い顔だなショーン。ああ面白い、こんな戦闘特化の組み合わせで来るなんて、ホントツメが甘いね」
……この声は。
この、特徴的な……人を誑かすような甘い火の魔力は。
「だからガーゴイルなんて焼けば良かったのに。騎士サジュ迄こんな目に遭わせて」
燃えるような赤毛に、凍る冷たい薄い青の目の、同性でも無駄にムカつく位ツラの綺麗な野郎。
「……若様、それよりも」
「ああ、分かっているよ。騎士サジュは大事な君の義理の弟だもんね、ルーロ」
砂色の男を背後に従えた、紺色の外套を着こんだ野郎、アレキちゃんが……居た。
何でもかんでも見て来た、みたいな何時ものムカつくツラで。
「俺にも借りが出来たね、騎士サジュ。助けて欲しい?」
「アレッキオ、卿……。ルーロ……?」
サジュの声がアイツ等を呼んでる。
……腹が立つ。
この野郎共は本当に腹が立つが、コイツらが来た事でサジュが助かると思ってしまえたのが、自分の無力さが悔しい。
だが……そんな事も言ってらんねえ。只でさえコイツは義妹の事以外は適当な奴だ。
でも、だが!!
「おい、アレキちゃん、ノロットイ。俺が頭下げりゃサジュを助けんのか?」
「……レルミッド?」
「へえ、珍しいね、鳥番。俺達を嫌いなのにどうしたの?その古代の屑の毒気にやられた?」
……腹立つ。マジ腹立つ!!ホント殴ってやりてえ!!
「……如何致しましょう、若様」
「そうだねえ……鳥番よりもショーンが頼むのが見たいなあ」
小首傾げてあくどい笑い方すんな!!サッサとしろやボケ!!間に合わなくなったらどーすんだ!!
と、怒鳴りたいところだが……ああああああ!!
ルディ!?ルディだと!?
ルディがアレキちゃんに頼む訳ねえだろ!?コイツ、何言ってんだ!?
言えるもんなら言ってみろみたいな目しやがって!!
「僕か?」
「だってショーンの責任だろ。ショーンの責任下で騎士サジュが負傷したんだしね。間違いなくショーンの判断が甘かったせいだよね、うん。ガーゴイルの中身を侮ったショーンが全面的に悪い」
そのツラ!!
……あああああああ!!ぶん殴りてえ!!アレキちゃんマジぶん殴りてえ!!
「ふむ、まあ最もだな。良かろう」
「……は?」
訝し気なアレキちゃんの前にルディが立った。
……タッパ同じだな、コイツら。いやどうでもいーんだが。
「サジュをどうか助けてやってほしい、ユール公爵。お願いします」
……嘘だろ。
頭下げた。
ルディが頭下げやがった。しかも、キラッキラした笑顔で!!
あのルディがアレキちゃんに!!あの、アレキちゃんに!!
俺らは勿論だが、言った本人のアレキちゃんも目真ん丸にして珍しく固まってやがる。
「「「「……」」」」
「ぼうよみだね」
……いや、そうだろうけどよ。
地味に冷静だな、カータ。ついちょっと前菓子貪り食ってたガキなのによ。あ、1個下だっけか?
「うわ気持ち悪い。ショーンに謝られた気持ち悪い!!」
鳥肌立ったみたいだな、アレキちゃんが後ずさってやがる。
珍しい。珍しすぎるが……いや、お前が言うなや。
「お前が言えと言ったんだろうが。騎士サジュを治してあげてくださいユール公爵閣下。王子ショーンがお頼み申し上げます」
「止めろ気持ち悪い!棒読みと気持ち悪い笑顔で迫るな!!近づくな!!失せろ!!」
「茶番は宜しいですか?……処置に入りますね、若様」
……チビがサジュの手当てに入ったみたいで良かったけどよ。
あ、ルディが戻って来やがった。
滅茶苦茶嫌そうなツラだな。
「はあ、気持ち悪い。……アレキに笑顔で頼みごとを迫るなんて……本当に気持ち悪い体験をしてしまったぞ。近寄って鳥肌が立った」
「だったらやるな!!二度と俺に近寄るなショーン!!」
「誰が自発的にお前に近づくか馬鹿アレキ。僕の感情よりも人命の方が大事だろうが。まあ、命に別状はないだろうが……」
そ、そうなのか?
だったらいいんだが……。あ、サジュの顔の沼の柄がちょっと薄くなってんな!!
「サ、サジュ……。サジュ、御免なさい……」
「レッカちゃぁん、貴女も大丈夫ぅ?」
「あ、ああああ……。だ、だい、じょうぶ……です」
「良いからぁ、違和感がぁ有るでしょぉ?」
「み、右手がちょっとおかしいかも」
「……伯爵ぅ、サジュちゃんのお次はレッカちゃんも診て貰えるぅ?」
「承りました、花咲か令嬢……。此方でお会いしたくありませんでしたね」
……いや、無事……でも完全な無傷でもねーんだよな。
サジュは、大丈夫なのか。レッカは……。
そして良いところを浚っていく悪役令嬢主従で御座います。




