9.因縁を退治しに(レルミッド目線)
お読み頂き有り難う御座います。
ミーリヤとカータを加えて魔法使いと王子のイトコンビがお送りします。
「そんで、徴の本は見つかったんだろ? 何すんだ?」
今、ルディの片手に抱えられてる古い薄赤い表紙の色の本だろ。結局先に見つけちまったみてーだし、サジュ呼んだ意味無かったな。
で、アレキちゃんちのあのチビに捺させるんだろ?レッカがどーなるかは知らねえけどよ。
つか、ホントに徴如きで……いや、あの徴、腹立つ位有効だったな。あの変な喋り方……親戚のオッサン共もそのままだしよ。まあ、あのオッサン共は丁度いいかもしんねえな。俺が言うのもなんだが口悪ぃし。
ちゃんと選べば、それこそ人生が変えられる。しかし……レッカのスキルを無効に出来そうな都合の良いモンが有るのかねえ。
「そうだな、『王女ローリラ』をぶちのめしに? いや、『王女ローリラ』の欠片をぶちのめしに?」
「オイ、何でババアが出てくる。サッパリ分からねーんだが」
レッカの話だろーが。
つか、ルディはレッカを穏便に仲間に引き入れた……ようには見えねえが、そう繕ってるんじゃなかったのかよ。
そんなに長くツルんじゃいねえが、結構一緒にいるのにコイツの考えがサッパリ分かんねえな。
「ぶちのめすぅ? 王子様らしくなぁいお言葉ねぇ」
「ミーリヤねーちゃん、そっちじゃねーだろ」
「じゃあ埋めるで良いか」
「レッカを穴に落とすの?あし折る?はねむしる?あ、ガーゴイルって呼ばないとだめだった」
横で物騒なのに呑気な声を上げんな。
コイツ、レッカの知り合いなんじゃねえのかよ。人の事言えねえがエグイな。
「もぉーカータちゃん、めぇよぉ。それだとぉレッカちゃんがぁ死んじゃうでしょぉ」
「?だからおれをつれてきたんじゃないの?」
「一応ぅ、重要人物なのよぉ。ドゥッカーノにもぉネテイレバにもぉ」
「重要ってめんどーだね」
まあ、そーなんだけどよ。
……そーいやレッカの奴、王妃のババアの実家の奴等に追い回されてんだったな。
御利益が有るとか無いとか。
アイツが落ちて来てから変な出来事に巻き込まれるわ、アレキちゃんに遭うわ、仕事先迄斡旋されるわで碌な事ねーな。どーも、俺限定かもしれねえが不利益の方っぽい。
雨樋なんちゃらの王だっけか?
サジュのねーちゃんの言う通り、強そうだか弱そうだか何のこっちゃ分かりゃしねーよな。
「先輩ー、ルディ様……!?」
お、サジュか?やっと来たか。これでメンツが揃ったみてーだな。
「アレ? ぐっ……ミーリヤ様! 何時此方に!? オレ何にもしてませんよ!?」
「おはよぉサジュちゃぁん」
「おはよぉ溢し屋ぁ」
「へえっ!? つか懐かしい渾名だな、誰だよ!」
へー、コレッデモン王国関係でもサジュにカータと面識はねーのか。まあ、国内の奴だからって知り合いじゃねーよな。
「レトナちゃんのぉ番ちゃんのぉカータちゃんよぉ」
「カータだよ」
「ツガイ……番⁉」
……サジュの顔が頭とおんなじ位青褪めてる。うーむ、中々見た事ねえ。ギコギコ音がしそうな勢いでこっち向いたな。
「……ルディ様」
「何だ」
「……何て方々をお呼びしてるんスか。レトナ様の番!?この犬耳っ子が!?」
「先に言っておくがカータは僕らと同い年だそうだぞ。レトナとミニアの勘気を被らん内に伝えて置いてやろう」
「……マジ感謝しますルディ様」
「何でカータの歳がレトナねーちゃんとミーリヤねーちゃんの機嫌に関係あんだ?」
「レトナのごきげん?」
「レルミッドちゃんはぁ、そのままでぇいてぇ」
何でか背中と後頭部撫でられたが、何なんだ。別に良いけどよ。
「で、本気で何するつもりなんですかルディ様。まさかこのメンツで本棚漁るんですか?」
「ほんだな? 本は投げちゃダメでむしっちゃダメだってレトナとサロが言ってたよ。本はおさかな?」
「いや魚じゃねーけど……。つか、変わった奴だな……」
「あい?」
「なに、これからバルトロイズ邸にお邪魔するぞ。レッカを何とかせねばな」
バルトロイズ邸? サジュんちか?
このメンツでか? ……まー、あんまり集まらない組み合わせだよな。カータとは初対面だしよ。
「は? ウチっスか? 何でまた。つか、言ってくれりゃ連れて来たんですけど」
「それじゃレッカは油断せんだろ」
「アァ? 油断?」
何でレッカを油断させる必要があんだよ。アイツ、別に強くも何ともねーだろ。飛べてガーゴイルになれる一般人って感じだし。
……いや、そんな一般人いねーな。
ルディが振り返ってサジュを見てやがる。
「サジュ、アレから帰って何も無かったのか?」
「何も? いやフツーにマデル様がウチに来てビビりましたけど!! 何でウチに来るんすかあの人! しかも滅茶苦茶御養父殿とイチャついてたんスけど!!」
「あらぁそぉ! マデルちゃんがぁ! そぉれはぁ見たいわぁ」
「そりゃミーリヤ様は見たいでしょうけど……先輩」
「マデルと伯父上の間柄については諦めろ。そうではなくて、レッカの話だぞ」
「何とか破綻しないかって気にはなりますけど……レッカ? 別にフツーだったような」
「目を見たか?」
サジュの本音は放っとくのかよ。まあ、どーしようもねーが。
ルディが右目の下瞼を引っ張ってんな。目? 目玉?
………ああそうか、確かじいちゃんが昨日……。
「……目玉に逆さまの……何だっけか? えーと、楕円?いや、楕円は逆さにしても楕円だよな。
……滴だったっけか。気持ち悪い模様が浮き出るとか何だとか……」
「ああ、アルヴィエ侯爵から聞いたのか。正しくは逆さまの二股の滴だぞ」
あの変なクソボケブスの変な魔術の沼だよな。あの原色の柄。
思い出しても気持ち悪い柄だった。
「は? 逆さまの滴? レッカの目玉に? ……いや、人の目玉とか覗き込まねえし」
だよな、フツー覗き込まねえよな。
「目玉? 目玉が要るの?えぐるの?」
「いや抉るな!!」
つか、カータはさっきから物騒な話ばっかだな。
どーゆー知り合いだよ。あ、元カレかなんかだっけか? えげつねー別れ方でもしたのかよ。犬耳で小せえ癖に見かけによらねーのかも知れねえ。
「……王子様のぉあっかんべーはあざといわねぇ……」
ミーリヤねーちゃんの感想も変だしよ。
ルディは舌は出してねーから、あっかんべーじゃねえんじゃねーのか?
あ、ルディがカータに何か握らせてやがるな。
「カータ、お前に頼みがある」
「あい? あ、おかし! 茶色のおかし!」
ハァ?お菓子……。ガキかよ。ルディも何処に隠してやがった。
「聞いてくれたら後でもっとお菓子をやろう。レトナと妹と食べられるくらい沢山だ」
「いっぱいおかし!」
「……いやホント、レトナ様の番何者なんですか、ミーリヤ様。小さいガキ……子供みたいに純真っスね」
「ちょっとぉ特殊なのよぉ」
特殊で済ましていい話なのかよ。
相手がミーリヤねーちゃんだからかサジュも突っ込みづらそうなツラだな。
「良かったわねぇカータちゃん。お菓子貰えたのねぇ。それぇ、お茶とぉ一緒に食べると美味しいのよぉ」
「あい! おかし!」
「食うの早ぇな、レトナ様の番……」
「カータでいいよ、溢し屋」
「いや、オレこそサジュでいいんだけど……アレか?獣人の意味分からん拘りか?」
「そーみたいだな」
掌位デカいクッキーだったが、もう無くなっちまってる。
どんな形だったのか詳細も分からねえまま無くなっちまったし、よく喉詰めねえな、カータ。
「美味しいぃ? ……私ぃ、そぉ言えばぁルディちゃんからぁ何にもなぁんにも、貰った事ないわねぇ」
「そうか? 物より思い出と言うではないか。僕はまあまあミニアとの思い出が増えているぞ」
「後でぇ覚えてらっしゃいぃ」
「……えーと、オレんち行くんでしたよね。行きましょう。行きたくねーけど。滅茶苦茶行きたくねーけど!!」
「……まあ、後で何か奢ってやるよ、サジュ」
「……肉が良い」
コイツ、肉好きだな。家で肉食ってねえのか足りねえのか。
肉食えばこれ位デカく……なるのか?別に俺はチビじゃねえが、伸びるに越したことはねーからな。気にしちゃいねーが、積極的に食うか。
「仲良しさぁんねぇ」
「まあ、悪くはねーけどな。で、何で行くんだよ」
「ふむ、歩きか馬車だな」
「歩きでいーじゃねーか。ああ、まあミーリヤねーちゃん居るしな。馬車か?」
「有難ぉレルミッドちゃん」
何でサジュが微妙そーな顔してやがんだ。分かんねえな。
で、馬車が来た……。こんな派手な馬車でいいのかよ。てかこの人数で乗れんのか? デケエ馬車だな。長距離駅馬車でもなきゃフツー4人乗りじゃね?まあ、あんまり乗らねえけどよ。歩かねえと鈍るしな。
「デケーな」
「6人は乗れる。安心しろ」
「つか、オレんちにこんなデケエ馬車停まってたらビックリすんだろーな、家の奴等……。基本、馬か歩きで帰って来るし」
「伯父上もサジュも貴族らしくないな」
「ある意味ぃルディちゃんもねぇ」
「きぞく? らしいの? とりさまは?」
「俺は貴族じゃねーよ」
……つか、自分が何者か……。
ああ、嫌な事思い出した。貴族になれっていうか、徴呪章院の長っつー変な立場……。
……だが、立場がねえと、フォーナを守れない。
………無力さを突き付けられた昨日が、苛つく。だが、避けて通れないのは解ってる。
馬車に揺られてっと、面倒な事を考えちまうな。……酔わなきゃいいが。短時間だから大丈夫か?揺れも少ねーな。
って、ルディも酔うんじゃねーのかよ。良いのか?……平気そうに見えんなあ。
「とりさま。おでこに力がはいってるよ?」
「アァ?」
「おれ、たくさんは苦手だけどひとりなら大丈夫。うごかなくできるよ?」
「いやカータ、先輩こう見えて強えから」
「そうなの?」
「そーでもねーけど」
「まあ、レッカ次第だな」
「いや、レッカに戦う能力無さそーですけど……まさか刃傷沙汰も辞さないんですか!? つか、穏便にっつったでしょ!?」
「徴が効かねば力ずくも辞さんぞ?」
………ルディの言葉に、サジュの顔色が悪くなってんな。
「マジかよ……。何とかならねーんですか!? レッカは悪い奴じゃ無いんですよ」
「ふむ、随分入れ込んだな」
「色々話聞いたけど、オレはレッカを傷付けたくねえ。アイツの親とかばーちゃんとかスキルとか! アイツ自身には関係無いじゃないですか」
「そぉねぇ。親のせいでぇ可能性が潰えるのはぁ不幸よねぇ」
「ミーリヤ様、でしょう!?」
「でもねぇ、サジュちゃんがぁそぉ思ってもぉ、ちゃあんと危険ならぁ戦うのよぉ? 優先順位はぁ、ルディちゃんなのぉ」
サジュが息を飲んだ。
………ミーリヤねーちゃん、容赦ねーな。笑顔だけど、怖え。
馬車内に微妙な沈黙が漂い始めた時、馬車ががたん、って鳴った。……止まった、か?
「あ、おうち? ついたね」
「着いたな。では、ミニア」
「はいはぁい。カータちゃん、行きましょぉかぁ」
「あい?」
「? ……ルディ様?」
アァ?あのふたりサッサと行っちまったな。家の奴置いてっていいのか?
「僕らは此処で少々待機だ」
「待機?」
「元恋人……いやいきずりか? 兎に角カータが現れたら動揺するだろうからな」
「動揺させてどーすんです」
「動揺したら地が出るだろう?その隙に『王女ローリラ』が乗っ取りに掛かってくるかもしれんぞ」
「ちょ、………乗っ取られたらダメでしょーが!?」
「引きずり出さんと退治出来んだろ」
シレッと言いやがるな、ルディ。しかし、退治、退治……。……退治する気なのかよ。洒落になんねー気しかしねえぞ。
「退治!? はあ!? 退治する気なんすか!? ふざけんなよ!」
「………オイ、ルディ。穏便になんとかしねーのかよ」
「もっと言ってくれ先輩!!」
いや、俺が言ったところでルディが引くとも思えねえが。
「まさかサジュ、五体満足でなんとかなると思っているのか? ミニアを呼んだ時点で気付くべきだろう」
「いやでも……あーー!! ちゃんと無事に生かしてくださいよ!
オレは昨日滅茶苦茶考えたんですからね!! アンタの味方になるって結構に結構だからな!!」
「ふむ……仕方ないな。僕への頼みごとは高いぞ。出世払いで」
「……ルディ、程々にしとけや」
結構とんでもねえのに、嫌味なくキラキラしてんのがなあ。
……まあ、レッカが兎に角……生かせるといいわな。
しかし、ミーリヤねーちゃんとカータに……何させる気なんだかな。
ババアの退治もどーやるんだか分からねえし、徴捺すチビもいねーのに。
バルトロイズ邸は無事で御座います。




