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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅵ 小さな一歩から
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 反響は、凄まじかった。

 放送終了後から暫くは、電話回線がパンクする程の、ベルが鳴り止まなかったそうだ。

 そうだ、と伝聞形なのは、朗読終了後すぐ、逃げるように放送局の屋上にあるヘリポートに向かい、そのまま国境線を越え、学生街にあるビルの屋上まで飛んで行ったからだ。

 そのビルはコトの父親が名義上、オーナーをしているビルで、一階にはカフェが入っている。これも後で聞いた話だが、外壁の蔦を切ったのはオーナーの命令ではなく、管理を委託した会社が勝手に判断したそうで、オーナー自身、驚いたそうだ。

 

『疑惑のスーパーマーケット。記憶にございませんの一点張りで、支持率は急降下する一方……』


 ラジオは、新党首とその側近についての疑惑が取り沙汰されているとの情報で、連日、持ち切りだった。

 庶民の味方と言いながら多額の賄賂を受け取り、税金を踏み倒した過去もあり、カレッジ中退を卒業と詐称し、挙句の果てに、既婚者と不倫していたとあっては、さすがに愛想が尽きるだろう。

 この国を変えたい。コンプレックスに悩む人達を救いたい。その一心だったと訴え、得意の弁舌で正当性を認めさせようとする姿勢は、一度冷めてしまった応援者には、往生際が悪いとしか映らないだろう。

 調べによると、新党首は私生児で、幼少期からその事で非常に悩んでいたそうだ。きっと、法律を勉強する意欲や、政治へ関心を持った原動力は、その辺りに熱源があるのだろう。

 これは、僕の勝手な意見だけど、彼女に限らず、何らコンプレックスを持たない人間は存在しないに違いない。こわいのは、それを私益のために利用しようとする狡猾な人間が無くならないことの方だろう。


「ミネ。今晩は、何を食べたい?」

「久々に、魚が食べたい。あれ、何だっけ? セキの所の郷土料理で……」

「味噌煮のこと?」

「そう、それ。たまに食べたくなるの」


 冷蔵庫には、卵と牛乳くらいしか無いから、サウスマーケットへ行くか。もう少ししたらミキを迎えに行かなきゃいけなくなるから、車で行って、そのまま買い物へ連れて行こう。

 さすがに、もうアイスをねだることは無いだろうけど、チョコレートの一つくらいは買ってあげよう。


「セキは、誰かに悪戯して、反応を楽しむタイプじゃないか」

「その通りだけど、急に、どうしたの?」

「コトさんから電話があってね。その時、陰険な上司に、会議中に利尿剤を入れたお茶を出した事を思い出したの」

「……大丈夫だった?」

「入社当初だから、もう時効じゃない?」

「そっちじゃなくて、一服盛られた方だよ」

「あの上司なら、別件でやらかして遠方へ飛ばされたから、平気よ」


 そういう意味じゃないんだけどなぁ。

 ミネとは、時々話が噛み合わない事がある。だけど、それを悪いとか不愉快だとは思わない。違いを明確にして線引きするんじゃなくて、その差異を差異として認める事が、共存への近道なんじゃないかな。

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