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息子達には厳しいが、孫には優しい。すくすく成長したミキを見た両親の反応を一言にまとめれば、それに尽きる。食べ物の好みやら、キンダーガーデンでの様子やらを質問しては、一切の忖度をしないミキの回答に、頬を緩めていた。
ミキから両親の顔に見覚えが無いと言われた時には、そういえば、こうして親子三人で僕の実家へ来るのは、ミキが乳離れする前だったと思い、いささか反省した。僕と両親、それから兄さんとの仲がそれほど良好でないばかりに、祖父母は母方だけでなく父方にも存在するということを、ミキが覚え損ねる所だったからだ。危ないところだった。
「ママ! おそと、まっしろ!」
「だいぶ積もってる。これなら、スノーマンが作れそう」
「スノーマン?」
「ほら、絵本にあったでしょう? 春になると、どこかへ行っちゃう男の子の話」
「ああっ! あのおはなし、だいすき」
窓の向こうでは、ミネがスノーマンを作り始めた。ミキは、初めて見る雪に大興奮しているようで、両手で掬って真上に放り投げたり、ミネの真似をして雪玉を転がしたりしている。
ミキの面倒は、ミネや両親に任せておくとして、僕は封筒を懐に入れ、お義姉さんを探した。封筒の中身は、もちろんマル紙幣だ。
「私にご用ですか? 今は手が離せないので、少しばかりリビングでお待ちになって」
キッチンで揚げ物をしていたので、僕は料理が終わるまで、ちょっと二階へ上がってみることにした。母屋の二階には部屋が四つあり、一つは両親のベッドルーム、一つは若夫妻のベッドルームで、あとの二つは物置になっている。僕は、今や物置にされている、かつての子供部屋に入ってみた。
「うわぁ、埃っぽい。学習机や回転椅子は、みんな、この部屋に置いてあるのか」
三組とも同じメーカーの製品で、購入した年によって微妙に仕様が違うが、どれが誰の机だったかは、それ以外の特徴で明白だ。どこの抽斗に何が入っているかラベルに書いて貼ってあるのは、兄さんの机。天板の上に、やたらとシールを貼ったり、マジックで落書きしたりしたため、剥がしたり削ったりした痕跡が残っているのが、弟の机。そして、粘土の油や絵の具の染みが端や隅にボンヤリと残っているのが、僕の使っていた机。どの机の上にも、束ねた冊子や書類等が雑然と積まれている。
僕は、自分が使っていた机の引き出しを開けてみた。右手に四段ある抽斗のうち、下から三段には何も入っていなかったが、一番上の抽斗には、懐かしい物が入っていた。