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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅵ 小さな一歩から
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 作戦を端的に言えば、放送電波をジャックしようというものだ。

 夕方から放送が始まる前に、新党首の勇ましい演説に陶酔している人々へ向け、催眠状態を解く詩文を流そうというのだ。

 その原稿が、こちら。

 

 エメラルドの皆さん、こんばんは

 私達は、皆さんに除け者にされて困っているサファイアとルビーです

 窓を閉め切ったままにすると、空気が淀み、中にいる事が不快になります

 どんなに気の合う仲間でも、常に顔を見合わせていると、嫌な面が見えてくるものです

 そのままでは、病気になるだけです


 狭い部屋に閉じ籠らず、窓を開けて風を通し、隣人と交流しませんか?

 隣人を憎むことで生まれるのは、とどのつまり、孤独だけです

 目先の美味しい話や、耳触りの良い嘘に騙されてはいけません

 あなたの隣に居るのは、デビルでもゴーストでもありません

 真っ赤な血潮の流れる、同じ人間です


 さぁ、目を覚まして立ち上がりましょう

 今なら、まだ間に合います


「良いじゃん。特定の個人を名指ししてないし、後で『長期化する引き篭もり問題解消の為に詩を朗読するという目的の放送だった』と弁明するのにも、好都合だよ。やっぱり、セキは賢いな」


 ご満悦のコトには申し訳ないが、僕としては、もう少し美辞麗句で飾りたかった。これでは、まだストレート過ぎる。

 けれど、放送開始予定時刻が迫っているので、これ以上は引き延ばせない。ガラスの向こうの放送室では、機器類の調子を確認したり、マイクテストが行われたり、最終チェックに入っている。

 

「ワクワクしてきた。なっ、セキ?」

「ワクワクというより、ドキドキだよ。代読は出来ないの?」

「分かってないな、セキ。セキの美声じゃなきゃ、ハートは掴めないのさ」

 

 分かるような分からないような事を言われ、首をひねっていると、局長である弟が呼びに来た。


「準備が整ったから、スタジオ入りしてくれ」

「分かりました」

「頑張れよ、セキ。期待してるぞ!」


 コトに激励された僕は、プロデューサーやミキサーの人達に挨拶をしてからアナウンスブースに入り、テーブルに原稿を置き、早鐘を打つ心臓を深呼吸で鎮めつつ、オンエアー時刻を待った。

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