悪役令嬢は仔ウサギを欲しがってるみたい
お読み頂き有り難う御座います。
アローディエンヌの元へ結婚したてのブライトニアが不法侵入してきたようです。
「アロン、遅くてよ」
「もあっ!?」
うわ吃驚した!お昼ご飯の後に子供達と普通に部屋に入ろうとしたら、いきなり何なの。
何の心構えもしてなかったから、ビクッてしちゃったわよ!でもまあ、この部屋に入れるのは……限られているものね。
「……ブライトニア、また窓から入ったの?玄関から入ってよ。駄目じゃないの」
「細かい事を気にしなくて良くてよ」
いや細かい……?細かい!?
しかしホイホイと……隣国の皇帝陛下がアポ無しでウチに来てて良いのかしら。今更だけれど……。
「ねえブライトニア、ウチに来ていて良いの?ええと、元ネテイレバと元ルーザーズの飛び地の執政とかは大丈夫?」
何か名前付いてたかしら。新聞には出てなかったものね。取り敢えずソーレミタイナの飛び地……で良いのよね?方々から集まってきた獣人さんメインの国になっているようだけれど。色んな生活様式の人達が集まるならモメてないのかしら。
「ふん、あたくしは優秀なの。早急に片付ける用以外は終わらせてから来ていてよ」
「そ、そうなの?……いやそれで良いの?良くないような気がするわ」
「ある程度配下に任せるのも、人材を育てるコツらしくてよ。マデルが言ってたわ」
「そう……?そうなの?マデル様が仰るならそうなのかしら……」
執政の事は分からないしなぁ。いや、何が分かるのかって言われたら滅茶苦茶困るけれど。うう、基本スペックが全く成長せぬままふたりの子持ちに……。情けない話ね……。
しかし、ブライトニアは滅茶苦茶私の部屋で優雅に馴染んでるな……。あ、お菓子まで並んでるわ。何時の間に
「もあ!ニアちゃま!もあーん!」
大きな声ね。シアンディーヌも大分喋れるように……早いのかしら。そもそも二歳児のスタンダードがよく分からない……。他人と比べるもんじゃないんでしょうけれど……。あの謎の鳴き声は他の子供も言うもんなのかしら。喃語的な?
「ブライトニアよ、シアン。あたくしは心が広いから特別に正式に呼ぶことを許してやってよ」
「……」
「アウルも相変わらずアロンに似ていて元気そうね」
「そ、そうかしら。似てるかしら?」
「……」
あ、ブライトニアに撫でられてちょっと口の端が上がってるわ。
アウレリオ、私に似てるかなぁ……。目の色以外私の遺伝子皆無では無いかしら。どう頑張っても似て……まあ、顔面が動かない所は似てるかなぁ。
顔の大半と結構好き嫌いの激しさなんかは義兄さま似。……殆どよね。
でもブライトニアは好きな方みたい。頬っぺたを撫でられても嫌がらないのよね。
「あたくしも早く仔ウサギが欲しいわ」
「もにもにー!」
「……」
「そ、それは……結婚したしその内授かる……と良いわね」
ブライトニアのお式には二度目迄は参加出来たけれど、三番目は無理だったのよね。小さい子供連れだから中々なぁ。
益々ゲッソリ痩せられてたらしいオルガニックさんのご様子を後でルディ様、レルミッド様、サジュ様、フォーナとマデル様、ミーリヤ様からお伺いして……いやお式に出た方全員だな。全員一致でゲッソリだったとお聞きしたわ。
何と言うか滅茶苦茶、こう……ブライトニアに搾り取られたのかと噂だったのよね。局地的に……いや、大々的に?
で、でも……ブライトニアは16歳の無垢な乙女だものね。悪役令嬢だけど。結婚するまでそのプロセスと言うか、手段が過激で大変だったわ……。すったもんだ有りすぎて。
流石にあのブライトニアが意中の殿方のオルガニックさん以外と、その手の経験をしてる筈無いから仕方なかったのだけれど……。
義兄さまはその手の経験してそうだったけど……いやまあ義兄さまの事は良いわ。私の薮蛇になるもの。
うーむ……意外と純情なのかしら、悪役令嬢……。
最近リアルが忙しくて忘れていたけれど、ゲームの1の不和ミズハと2の日向アリアの純情加減どうなのかしら。地味に気になるわね。
「ねえアロン、あたくし仔ウサギは六匹欲しいの」
「ろっ、六匹!?お、多いわね……」
「もあ?」
何か前にも聞いたことするけれど、何故具体的に六匹……いや、匹?匹で良いの?蝙蝠ウサギだから羽ではなさそう。物理的にやっぱり蝙蝠ウサギで産まれるのかしら?
……芋虫のシアンディーヌを産んだ私に言われたかないだろうけれど、この美少女から蝙蝠ウサギが産まれるのかしら……。いや可愛らしいでしょうけれど。蝙蝠ウサギ姿のブライトニアはとんでもなく愛らしいものね。薄い茶色から黒のグラデのかかる垂れ耳、ポワポワの毛玉に蝙蝠の羽……。掌に収まるサイズ……気性はとんでもなく荒いし攻撃力も高そうだけれど。
「そう?あたくしは蝙蝠ウサギだもの。普通じゃなくて?
それに殆どくたばったけど、母親違いの有象無象兄弟姉妹は山程居てよ」
「いやまあそうでしょうけれど、言い方!そ、それに、蝙蝠ウサギばかりなのかしら」
「偶にはウサギが混じるかも知れなくてよ」
「そうなの?蝙蝠は?」
変身した小さな背中に有る蝙蝠羽もブライトニアの種族のひとつだものね。あれも可愛らしいのだけれど、仔蝙蝠は産まれたりするのかしら。
「コレッデモンで獣人の本を読んだけど、獣人の母親の姿に近い仔が産まれるみたい。あたくしのように部分的に出ている種族の確率的に高くは無くてよ」
「そ、そうなの……。
知らない間にブライトニアが博識になっていて嬉しいわ」
「撫でなさいアロン。褒めて良くてよ!ホラ、アウルを抱いていてやるわ」
「うわちょっと!」
「……」
うわー、アウレリオがヒョイっと取り上げられちゃったけど、全く動じずに身を任せてるわ。
反射的に、つい薄い茶色から黒グラデの触り心地の良いツインテールを撫でちゃったけど……。
「もあ!ニアちゃま、シアンも!おかちゃま!シアンも!ナデナデ!!」
「贅沢な女ね、シアン。アロンが母親なだけでも贅沢なんだから偶には譲りなさい」
「もにゃーん!」
「いや何でよ」
シアンディーヌがイヤイヤしだしたわ。……意味が分からない。何のバトルが巻き起こっているのよ。撫でバトル?そんな馬鹿な。
「それにシアン、あたくしが義姉になるのよ。聞き分けなさい」
「もあ?あにぇ?」
「……え、何で……ああ、レギ様……」
そ、そういやそうか。
皇帝陛下として即位されたレギ様を、シアンディーヌか番として、見初めてしまったから……。義兄さまがシアンディーヌの婚約者にしちゃったのよね。
虫嫌いなレギ様へ、嫌がらせに……。私への想いをぶつけてくださった恨み骨髄で……。
……自分の執念深い恨みに娘を利用するとか……頭が痛すぎる。でも、いえ、シアンディーヌの想いが滅茶苦茶執念深い……いえ、こんなに幼いのに滅茶苦茶レギ様を慕ってるのよね。其処を……うーん、ああ、うーん。
今の所……レギ様へは申し訳無さしかないわね。
……まあ、未来の事は分からないし、もしかしたら婚約不履行も起こるかもしれないわ。シアンディーヌの様子からして無さそうだけれど……。
と、兎に角この婚姻が無事解決した親戚関係で考えると、その母親違いの姉のブライトニアが、シアンディーヌの義理の姉に……。
や、ややこしい!ややこしすぎる!
しかもオルガニックさんがシアンディーヌの義理の兄!?
……親戚関係が益々カオスになっていくのね。
しかも滅茶苦茶濃いわ。
忘気味だけれど、ゲームのシリーズの悪役令嬢とサポートキャラが親戚関係とかどうなっているの。
……どうしよう。安穏と出来そうにないわ。
「れうぇ!?えぎたま!レギちゃま!ちゅが!ちゅがーーーー!」
「……っ!」
しまった!レギ様の話をすると滅茶苦茶テンションが上がりすぎるんだった!!
アウレリオの顔は動かないのに、イラッとしてるのは見てとれたわ。
「シアンディーヌ、落ち着きなさいな」
「おかちゃま、ちゅが、ろこ!?レギちゃまあああああ!!もにゃあああああ!!」
「うわっ!」
「番を求める姿勢は正しくてよシアンディーヌ」
「もああああ!」
何だか、義兄さまの小さい頃のギャン泣きを思い出すわ……。多分その頃の私もアウレリオみたいな表情してたんでしょうね。眉間に皺がほんのり寄って、目が死んでる……。
シアンディーヌは……ビッタンビッタン床で跳ねてるし。
幼児らしいんだけれど、関節がどうなってんのかしら。
で、シアンディーヌは疲れて寝ちゃって芋虫姿になっちゃって。
姉の号泣の中、アウレリオも寝てしまったわ。
……こういう時は仲良く眠るのよね。不和の気配が漂っているのに。
……謎だわ。使用人がお部屋に連れていってくれたんだけれど……。
「……お騒がせして御免なさいね、ブライトニア」
「子供は喧しいものだから構わなくてよ。昨日、レトナの仔犬に潰されるミーリヤの子供のジェンを見てきたわ」
「え、仔犬に潰されるって何……。
ええと、ミーリヤ様のお子様って、ルディ様のご子息のディヴィット・ジェンナール様!?」
「ええ、それ。見た目はレルミッドの子供みたいだけど、匂いはミーリヤそっくりね」
「そ、そうなの……?レトナ様の仔犬って言うのは、双子のご令息のこと?」
「そうよ。レトナの噛み犬より妹に似てるわね」
「いや失礼でしょうその呼び方は。
ええと、ちょっと待って……。ロッチ辺境伯であらせられるレトナ様の御夫君カータ様だったわね?」
「何処の領地だか知らないけど、そんな名前だったわね」
手帳を置いてて良かった……。
お手紙と新聞で必死に書き留めたのよ。噛み犬……怖そうな渾名よね。リカオンの獣人でいらしたかしら。
……スタンダードな犬じゃ無さそうだけれど、仔犬で良いのね。それにしても、二次元では普通な狼獣人とかファンタジーならユニコーンとか聞かないな……。猫はおられるけど。
何かちょっと……普通の二次元では聞かない獣人の方々が多い気がするわ。
いや、最早二次元じゃないんだけど。
「そんな事よりアロン、あたくし早く愛の結晶が欲しいの。仔ウサギよ仔ウサギ」
「え……。だから、子宝は夫婦各々でしょう?
と言うかその、結婚したばかりなのに……。ふたりの時間を楽しまなくて良いの?」
「その辺の適当な恋愛小説みたいでいいの。結婚したら直ぐに子連れになって、花畑に行ってよ」
「いや言い方……。でも、そんなお出かけは幸せで良いわね」
ちょっと言い方が引っ掛かるけど、スタンダードなハッピーエンドよね。ブライトニアはこういう面も有るから可愛らしいわ。
「それから子供を遊ばせてる間シケ込むわ。あたくしもやってみたくてよ」
「シケ込むぅ!?
いやどんな本を読んでるのよ!!
間違いなくおかしいでしょう!!子供を放置してシケ……いえ、放置しては駄目よ!!」
「あたくしの仔ウサギなら多少の荒事は平気よ」
「そうなの!?って、いや、駄目よ!どんな理由が有っても子供を放置するなんて駄目!!」
「じゃあ配下に面倒を見させるわ」
「それならまあ……じゃなくて!ブライトニア!」
考え方がナチュラルにセレブだな!!いや皇帝陛下なのだけれど!
「ねえブライトニア、そんな理由で子供を授かりたいの?命は軽く扱うものじゃないのよ」
「命は軽くてよ、アロン。だからあたくしはやりたいようにやるの」
……うっ、全く動じていない。
紫色のキラキラ光る瞳が……滅茶苦茶綺麗なのに、底知れない。
背筋に汗が伝っていくのが分かるわ。何なのかしら、この底知れぬ……恐怖。
「あたくしはオルガニックとの仔ウサギを望むわ。そいつらが血を繋ぐの。オルガニックの血を」
「ブライトニア……」
「だからくたばらないよう育ててやるわ。ああ、あたくしのオルガニックの血が生き続ける為に」
……子供に全く興味が無さそうって次元じゃ無いんだけれど。笑顔が滅茶苦茶怖いわよ。
「ねえ、ブライトニア。オルガニックさんの血を継いだ仔ウサギが欲しいだけなの?
子供はオルガニックさん御本人では無いでしょう?愛せそう?」
「あたくし、オルガニック以外を愛したことが無いから分からなくてよ」
ちょっと。コメントが出なかったわ。
……いやまあ……そう来たか。
「オルガニック以外に恋して愛されたいとは思わないけど、親愛ならアロンは受け付けてやるわ。有り難く思いなさい」
「そ、そう。有り難う。いえ、でもね」
「未だ産まれて居ないから分からないけど、あたくし、多分アロンのような親にはならないわね」
「そ、そう……かしら」
確かに仔ウサギを可愛がるブライトニア……。……イメージ、出来にくいわ。
悪役令嬢って子煩悩にならないのかしら。
でも……義兄さまも、ブライトニアも。
言っては何だけれど、優しい親に恵まれたとはとても言えないものね……。
「でも、オルガニックは違うわ。面倒見が良くて愛情深いもの。あたくしの損なった部分を仔ウサギに与えられると思うわ」
「ブライトニア……」
「でも仔ウサギにオルガニックを取られるのは嫌なの」
「……ブライトニア」
感動を返して欲しい……。オルガニックさんファーストが過ぎやしないかしら。
「オルガニックのあたくしの産んだ仔ウサギへの子煩悩さは見たいわ。だけど仔ウサギにオルガニックはやらなくてよ」
「……む、矛盾してるわね」
悪役令嬢は複雑怪奇よね……。
そして後程、ブライトニアは予言通り六匹……六人の皇子皇女を授りそう。何だかそんな気がするわ。
「色味はオルガニックに似て欲しいわ」
「……どうなのかしらね。きっと、産まれたらきっとどんな色でも可愛らしいわよ」
悪役令嬢の遺伝子、濃いからなあ。リアルに薄紫の熊とか居るらしいし。
オルガニックさんの心労が……心配では有るわね。
どのシリーズの悪役令嬢も純情で一途で相手ファーストで、他へは激辛~塩対応なのは仕様で御座います。




