フォーナはヒロイン属性過多なのよね
お読み頂き有り難う御座います。間が空いて申し訳なく。
四代目ヒロイン、フォーナがいつも通りテンパっております。
「はわ、はわわわわわ」
「あらー可愛らしいわー。裾を短めにしてみたけどー」
「ここここ、これでですか!?す、裾を踏んじゃいます!!」
え、ええ……?
フォーナったら、運動神経良いのに脹ら脛丈のスカートを踏むのか……。謎ね。
流石に私は床に摺りそうなスカート丈で長年暮らしてるから、転けた事は無いのだけれど。まあそれだけは自慢できるようなそうでもないような、よね。うう、運動神経欲しいわ。
しかし、マデル様のお持ちものだけあって、センスの良いドレスね。フォーナの髪の色とよく合う明るい黄色かぁ。ああいうのもとっても素敵。顔が可愛らしいからよく似合うなぁ。
……でも、ちょっと……上半身に足掻きいえ、詰めた跡が見てとれてしまうのは、知らないフリをしなきゃね。ええ、フォーナは細くてスタイルがいいのよ。私と違ってね。
えー、此方はコレッデモン大使館なのよ。
朝からまた……テンプレかと思う程喚いて怒る義兄さまを宥めて、シアンディーヌが転がって、アウレリオにじっと見つめられたりして……いや、シアンディーヌとアウレリオは騒いでもいいのよ。問題は義兄さまよ。
あのひと、仕事に行くのに何なのよ本当に!?
「あーらー、いらっしゃーいー。お花ちゃんー」
いや、いかんいかん。お呼ばれしたのに私ったら!
「お邪魔しておりますわ、マデル様。ええと、フォーナ。もう少し……膝を伸ばしてみてはどうかしら……」
「はうううう!裾が足に纏わりつきます……!!スベスベで可愛らしいお服ですが、私には似合いません……!!」
せ、静電気かしら。そんなくっ付いてるようにも……いや、ちょっと何故か……スカートと分離してるペチコートが滅茶苦茶足にくっ付いてるわね。どうなってるの?そんなに今日は乾燥してた?
「あのあの、アロンさん?どうしてそう優雅なんですか?お嬢様だからですか?」
「いえ、全然優雅なお嬢様じゃないわよ。
付け焼き刃な私の立ち居振る舞いよりも、マデル様を参考にした方が良いわ」
「お花ちゃんはー、自然に出来てるーわよー。偉いえらーい」
そ、そうかなぁ。
マナー本を読んだ甲斐が有ったかしら。マデル様に頭を撫でられてしまったわ。
でも確かに静かに姿勢よく歩くのって……大変だものね。
そういや義兄さまは浮いてんの?って位に足音がしないけれど……。アレはマナーの成果なのかチートなのかどっちなのかしら。
「はわあああー!あ、あわあああああ!!」
「え、ちょっとフォーナ!!」
「あーらまー、縫い目が弱ってたかーしらー」
目を離したらズベシャアアアアって、ああ!!
可愛らしいドレスが、膝から転けたフォーナが踏み抜いて……縫い目が破れちゃった!!
……裾は分かるけど、何故袖まで?それ所じゃないけど、気になるな。
「すすすすすみません!!べ、弁償を!!いえ、足りませんよね!?私の全財産を!いえ、これから生涯高金利で弁済させてくださいいいい!!何なら身売りをおおおお」
「落ーち着いてー。型落ちの古いドレスが多少ー破れた位でー気ーにしないで良くてよー」
え、型落ち?こんな素敵なのに?
……流行が全く分からん……。やはり、追った所で似合わんからと諦めるべきではなかったわね……。
それに奴隷宣言が聞こえた気がしたのだけれど……。
「ととととんでもありません!マデルさんの素敵な思い出のお衣装を破ってしまったのに!!
はわああああ!!どうやって償えば!?」
「いいーのよー。普通にー昔はー泥汚れとかー付けてたーしねー」
「えっ、マデル様が泥汚れ!?ですの!?」
全く想像が付かないわ!外遊びがお得意そうには……ああ、でも……ソーレミタイナでは、普通に埃っぽい階段の上り降りもされていたわね。
「普通にー領地視察とかで歩くとー、雨もー降るしー泥ぐらいー被るわー。今でもよー」
「まあ……!!流石公爵様ですわね!
……私なんて公爵夫人の癖に、そんな視察を単独でした事が無くて恥ずかしすぎますわ」
「親がー行かないもんだからー仕方なくよー。単独で普通はー行かないわー」
「ご、ご苦労なさっておいでですのね」
色々お有りなのね。
まあ、私も親には……いや、どんなんだっけ。顔忘れたわね。私の親なら多分モブ顔よね。
養父母もボヤーっとしか思い出せないのだけれど。まあどうでも良いか。多分もう関わる事も無いでしょう。家名も分からないし必要もないわ。
しかし私も忘れっぽいわね。その割にはゲームの知識とかこびりついていたし……。よく分からないわね、我ながら。
「あのあのあの!せめて!私にお掃除をさせてください!お庭なら綺麗に掃き掃除出来ます!」
「まあー掃き掃除がーお得意なのねー?素敵なー特技ー」
「はいっ!お掃除だけは物を壊さないんです!お食事を用意したり、お使いしたりすると壊してしまうんですが!」
「そ、そうなの……」
クラッシャーなヒロインだったのね、フォーナ……。
いや、ブライトニアもクラッシャーか。……姉妹って、似るのね。何でや。
でもなぁ、確かに掃除が得意なのは良いことだけれど、其処に特化チートなの?よ、よく分からないな。
「先日雨が降りましたし、お砂を撒いてお掃除しますね!」
「やーる気ねー」
「あの素敵なお服には届かないでしょうが、毎朝お掃除に来させてください!」
「気ーにしなーいでー」
「はわわ、そんな訳には……」
でも、あのドレス……滅茶苦茶高そうだしなぁ。私も援助を……いや、個人資産も無いのに口を挟めない。うう、もどかしい!
って、あら?ノックの音が。
「マデリーン様、お客様で御座います」
「はーやかったわねー」
「え?何方かお約束の方がいらっしゃいましたの?」
「はわあ!?」
「と言うかー、フォーナちゃんのーお客様ーよねー?」
え、どういう……はっ!まさか!
「レルミッドちゃんよー」
「はわっ!?」
「やったわね、フォーナ!」
そして私とマデル様は、レルミッド様とフォーナの邪魔をすまいと席を辞そうとしたのだけれど……。
「お願いです!レルミッドさんに失礼や粗相をしないよう居てくださいいいいい!!私には、緊張感が足りないんです!!」
とフォーナが泣くものだから……。続き部屋に居ることになってしまったの。しかもフォーナったら破れたドレスを着替える暇も……い、良いのかなぁ。一応ショールで袖は何とか誤魔化せてるけど、裾が……ペチコートが誤魔化してる、かしら?
で、何と、壁が特注の薄さで隣の声が丸聞こえらしいわ。
……凄いな。壁の特注って分厚くするんじゃないのね。
「あー、フォーナ」
「はいぃ!?」
「……当たって悪かった」
おお、本当によく聞こえるわ。良いのかしら……。
「いいいいいえ、レルミッドさん!私が愚鈍なのがいけないんです!私、私……オールちゃんみたいに、シャキシャキしてませんし」
「オールちゃん……って、フロプシーか?……いや、お前が妹みてーになるの止めとけや……」
「似合いませんか!?」
「つか、俺はフロプシーには惚れてねーだろ」
ま、全くよね……。良かったわ、レルミッド様がマトモでいらして。と言うか、其処まで気にするなんて……。ブライトニアへの根深いコンプレックスが有ったのね……。意外……。
「……はわわ、でしたら何方を参考に……はっ!アロンさんを参考に!」
「いや聞けや!今結構恥い事言ったぞ!?て言うか義妹の真似も止めろ!」
「はわあ!?え、ええと、す、すみません……!!」
何て事……!!ヒロイン難聴はフォーナにも備わってたのね……。
いやあ、手に汗握る展開だわ……!!サポートキャラやってて良かった!ま、まあ今更?って気もするけれどね。良いのよ!可愛くて素直な悪どく無いヒロインの恋愛は尊いものなの!
「えーとだな、その……取り敢えずこの花、やる」
「あっ、マデルさんへのお土産ですね!今使用人さんにお渡しします!」
「違えだろ!お前にだよ!!」
「はわ……?」
え?い、いい雰囲気なのに、ちょっと……!?
これは……ヒロイン勘違いも装備中なの……?可愛らしいけど、でも、お声でもレルミッド様がブチ切れつつあるのが分かるわ。どうしよう。
「こ、こんな綺麗なお花を私に……!?はわわわわわ!も、勿体無いですよお!」
「……もう毟ったんだからしゃーねーだろ。要らねーなら」
「要ります要ります!!はわあ!お花を頂いたのはニックから以来です!」
フォーナああああああ!?
思わずレルミッド様のお言葉を聞いていられなくて、マデル様を見てしまったわよ。ええ、見事に美しいお顔が固まってしまっているわ。
「あ、そ……」
く、暗いお声……。抑えた、抑揚の無い……。まるでゲーム中の対ロージア向けのお声のよう……。
「はわあ……。お花って頂けるとこんなに素敵なんですね」
「……」
「れ、レルミッドさん?ど、どうなさいました?あの、お返しを」
「要らねーよ。
つか、今日も帰らねーんならそー言っとく。じゃーな」
「え、あの……?あ、あのあのあの!?レルミッドさん!?」
バタン、と……!!音がしたってことは……扉は無情に閉まってしまったの!?
こ、これ……。
本家本元の乙女ゲームなら、フラグがバッキバキに折れてない?
そ、即死ルート……は言い過ぎか。でも、確実にルート続行不可能の選択肢では?
……いえ、落ち着くのよ……。取り敢えず乙女ゲームのシステムの支配下からは逃れてる筈……。
「わ、私……何かマズい事を……」
「フォ、フォーナ……」
あ、フォーナが駆け込んできたわ。可哀想な位、滅茶苦茶顔色が悪い……。
「お、おおお教えてください!おふたり!一体私は何の失言を!?」
え、分かってないの!?鈍くない!?フォーナってそんな空気読めない子じゃないわよね!?いや時々ボケボケだけど!!レルミッド様には気を遣いまくってた……いや、変わった行動には突っ込まれてはいたけれど。
「んー?じゃーあー、直接的に言っちゃうーわねー」
「マ、マデル様!?」
「レルミッドちゃんにー『貴方のー贈り物はー素敵だけどー?所謂二番煎じーだわー』って受け取らせちゃったーわねー」
……本当にストレートなお言葉だわ。当事者でない私の頭と胃とを直撃するくらい。
フォーナが更に真っ青になっているもの。
もしかして。
乙女ゲームのシステムの支配は、まだ続いているの?
4はゲームとしてもう終わっているのよね?攻略対象オルガニックさんは悪役令嬢フィオール・ブライトニアの手に落ちた、のだもの。
3の攻略対象と4の主人公の恋が成就しないよう……未知の魔の手が!?
現実だとして見てきたけれど……、このゲームでは有り得ない組み合わせ……すれ違いっぷりは乙女ゲーぽい。
考え過ぎ、かしら?
例えそうだとしても……現実として、この恋をゴリ押し出来ないものなの?
……そうよ、私はヒロインの素敵な恋を応援するサポートキャラなのだもの。
現実でも何でも、出来る限りフォーナをサポートしたいわ。
「フォーナ、レルミッド様を追い掛けましょう」
「はえ!?」
「泣いていてはダメよ。このままではすれ違いが重なって、誤解が深まってしまうわ」
「お花ちゃんはー思い切りがー良いわねー」
「で、ですがご迷惑」
「レルミッド様はフォーナに迷惑だとか言われる方ではないと思うの。違うかしら?」
「ち、違いません!!」
こうして……。
コレッデモン大使館から走り出したフォーナは、レルミッド様に無事追い付いたの。そして愛を告白し合った往来で抱きしめあうふたり。
道行く人々からは、ヒューヒューと皆さんの口笛を浴びて……沿道には花を撒く人々が押し寄せ……。
「何の用だ、小娘。お忙しいレルミッド様の邪魔をするな」
「はわあ!?貴方は……」
え、誰よこの紫の髪の人!?滅茶苦茶邪魔なのだけれど。
と言うか、妄想してた通りに行きそうだったのに!邪魔なのはどっちよ!
ん?紫?それに、この偉そうな物言い……。何処かで聞いたような……。
アローディエンヌがサポートキャラ的に頑張ってますね。




