大人のレディの御意見
お読み頂き有り難う御座います。
久々にコレッデモン王国の頼れる悪魔の四騎士お姉さんこと、マデルの登場です。
令嬢から公爵となってます。
「レルミッドちゃんがー繁忙期でー、その隙を狙ってー、フォーナちゃんとの仲を裂こうとしている輩がいるってことねー」
話がお早い……。
コレッデモン大使館……通称サルカニ合戦館、だったかしら。……ウケる暇もないわ。いえ、嘘。来る度心の中で突っ込んでしまうけれど。
やってくるなり、えぐえぐ泣くフォーナとアタフタする私を座らせて、拙い説明を聞かれたマデル様は、美しく頷かれたの。
うーむ、頬に添えられた指先まで真珠のように整えられて滅茶苦茶美しいわね……。
「ふええ、すみません……。私が未熟なので……」
「未熟だろうとーこなれてようとー、人を引っ掻き回したいーお邪魔虫は何処でもー湧いちゃうのよー。
ましてやー色恋沙汰に付け込むのはー簡単だものー」
そ、そうなのか……。流石人生経験が豊富で深くてらっしゃるわ。
私なんて前世込みでこの体たらく……実に見習いたい……。まあ、最早前世は乙女ゲー三十路オタクだという記憶しか無いのだけれど。
……うーむ、碌でもないわね。悲しくなってきたな。
「レルミッドちゃんをー独り占め、もしくはー、徴呪章院のーレルミッドちゃんにーしたいんでしょうねー。その職員とやらはー。
よーくあるー話ねー」
「はわっ、よく有るんですか!?」
「王族ってそーういうー輩に絡まれ易いのー。
勝手に憧れられてー奉り上げられる感じー?」
成程、生まれ持ってのナチュラルカリスマ性というやつね。
私には皆無だけれど……確かに、ルディ様もレルミッド様も義兄さまも……お持ちだわ。慕っている部下は多いものね。
ティム様は……心に未だ厚い壁を築いてらっしゃるようから、分からないけれど。あのお口の回りようだと丸め込めるシンパいえ、過激な部下も増えそうではあるわね。怖いな。
まあ……流石にレルミッド様の故郷で更なるオイタはされないでしょうけれど。
レルミッド様の故郷の皆様はお強いらしいし。そりゃそうか。レルミッド様の故郷だものね。
でもそのカリスマ性溢れる全員が王位を望んでらっしゃらない……。
皮肉な話ね。確かにまあ……過去の話を伺うと、継ぎたくは無いでしょうけれど。
かと言って……王妃様との間に跡継ぎの王子様が生まれる確率も……。
「あのあの!レルミッドさんは、お優しいんです」
「そうねー」
はっ、しまった!ボケッとまた他の事考えてマデル様とフォーナの会話をスルーしてしまった!!
ど、どうなってるの!?
「物事もハッキリ仰います。グズな私と違って……」
「フォーナは愚図じゃないわよ」
「不用意な言葉ばかり出てきちゃいます。
私には何が出来るのか……。レルミッドさんの為に何がしたいのかも分からないんです。ふええ……」
「それはー有る意味ー大事かもねー」
マデル様が頷かれてるわ。……そこまで深い話には至ってないみたい。良かった。真剣に聞かなきゃ。
フォーナにハンカチを差し出して、背中を撫でといたわ。
「はうう……アロンさん、すみません……」
「謝らないで、フォーナ」
「そう言えばー、フォーナちゃんはーレルミッドちゃんとー、どうなりたいのー?結婚したらーめでたしめでたしーはい終わりじゃないのよー?」
「はうう……!!」
「うっ……!!」
め、滅茶苦茶刺さるわ。
ノープランで此処まで半ばダラッと流されて来た身に、マデル様の切れ味鋭いお言葉が刺さる!!
「はわ!?アロンさん、どうなさいました!?お声が痛ましいですよ!?」
「体のー調子がー悪いのー?」
しまった、声で感情を読まれてしまったのね。いや、顔色で読めないから当たり前か。……最近声に感情が乗ってきたようで良かったのか悪かったのか……。
「ち、違うんですのよ。少しその、考える事が……ふ、深いなぁと。
お気遣い有り難う御座います。ですがフォーナの事が先決ですわ」
何言ってんのか意味不明過ぎないかしら、私!!何考える事が深いって!?あああ!!狼狽えすぎでは!?
「お、お優しい……アロンさん、お優しくて、本当に……ふえええ!!」
「フォーナちゃんはー少しー自信がないのが悪いところねー。
ウサちゃんやーアレッキオちゃんから分けてー貰ってもー良さげよねー」
「そ、それはそれで……変な反応を引き起こしそうで反対ですわ」
あのふたり……毒気が強すぎるのだもの!!あの気性を混ぜる材料にしてはならないわ!!フォーナに悪影響としか!!
「お花ちゃんもー元気出たみたいねー」
「あ、いえ……その」
「あのアレッキオちゃんとー普通に暮らせてー、結婚生活送るのはー普通に無理だからー。よくやってるわよー。
偉業よー」
「そ、そうでしょうか?」
義兄さまも結構に結構な評価されてるのね……。いや、当たり前なんだけれど。多少面倒ではあるけど、偉業ではないと思うわ。
「アロンさんのように、強くなりたいです。私も……レルミッドさんの助けに……少しでもなりたいんです……」
「え、私!?強くなんてないわよ!?」
何処が何をどうしてそう思われてるの!?
「いいえ、アロンさんはアレッキオさんと恙無く支え合ってご夫婦されてます!」
「……恙無く……かしら」
「見えてるものがー全てではー無いわー。お花ちゃんにもー苦労があるのよー?」
「す、すみません」
「物理的にー助け合いたいならー、何かのスキルレベルをー上げるとかー有るけどー?
でもー、レルミッドちゃんの求めてるフォーナちゃんはーそういうものなのかしらー?」
レルミッド様の求めているフォーナ……。そのままで良いと思うけれどなぁ。
「わか……りません」
「まあー私もー、オーフェン様にー何を求められてるのかー分からないわー。偶にギョッとしはするけどねー」
「まあ、バルトロイズ様がですか!?」
「はわ……」
そんな吃驚トリッキーなお求めされるような方にはとても見えないけどなぁ。
夫婦同士のお茶目な何かがあるのね、きっと。ううむ、良いなぁ。
「お花ちゃんとーフォーナちゃんのー思ってるようなフワッと可愛い感じじゃー無いわー」
「はわっ!?で、ですがマデルさんとバルトロイズ子爵様は大人で……堂々とされてます」
「落ち着いてらっしゃいますわよね」
比べるべくもないけれど、理想となる羨ましい大人カップルよね……。
「そう思ってくれるとー装い甲斐があるけどー。
可愛い子ちゃん達はー騙されちゃダメー。
悪ガキちゃんからー中身そのままー育ったー大人げない殿方がー偉そうにーその辺にー居るのー」
な、何が有ったのかしら……。マデル様の美しい黒の瞳が濁ってるような……。き、気のせいよね。ええ。
動かれた途端胸元の鋏が何故か苛立たしげに金属音を立てたわ。
場違いだけれど羨ましいわよね……。羨んでも仕方がないことなのだけれど。
「……私、自信がないんです」
フォーナもマデル様の胸元に釘付けね……。
体型コンプレックス……わ、分かるけれど。滅茶苦茶分かるけれど!
「私、レルミッドさんのお好みとは違うんです」
巨乳好き……いえ、豊かな肢体の女性がお好きでらっしゃるものね。いや、つい同性と言えどガン見しちゃう私に言われたかないでしょうけれど。
「まーあー?見た目の話ー?じゃあ、フォーナちゃんのーお好みはー?」
「ふえ?」
「レルミッドちゃんのー見た目でー一目惚れしたのー?」
「……い、いえ。一目惚れ、では……無かったと思います」
ええと、初対面はブライトニアに浮かされて飛びそうな所、木に引っ掛かってたフォーナをレルミッド様が助けたんだったかしら。
……改めて思い出すと滅茶苦茶な出会いなのね。乙女ゲーのシナリオでも無かった出会い……。
ファンタジーで済まない気がするわ。どうしようもないけれど。
「フォーナちゃんがーレルミッドちゃんのー中身で好きになったならー、レルミッドちゃんもーそうじゃないのー?」
「で、ですが!
私には……好いて頂けるような中身も能力も見た目も有りません」
「見た目もー大事よねー。
でもー、仕事じゃないのー。役に立ちたい心は有るのにー勿体無いわー。
好きなひとをー信じる心をー、フォーナちゃんはー御持ちー?」
好きなひとを信じる心……。
……む、難しい話ね。これも刺さるなぁ。
私の場合は……好きだけれど……義兄さまを頭から何でもかんでも信じきれるとは……言いきれないな。
あのひと、何も言わなきゃ無茶苦茶やるし、やってるだろうし!!ああもう!
……その点、レルミッド様は丸っと信じて良いと思うわ。常識的な殿方だし。
でも、そんな単純明快には行かないわよね。
「レルミッドさんを、信じる……心、ですか?」
「貴女のー告白をー受けてくれたーレルミッドちゃんはー、嘘つきちゃんなのー?」
「そんなことはありません!!で、ですが……はうう、私、私……何てダメなんでしょう。
レルミッドさんを信じていないなんて……!!」
「悩めるー乙女ねー」
よしよし、と紺色のショートカットの髪を撫でるマデル様が眼福だわ。
「ふええ、私、私!直ぐレルミッドさんに謝りたいです」
「話し合いは必要よね」
「ちょっとー待ってくれるー?」
「はわっ!?」
「な、何でしょうか」
危うくコケはしないものの、つんのめってしまった。マデル様が私達の袖を掴んでおられたのね……。
「忙しい中とは言えー、余所のー殿方をー褒めた位でー可愛い恋人をー傷付けちゃうんだからー、少しー家出しちゃったらどうー?」
「い、家出ですの!?フォーナが!?」
「そうよー、恋人や妻はー訓練用カカシじゃないのー。
何の罪もない子にー当たり散らすのはー良くないわー」
訓練用カカシって……サンドバッグみたいなもんかしら。場違いだけれど気になるわ……。って、そうじゃなくて!
「で、ですが私の発言が不用意で」
「言われっぱなしはー駄目よー。レルミッドちゃんにー口喧嘩で勝てないならー態度で示すこともー大事ー」
ニコリ、と少しオレンジ掛かった口紅に彩られた唇は……う、美しいけど迫力有るわよね……。
「少しー、ルディちゃんにもー話しとくわー。今日は此処にーお泊まりなさいー。はい、決まりー」
「はわ、はわわわわわ!?」
「拗ねた恋人はー、花束持参で迎えに来なきゃー」
「はえ!?」
……ええ?こ、来られるかしら。しかも、花束持参で!?
フォーナも、プルプルしているし……。
「お花ちゃんはーどうするー?意地悪な公爵様からー庇ってあげましょうかー?こう見えてもー、私も公爵だからー大丈夫よー?」
「……い、いえ。……色々胸につかえる物は有りますけれど、帰りますわ」
此処で帰らなかったら、余計拗れそうなのよね……。
レルミッド様にまで被害が行きそうだし。それは困るわ。
「アロンさんは……凄いです」
「えっ、家に帰るのが?」
「これが揺るがない愛なんですよね。……私、私……」
……ほ、本当に大丈夫なのかしら。
しかも、マデル様に押し付けてしまったようだし。
基本フォーナはヒロインなので、すれ違いラブコメ傾向です。




