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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅵ 小さな一歩から
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 手帳に連絡先を控えていなければ、こんな事をせずに済んだかもしれない。今更になって後悔しても、手遅れだろうけど。

 比較的こじんまりとした通信室で、僕は弟の職場に電話を掛けていた。横では、コトが聞き耳を立てている。


「……という訳です」

『へへっ。兄さんの友人も、面白い事を考えるもんだな。よかろう。その作戦、乗った!』 

 こんな御調子者が局長では、ラジオも先が見えてるなぁと思いつつ、僕は通話口を片手で覆って溜息を吐いた。

 すると、瞳をらんらんと輝かせたコトが、僕の肩を叩き、親指と小指を立てた手を耳の横に添え、電話を代わるように求めてきたので、受話器を渡した。


「もしもし。お電話代わりました、コトです……」


 この後、二言三言やり取りをしてから、コトは受話器を置いた。

 そして、僕の方を向き、腰に手を回すと、廊下へと歩きながら言う。


「あとは、世紀の名詩を考えるだけだよ、セキくん」

「本当に実行する気かい?」

「怖気づいたのか? 責任は、スポンサーが取るから安心しろ。チューニングのミスととして事後処理する算段も出来てる」

「だけど、悪戯じゃ済まない気が……」

「なぁ、セキ」


 僕が作戦から降りようとするのが気に入らなかったのか、コトは歩みを止め、選べない選択肢を提案してきた。


「セキに残された道は、二つある。一つ。このまま俺の作戦に乗り、仔犬ともども家族が待つ家へ無事に帰宅する」

「もう一つは?」

「作戦を断る代わりに、タクシー代からディナーに掛かった材料費まで、全額支払う。所持金が足りないなら、その分だけ働いて貰うけど、あのワイン一本で、リムジンが三台は買えると言っておこう。どうする?」


 後者を選べば、一生、ここで働き続けなければならない事は、目に見えている。僕も、そこまで意地を張るつもりは無い。

 だから、決して能動的ではないけれども、この難局を切り抜ける打開策が他に思い付かないので、反対するのを止めることにした。


「……協力します」

「それでこそ、親友だ。そうと決まれば、書斎に行くぞ!」


 コトは、腰に回した手を引き寄せ、ずんずんと歩き始めた。

 僕は、早足で歩きつつ、コトと友人になって本当に良かったのかと、疑問に思い始めた。

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