ヒロインは今日も大変らしいのよ
お読み頂き有り難う御座います。
四代目ヒロインにしてレルミッドの恋人、フォーナが半泣きでやって参りました。
「アロンさあん!わ、私、私……」
「どうしたのフォーナ!!ずぶ濡れじゃないの!!」
朝から滅茶苦茶晴れてるのに、どう言うことなの!?はっ、まさか……誰かに嫌がらせをされたの!?
ああ、よく見たら膝も擦りむいているわ!!
「ふぇ、ふえええ……。すみません、床を濡らしてしまって……」
「それはお掃除をお願いするから。
ねえフォーナ、辛いことが有ったの!?誰かから嫌がらせを受けたとか……」
義兄さまのいない日、今日はフォーナとお茶を飲もうと思って、ご招待したんだけれど……。
何故かいきなりずぶ濡れになっているし、半泣きだし……一体何が!?
あ、もう使用人が床を拭き始めてる!早!!
「ふええ!ちが……違うんです。私が悪いんです……!!転びそうになった子を庇おうとしたんですが、ウッカリ、お花屋さんのバケツを蹴飛ばしてしまって……頭からお水を被ってしまったんです!」
「……え?……ちょっと待って頂戴。バケツを蹴飛ばして……頭から水を被ったの?どうやって?」
水の入ったバケツを蹴飛ばしたら……。普通、水って上には飛んでいかないわよね?まさか……誰かが二階とかから水をブッ掛けた!?
「ふええ、真上に蹴っ飛ばしてしまったんです……」
「す、凄い脚力なのね……」
真上に蹴っ飛ばすって……ボールでも大変そうとしか思えないのに、水の入ったバケツを……。
流石ヒロイン……。モブには真似の出来ないチート持ちなんだわ……。そのチートがドジに使われるのがどうかなとちょっと……いえ結構思うけれど。
「兎に角……お風呂を使って頂戴。着替えは……ブライトニアが使ってる物で良いかしら。
背丈は一緒よね?」
「はうう!?オールちゃんがお服を置かせて貰ってるんですか?」
うーむ、首を傾げる様まで可愛らしいわね……。紺色の髪からポタポタ雫が落ちているわ。
……しかし理由かあ、ちょい言いにくいわね……。
「いえ、まあ……ブライトニアは、その……直ぐ脱ぐから……用意してるの」
「すすすすすみません!!本当にオールちゃんがすみません!!」
「お、落ち着いてフォーナ!」
「いえ!!アロンさんと仲良しなのは嬉しいんですがクッション!!ファフェ!」
「クッション?」
あ、クシャミか。
……ヒロインはクシャミがクッション……ハックションじゃないのか。いえ、いいのだけれど個性的ね。
他のヒロインはどうなのかしら……。ロージアのは別に知りたくないわ。1のメアリと2のメアミはきっとヒロインらしく可愛らしいでしょうね。
「ふぇ、しゅみません!ご迷惑を……」
「気にしないで良いから、お風呂を使って頂戴」
固辞しつつも……フォーナは使用人に半ば引っ張られて行ってしまったわ。
温まってくれると良いのだけれど……。
「本当に有り難う御座いました、アロンさん」
フォーナが纏っているのは……濃いグレーに薄いグレーのフリルが付いたミニスカートのワンピース。
……やっぱりタイプが違うからか……ブライトニアに似合うと思って用意した服は……フォーナにはアクが強いかなぁ。
まあ、私のセンスが無いのは仕方ないのだけれど。
紺色の髪のフォーナには黒はあまり合わないかもしれないわね。
フォーナには寒色系が似合うかしら。ブライトニアは暖色系だと思うけれど。
……ああ、でもそれ以上どうしたら……ファッションのセンスが無いからなぁ……。ファッションの雑誌とか有るのかしら。
「はう……スカートは足がスースーしますね」
短いズボンで足を出してるの見るから変わらないと思ってたけれど……スカートは苦手なのか。
椅子を勧めると、裾に気を遣いながらそっとすわってるのがまた可愛らしいのだけれど。流石ヒロインよね。
「姉妹でも好みが違うわよね」
「いえ!すみません!文句を申し上げるなんて……洗ってお返しします!!」
「気にしないで頂戴」
「ですが、オールちゃんは私の匂いだと嫌がると思います。はわわ、でも、ええと……そもそも姉妹でご迷惑お掛けしてすみませえええん!!」
「落ち着いてフォーナ!」
「はう……すみません、これだからいけないんですよね」
「え、どうしたの?」
「レルミッドさんが、レルミッドさんと……最近お顔を合わせていないんです」
何ですって!?レルミッド様とフォーナが顔を会わせていない!?同じ家にお住まいなのに、それって……有り得るの!?
「え、一緒に住んでるのよね!?」
「はうう、そうなんですが……」
「詳しく聞かせて頂戴。レルミッド様のお仕事が忙しくてすれ違っているの?」
「は、はい。そうだと思います。最近、お帰りが遅くて、お出迎えしたら怒られてしまいました」
「そうなの……。きっとフォーナに早く休んで欲しかったのね」
「で、ですが……レルミッドさんが遅くまで働いておられるのに、ご厄介になっているのにぐうすか寝ているのも、その、心配で……」
「フォーナ……」
レルミッド様は滅茶苦茶真面目にお仕事されておられるのね。そして、フォーナへの気遣いも……。そしてフォーナもレルミッド様を思いやっている。素晴らしい関係だわ。これぞ純愛って感じよね……。
……別に無駄に残業しろとは言わないけれど、義兄さまのお帰りが早いのが気に掛かるわ。周りにご迷惑を掛けていないか心配だな。
「お仕事の繁忙期なのかしら。少し様子を見てはどう?」
「はうう、お体が心配なんです。それに、私が役立つことと言えば……回復魔術をおかけする位しか出来ませんし」
「疲労回復に回復魔術って効くの?」
「い、いえ。古代光魔術には有ったようですが……30分程赤い光を患部に当て続けないといけないそうです」
「そ、そう……」
……接骨院とか整形外科に有る、体を暖めるライトみたいね。確かにあれは疲れが癒えたけれど。
「古代光魔術って、名前の格好良さの割にはショボ……いえ、思ってたのと違うのね」
「はうう、大規模回復とかは出来ないそうです」
そうなのか……。何というか……勝手にドでかいファンタジーな奇跡っぽい魔術なのかと期待していたわ。
「後、ですね。その……はうう」
「何か心配ごとがあるの?」
フォーナの顔色が良くないわ……。お花屋さんで水を被って此処まで来たから風邪を引いたのかしら。
それはそうよね……。ちょっと色々規格外では有るけれど、普通の女の子なのだもの……。
「震えているわ、此れを使って頂戴」
もっと暖かい格好を用意すべきだったわ。取り敢えず今着てるストールで良いかな。
「ふええ、良いんですアロンさん……。寒い訳ではなくて……。産後なんですから、アロンさんのお体を大事にしてください」
「だけれどフォーナ」
「あのあの、あのですね。……レルミッドさんに、部下さんが居られるんです」
「徴呪章院の?」
睫毛が震えて、ギュッと瞼が閉じられている。
……い、一体何が……。
ハッ!?まさか、美女が部下になってレルミッド様がメロメロとか!?
だけれど、レルミッド様はフォーナと愛を誓い合われたのだもの。そんな変なのに引っ掛かる筈が……。
いやでも、もしその美女部下(仮)が良い人なら……グラッと来られるかもしれないの!?そんな馬鹿な。レルミッド様は誠実でいらっしゃるのに。
……まさか、そんな……ベタな。ねえ?
「その、とても……綺麗で個性的な方でして。伯爵家の方だそうです」
「え、ええ」
どうしましょう。手に力が入ってしまうわ。
ああ、こういう場合はどうすれば良いの!?乙女ゲーじゃないから選択肢が全く分からない!!
「よく侯爵家に来られるんです。そして、私に……ですね」
「え、ええ」
「私に、強い言葉で、その……私はレルミッド様に相応しく無い、と」
「何て失礼な!!」
「いいえ、アロンさん。あの方の言われることは最もだと思います。私はオールちゃんのように強い力も有りませんし」
「フォーナ、貴女は自分を蔑む必要はないわ。フォーナはフォーナで素敵だし、ブライトニアはブライトニアで良いのよ」
「ですが、私もオールちゃんのようであれば……私も強くあれたかと……」
「……いえ、ブライトニアがふたり居たらこの世界がとっても大変な事になると思うわ。
本当にブライトニアのように変わろうとしないで頂戴」
只でさえ義兄さまとブライトニアが悪役令嬢として揃ってしまったのだから……。……まさか、ヒロイン闇堕ち無いわよね!?
「ですが私のような軟弱な者はレルミッドさんに相応しく無いから、釣り合う自分とお付き合いを……して欲しいと言われるんです」
何て失礼な!!
でも……んん?
んんんんん?
え?お付き合い……。ちょっと待てよ。
「フォーナに、レルミッド様の部下が、お付き合いを申し込んだ?」
「は、はい……」
「えっ!?そっち!?」
「ふえ!?」
「その部下の方は……」
「ええと、ええと……お名前は覚えていませんが、紫の髪の伯爵家の三男だそうです」
「そう、殿方なのね……」
……話の流れから、勝手にレルミッド様に言い寄るご婦人だと思っていた……。
思い込みは良くないわ……。
「あ、はい。レルミッドさんのお気に入りとならダメな私とでも結婚してやっても……と」
「何処迄失礼なのその人!!」
そんな理由のプロポーズがあってたまるか!よ!!
ああいけない!こんな事許されてはいけないわ!これはいけないわ。
「フォーナ、レルミッド様とお会いしてお話しすべきよ!!」
「で、ですが……お忙しいですし」
「そ、そうだったわね……」
しかし、どうしたものかしら。拗れる前に何とかしたいわ。上手く行けばヒロインの幸せな結婚式が拝めるかもしれない!!
「何方かに相談すべきよね……。恋愛慣れした、大人の女性が良いわ」
「ふえ?アロンさんは恋愛慣れされてますよね?」
「いえ、全く恋愛慣れしたことはないわ。マデル様かミーリヤ様が此方にお出でだと良いのだけれど……」
あ、もう筆記具とレターセットが来たわ。やること早いなウチの使用人……。
全く気配が無かったと言うのに。
でも、これって……とてもサポートキャラっぽいわ……!!やったね!!
……本来のフォーナのサポートキャラであるオルガニックさんの役割を奪ってる気がしないでもないけれど。
「オルガニックさんにご相談はしたの?」
「はう、してないです。一度蝋燭通信をしたんですが、オールちゃんにとっても怒られまして……」
そ、そうか。滅茶苦茶お疲れだと聞いてるし……何よりブライトニアと新婚さんだものね。
「私が恋愛慣れしていて権力を使えれば、直ぐにフォーナの力になれたのに……」
「はうう、アロンさんは両方お持ちだと思いますが……。ですが、それがアロンさんのお優しくて素敵な所ですよね」
「いやその評価はよく分からないけれど、大使館にお手紙を書くわね。お返事があれば、後日伺いましょう」
「アロンさあん!」
上手く行くと良いのだけれど。
レルミッドの部下は変な忠誠心を抱いた人が多いようですね。
続きます。




