クリスマス?デートをもう一度
お読み頂き有り難う御座います。
異世界ですが人混み描写が御座います。気になる方はお気をつけくださいませ。
あら、そういや今日ってクリスマスよねぇ。
まあ、ガチのクリスマスでは無いけれど。そういうの……女神像の祭事は有ったけれど……。
去年は子育てに忙しくてその前も子育てに忙しくて……特に何もなかったもんな。
その前はまあ、ちょっとしたデートで……今から思えば、楽しかったけど、もうちょっとはしゃいで楽しんでおくべきだったかしら。
いや、きっと……はしゃげる気がしなかったわね。何と言うか……勿体なかったかしら。しかし私まではしゃいだら収集が付かないのよね。無理だな。
……んん?
「…………」
「な、何かしら?アウレリオ」
滅茶苦茶服を無言で握られてるわ。視線も強いわね……。アウレリオ、眼力強くない?赤ちゃんなのにこの眼力は何でよ。
「もあ!おかしゃま!こっち!あー!あうる!いちゃい!!」
「シアンディーヌ、アウレリオの顔を急に触るのは止めなさいな」
「……っ!」
「らって、アウルのほっぺちゃん……。ほにほにらの……」
「困った子ね。自分の頬っぺたもほにほにでしょうに……。ほにほにって言い方、独特ね」
「ほにほにー」
「……っ!むあっ!」
「みゃーーー!!いちゃいーーー!!」
「シアンディーヌ、止めなさいったら!」
また頬っぺたに触ろうとしてシアンディーヌが叩かれてる!懲りないわね……。
私なんぞ滅茶苦茶恵まれていると思うのだけれど、それでも。乳飲み子と二歳児のお世話って、大変なのね……。毎日、膝の上が大戦争中だわ……。
「っ!……」
「やらぁー!ほにほにー!むぁー!!」
滅茶苦茶イラッとした雰囲気のアウレリオが、ちょっかい掛けるシアンディーヌを叩いているわ……。
大人しい子なのに、シアンディーヌには当たりが強いのよね……。何時か見た夢では、シアンディーヌに私がかまけ過ぎて寂しい思いをさせたようだけれど、性格的にも合わないのね……。
シアンディーヌの性格は義兄さまに似てるからなぁ。しつこい所とかもね……。
特にアウレリオは見た目義兄さまソックリ……でもないの。やっぱり違うのよね。
私の要素がちょっと強い……いや、強くないか。私よりは顔動いてるものね。ええ、多分。きっとそうよ。そうだと信じたいわ!
「おかしゃま、ドリーは?ドリーとあしょぶの!ゼノアともしょもしょすゆの!」
「ドートリッシュも忙しいの。それにイジェノアちゃんを引っ張ってはダメよ」
「むあーん!!」
「……」
アウレリオったら顔を背けてるわ……。仲悪いなぁ。しかし、もう意思表示が出来るのね……。チートだなぁ。
どうなってんのかしら、義兄さまの遺伝子……。
そうして……ああ、もう日が落ちてる。1日が過ぎようとしていたわ。早いなぁ……何時もの通り。
子供達を寝かせて……寒いし、早めにお風呂に入ろうかしら。
と、思ってたら。
「アローディエンヌう!」
「ぎゃあっ!!」
気配が無かったし、今日は夜までお仕事では!?何でいきなり背後から抱きしめて来るのよ!?心臓が飛び出るかと思った!!
「アローディエンヌ、デートしよお!」
「突然何ですか、義兄さま!!吃驚するでしょうが!!」
「んもう!デート中はアレッキオって呼んでえ!」
「はあ!?どっちでも宜しいでしょう!」
デート中って何よ!!思いっきり家の中でしょうが!大体、了承してないわよ!!いや、待てよ。
「……あ、でも良くないかしら……。子供達が混乱しますわよね、いい加減」
「ええー?別に子供達にどお思われようが、どおでも良いけどお?
親の関係性位、自分で考えて試行錯誤して知らなきゃあ!」
「滅茶苦茶言わないでくださいな!」
「それよりい!デートしよお!」
「いや何で……夜ですわよ?」
一応6時くらいだけど、冬は日が落ちるのが早いしなぁ。もう暗いわ。何時の間にやら、庭の方々に明かりが灯ってるし。相変わらずステルス力が強すぎるわ、ウチの使用人は……。
「ふふう、暗いと危ないとか思ってる?アローディエンヌったらあ、かーわいい」
「違います!!つつかないでください!」
何なのよもう!イラッとするわね!頬っぺたつついてこないで欲しいわ!!
「そういや夜に『ふたりっきり』で出掛けたことが殆ど無いなぁって思ってねえ!丁度あの女神像の祭事有るし、ダシにして出掛けよお?」
「ええ……?」
何て言い種かしら。信仰心の欠片も無いわね……。いや、私も無いけれどさ。
「そおと決まれば、お着替えしようね!今日は白でお揃いにしよおね。どおかなあ?」
……え、お揃い?義兄さまってお揃い本当に好きよね……。顔面偏差値のランク違うから止めた方が良いと毎回思うのだけれど、断っても面倒だし煩いし。
……しかし、白かぁ。白……白?
「珍しい。義兄さまが白をお召しになるんですの」
「うん。まあ、ショーンが馬鹿の一つ覚えで白々しい格好ばっかりしてるからあ。あんまりしないけどお?
アローディエンヌとお揃いなら何でも着るよお?」
「ルディ様に失礼が散々過ぎるんですけど!?」
「事実だもん!」
だもんじゃないわよ!ああもう!
「大体、お揃いでなくてもお召しになればどうですの。義兄さまなら大概お似合いになるでしょうし」
「ええー?やだあ!白い冬ドレスのアローディエンヌ見たいもん。お揃いが良いのお!」
う、煩!!何なのもう!?
「分かった、分かりましたから大声を出して駄々を捏ねないでください!子供ですか!」
「やだなあアローディエンヌったらあ!
子供も何も、僕は常に何時も通りだよお?」
そ、そうなんだけれど、滅茶苦茶ムカつくわね。可愛くコテッと首を傾げないで欲しいわ!くそう、あざといな!!
そうして……了承してしまったから。あれよあれよとばかりに……何だか白いニットのケープとAラインのドレスを着せられて……鏡の中には白いモブが出来上がったわ。
うーむ、全体的にボヤッと白々しいと言うか……髪の色がルディ様のようなキラキラした金髪でなくて、灰色がかった黄色だから、ボンヤリ感が物凄いな。背景に溶け込みまくりよ。同じ髪色のシアンディーヌならそうでないのに……何なのかしら。この濃い青い目も悪目立ちしてるし。似合わない……。浮いてるのに、ボヤけてる。何なのこれ。どういう事よ。ガッカリよ。
横のニッコニコした義兄さまのコートも似たような作りで白いのに、似合うなぁ。
まあ、例によって例の如く同じニット素材で出来てるみたいだけれど、私とはしっくり具合が全然違うわ。
義兄さまは相変わらず色味関係無くお似合いなのよね。赤い髪と白でクリスマスカラーっぽいけど。
くそう!顔面偏差値よね!!腹立つ!
「かーわいい!やっぱり可愛いよアローディエンヌう!」
「はあ!?何処が!ぐえっ!!」
儘ならない理不尽に憤ってると、義兄さまが抱きしめてきた!!何なのよ!
「……って、思わず着替えてしまいましたけれど、子供達はどうしますの」
「え?寝てるんだから留守番だよ。連れてけないでしょお?」
「いやでも……子供達が起きたら泣きますわよ」
「え?僕だってアローディエンヌが居ないと泣くよ」
「いやそうじゃなくて!!て言うかしょうもない事で泣かないでくださいます!?」
「でもアローディエンヌ、ここ最近お出掛けもしてなくて子供達に振り回されて、退屈でしょお?」
「うっ」
顔には出てない筈なのに、見抜かれてる!!
「それにい、仮にもウチに押し込む輩が無事で居ると思う?平気だよお。安全地帯で多少孤独を学ぶのも大事だよお」
「はあ!?いや、そもそもウチって、誰か侵入してますの!?押し込まれてますの!?」
「ううん、安全安全。
それでえ、今日はねえ。食べ歩きしてえ、可愛いもの見てえ」
「ちょっと、義兄さま!!」
滅茶苦茶聞き捨てならないわよ!?ウチってそんなに襲撃されてんの!?どういう事!?
「もにゃああああああ!!おかしゃまああああ!!」
「……」
「あっ、シアンディーヌ!?アウレリオ……ふがっ!?」
子供達が泣いてるから駆けつけようとしたのに、思いっきり抱きしめるの!?口打った!!おかしいでしょう!?
と、思ったら……唇をなぞられた。フワッと暖かくなって、痛みが消えて……。義兄さまの薄い青の瞳が私を射貫く。
うっ、か、顔がいい……じゃなくて、顔が近い!
な、何なのよ。
「アローディエンヌう?今は子供達を甘やかしちゃ駄目だよお?使用人と居ることにも慣れさせないと。
今、君は、僕と、お出掛けを、するの」
め、目が怖いわ。
何処までも透き通った薄い青が……私を凍らせて、飲み込んでしまいそう。底知れない水の中に閉じ込められそうな……。
「……」
と思ったら、滅茶苦茶頬っぺたが赤くなってる。
何事?何なのよ。赤くなるような事有った?
「……何ですのよ」
「……アローディエンヌと見つめあうと、滅茶苦茶照れるね」
「……いや、何ですのよ今更」
このモブ面の何処に見惚れて照れる要素が有るの。
「アローディエンヌは今日も可愛いんだもん!」
「全くそんな事はありません」
相変わらず照れるポイントがおかしいな。
……何か、毒が抜けたと言うか……はあ。何だか、もう!
「分かりました。確かに子供達が使用人と過ごすのは大切ですわね。貴族ですから、親と離れる事も多々有るでしょうし」
ウチは義兄さまが私を社交に出さないから、余所程では無いでしょうけれど。
「そうそう、そんな感じそんな感じ。親と居なくても過ごせなきゃね」
て、適当だな……。本当に良いのかしら。
こうして丸め込まれて納得行かないものの、私と義兄さまは……町へ繰り出したの。珍しく徒歩で。
……確かに、子供連れじゃなく外へ出るのって久しぶり。
空気も澄んで、町も活気に満ちているわ。
「ほらアローディエンヌう!可愛い置物だね!本立てだってえ」
「はあ」
「このお花良いねえ。アレカイナの辺鄙な国の森にしか咲かないんだって!君に似合うよお」
「素敵な森に咲くんでしょう。華やかなお花ですわね」
「あの吟遊詩人、滅茶苦茶下手だね」
「目の前で何て事言いますのよ!きっと、ああいう楽器なのではありませんの!?し、知りませんけれど」
義兄さまがはしゃぐはしゃぐ……。
周りがガン見してるにも関わらずはしゃぐったら……。
後、所構わず私が視線を送ったものを買いそうになるのを止めるのが……!!人混みだからベッタリ張り付かれるのはしょうがないとして!!
「義兄さ……アレッキオ。そろそろ、休憩しません?」
「あ、あそこにあったかいの売ってるよ!アローディエンヌはお酒無しの方ね!」
「はあ」
元々お酒を嗜む習慣は無いけれど、乳飲み子が居るしな。
手を引かれて連れて行かれたのは……派手な飾りの屋台ね。
鮮やかなペイントが施された使い棄てるのが勿体無いカップに、甘い香りと湯気を上げる液体が次々と注がれていく。
……何かしらこれ。コーヒーでもココアでもない。生姜茶?
背伸びしたけど、混み合っててよく看板が見えないな……。くそっ!私がチビなばかりに!
「アローディエンヌう?」
「ど、どちらで頂きましょうか。あちらにベンチが有るみたいですが」
「アローディエンヌは冷やしちゃ駄目だから、僕の膝にね!」
「スカートが分厚いので結構ですわ」
と言うか人前で膝になんて座れますか!
只でさえ……太った気がするのに!!
「あたしがあのイケメンの膝に座りたいなー」
「だよねー。あのブス……ひっ!?ぎゃーっ!?」
え、何?
何か悪口言われたかと思いきや、急に居なくなった……。人混みに飲まれたのかしら。
「街中も屑が多いよねえ。通りがかりの他人を謗るなんてチンピラは駆除しなきゃ!」
「はあ、まあ、二度と会いませんし……。どうでもいいですけれど」
「そうだよね!アローディエンヌは世界一可愛いんだもん!許せないよ!」
「いや、どうでもいいですったら。まさか追い掛けて危害を加えませんよね!?」
や、やりかねない……。思わず義兄さまの袖を掴んでしまったわ。明日の新聞に載りかねない!!
「ふふう、しなあい。僕はアローディエンヌとずうっと居るからあ」
「そうですか、何よりですわ」
「ふふう!」
こうやってふたりきり……なのも、偶には悪くないわね。素敵だと思うわ。物騒さえなければ。ええ。
……ただ、帰りに……。
「こ、この馬車に積まれてる大量の荷物は、子供達へのお土産……ですか?」
「んもう違うよお!二歳児と乳飲み子用にお土産なんて売って無かったじゃなあい!」
「……では、自分用……」
「アローディエンヌへ、だよお!」
「多すぎます!!」
何処で服なんか売ってたの!?お菓子も多すぎるし雑貨……は可愛いな。この、小さな蝶々の止まったペンとか、さっきの生姜茶の入ってたのに似てる小物入れとか……。
「……」
「あ、気に入ったあ?じゃあお揃いで僕も買うよお」
「……まあ、アレッキオが宜しいなら……。有り難う御座います」
……生姜クッキーはフォーナと頂こうかしら。
「僕とお茶をするんだよ?アローディエンヌう?」
「分かりましたわよ……」
め、面倒臭いわね、本当に。見抜かれてるわ。
でも……。
「連れてきてくださって有り難う御座いますね、アレッキオ。私、楽しかったですわ」
「んもう!……アローディエンヌは僕をこれ以上大好きにさせたいんだね?望むところだよお!」
「……いや、お礼を申し上げてなんですの?意味が分からない」
「そおいうところも好きい!」
よきクリスマスをお過ごしくださいませ。




