方々を拝んで回りたいわね!(ドリー目線)
お読み頂き有難う御座います。
この人達もご招待されたようですね。
「まあ! そのオンセーンとやらに、我が家の者までご招待頂けるなんて!!
若様は本当に善意の化身であらせられるわね!! 善行を成され過ぎよね!? この前領地で見つかった石で石碑とかお造りするのってお幾ら掛かるのかしら!?」
「ドリー、煩いよ。後、オンセーンじゃなくて、温泉。保養地。
若様に感謝を述べるのは構わないけど、石碑は止めて」
お、怒られてしまったわ。
でも、保養地ですって!! 新聞で読んだ事有るわ!
ついこの間迄、爵位保持も危なかったというのに……保養地ですって! 何て素敵なお金持ちな響きなのかしら……。
そんな贅沢をしていいのかしらね! 若様に更なる感謝を捧げなきゃ。ああ、義妹姫様にもよね!!
それに、ルーロさまも様々よね! 様を幾つも付けたい気分よ! この前は何だったかしら。様を幾つも付けてお呼びしたら、滅茶苦茶怒られたから言わないけど!
「保養地! 何てお金持ちの響きなのかしら! 新聞では見たことあるわ! で、その温泉って何かしら」
「地面から湧き出す湯を引いて、風呂にしたものだけど」
「地面からお湯! どういう理屈なのかしら。……火属性の若様になら造作無さそうね」
「お出来になれるだろうけど、温泉は自然に湧き出たものだよ。川や池と同じ」
「薪代が掛からなさそうでいいわねー」
「ムニャ……ビエ……」
「まあ、イジェ!何てこ、小声なの……!! 母は嬉しいわ!」
「ドリー、煩いし大袈裟だし、何その一人称。似合わないし、お母様とかで良いだろ。
イジェが起きるから静かにして」
うっ、酷いわルーロさま。ちょっと威厳を出したかっただけなのに……。
でもいけないわね、親の大声で起こすなんて。
それにしてもイジェノアの小声は、鶏の羽音のように可愛らしいわね。この呪いに関しては本当に良かったわ。
呪いは嫌だけど! ええ! 嫌だわ心の底から!!
「えーと、その温泉でお茶も飲めるの? お鍋でシチューも作れるかしら」
「基本風呂に使うには、調理に使う温度じゃないけど、高い温度の所も有るらしいよ」
「便利ねえ……。そんな素敵な土地に行けるだなんて。大きいお鍋と……実家からキャベツを持って行かなきゃ」
確か、未だ保存庫にキャベツ有ったわよね? 早く使わないとシナシナになっちゃうもの。
それとも、もうウシーヌが食べちゃったかしら。ちょっとオバアちゃんになってきたから、牧草よりもキャベツ派になったものね。少し苦くなってたけど……大丈夫かしら。まあ、余ったらウシーニアンとウシボンとウシーゼが食べるわよね。
あ、ウシーニアンとウシボンはウシーヌの息子牛で、ウシーゼは姪牛なのよ!
「止めて。普通に外食するよ」
「えっ、そうなの!?でも、イジェノアの離乳食が」
「別荘の厨房を貸して貰えるから。後、普通に野菜ぐらい向こうで買う」
「ご、豪気ね」
「大袈裟な……」
でも、旅先でお野菜を買うなんて、何という贅沢……。きっと想像も出来ないような未知なるお野菜が有ると思うわ。予算が許すなら、手当り次第何でもかんでも特売を試してみたいものね……。
「変わったお野菜が有るのかしら。特売で種を買って帰りたいわね。きっと皆喜ぶわ」
「領民の為に?……まあ、良いんじゃないの。俺が行く度平伏すのはやめて貰いたいけど。切実に!」
「ルーロさまは照れ屋さんね!」
「そのニヤケ顔は止めて。笑うなら大口を開けろ」
「そ、それはー、はしたないから止めろと……ね?
この間の臨時淑女教育でビシビシ叩き込まれたからー……」
うっ、脳裏にマデル様の笑顔が……!!
豊かな胸で揺れるハサミの音が!! お綺麗な指先で本を捲る音が!! ルーニア様までやって来られそうで、滅茶苦茶怖いわよおおおお!!
「うううう!!」
「別に、家の中なら大笑いしても良いのに」
「家の習いが外に出るそうなのよ。
あら?外で習ったのに……何で?
怖くてお聞き出来なかったわ……」
うっ、ルーロさまからが視線も痛いわ。い、一体何を間違えたのかしら……!?
「そうだけどそうじゃない。
良いから荷造りしよう。イジェの分は俺が詰めるから、ドリーは俺の分と自分の衣類を頼んだよ」
「お鍋はどっちの鞄がいいかしら。割れないように衣類で包まなきゃね。あ、スプーンとフォークと取皿を」
「什器も鍋も要らないって聞いてた!? 衣類だけでいいからって言っただろ!?」
お、怒られてしまったわ……。
で、でも旅行なんて初めてね! 何を持っていったら良いのかしら。
「歩き易い靴と動き易い衣類、公式の場に出られそうな靴と衣類にしろよ」
「……えっ、公式の場に!?」
「何? 俺とは公式の場に出たくないの?」
「そんな事有る訳ないじゃない!! 私はルーロさまとなら何処へだって行ってみせるわ!!」
「そ、そう。分かればいいけど」
「た、ただ、この前ちょっと靴のヒールを打ち付けて踏み抜いてしまったのよね……。修理屋さんの割引を待ってて……それで」
「……靴は向こうで買おう」
「えっ、そんな贅沢な!!」
「……一応伯爵夫人なのに、靴を二足しか持ってないのも、かなり大概だと思うよ」
「どうして? 穴も空いてないし、何処にでも行けるいい靴だわ」
「……」
そ、そんな残念な顔をされても困るわ……。でもそんなお顔のルーロさまもとっても素敵ね!
……いえ、めっちゃくちゃ怖いわね。
そ、そう言えば……あ、愛する殿方に贈り物をして頂く時はお断りしてはいけないって!! お心遣いを無駄にすると淑女失格って!!
……えーと、ルーニア様が仰ってて……あれ? レトナ様だったかしら?
ど、どちらにしろ、そりゃそうよね。
「ご、御免なさい。買って頂くわ」
「え、急に何。顔色悪いけど」
「いえ、滅茶苦茶楽しみだわ! お靴にお野菜! 後、オンセーン! ……えーと」
「温泉だってば」
「……えあーん!!」
「あっ、イジェが泣いてるわルーロさま! 本当に静かね!」
「まあ、呪いの力で静かになっただけだけど。……ノロットイぽいよね……」
ルーロさまがボソッと言いながら、イジェの首を撫でているわ。
……ま、まあ……呪いは嫌いだけれど……これに関しては滅茶苦茶助かるわね。ええ。
……流石に我が子の声の近所迷惑が……結構遠方まで広がるのは堪えたわ。寝不足はしょうがないんだけど……。
「そういや、イジェもノロットイの血筋なんだものね……」
「……滅茶苦茶今気付きました、みたいな顔されても……。何、嫌なの?」
「そんな訳無いわ!! 何でもかんでもルーロさまなら大好きよ!?」
「ふぇあーーーん!」
「……ドリー、早く荷造りして。イジェノアにご飯あげてくる」
うっ、ルーロさまに呆れられてしまったわ。
「全く……。若様の計らいで遅ればせながら新婚旅行だってのに」
「えっ、新婚で旅行!? 何それ!?」
「コレッデモンと習慣が違うのは知ってるからもういい。早くして!」
な、何で耳が赤いのかしら。ああ、愛しいわ抱きしめたい……! 手が、手がつい動いてしまうわ……。
「……変な動きしてないでドリー、早くしてよね」
「ひゃ、ひゃい!!」
もしかして、このノリだと……保養地でイチャイチャとか?
か、叶ったりするかしらね。そ、それは期待しちゃっても!
「キャー!! 嫌だわドリーったら! 恥ずかしいーーー!」
「ドリー、煩いよ!」
ドリーは今日も元気に、雰囲気クラッシャーで御座います。




