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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅴ 冷たい親族と温かい友情
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 まさか、こんな所で、かつての学友に救われるとは思わなかった。ハイスクール時代の恩を返したいというので、好意に甘える事にした。

 妙なものだ。血の繋がりのないお義姉さんやコトの方が、両親や兄さんより、よっぽど親身になってくれている。


「まっ。水より濃いのは、友情ってことで」

「メーター、回ってないよ?」

「恩人から金は取れませーん。早く、シートベルトしろよ。発車するぞ」

「乱暴な運転はするなよ?」

「分かってるって。これでも、無事故無違反なんだ」

 

 そう言うと、コトは滑るようにリムジンを発進させた。高級車だからというのもあるだろうが、コトの運転テクニックは、ハイスクール卒業後に免許合宿に行った当時より、格段に上達している。そういえば、ペーパー試験の前にも、対策プリントを渡したっけ。あの時にペーパーで落ちてれば、こうして再会する事も無かったかもしれないと思うと、運命の数奇さを実感してしまうなぁ。


「資産家なのに、どうしてタクシーの運転手になろうと思ったのさ。赤字だろう?」

「たとえ働かなくても良い立場にあっても、このご時世、この歳で屋敷に引き篭もってるのは、世間体が悪いから。開業当初に嫁さんが大口の顧客を連れて来てくれたおかげで、何とかトントンになってるよ」

「えっ? コト、結婚してたの?」

「その言葉、そっくりそのままセキに返す。留学するなら、前もって言ってくれても良いじゃねぇか。しかも、向こうで子供まで作ってさ」


 コトは、非難めいた口をききながらも、狐のような糸目を更に細めて微笑む。これは、本気で怒ってない証拠。

 その後も、他愛もないことを喋り続けた。車窓は、ビルが立ち並ぶオフィス街から、一戸建てが続く住宅街へと変わり、リムジンは、徐々に山間の道へと進んで行く。


「耳の調子は戻ったか?」

「戻ったみたい。ありがとう」 


 気圧の変化で聞こえが悪くなったので、途中で休憩して車外に出ていたが、あまりにも寒いので、数回深呼吸して調子が整うと、すぐに車内に戻った。

 それから、更にシラカンバの林を進むと、小雪がチラついて来た。


「また雪が降って来たよ。吹雪で飛行機が欠航となったら、いよいよ春まで帰れなくなる」

「バカンスに来たつもりで、羽根を伸ばせよ」

「気楽に言うなよ。このまま休暇が終わるまでに帰れなかったら、離婚と失業の危機だよ。ダブルパンチで立ち直れない」

「もし、そうなったら、俺が止めてやるよ。解雇を撤回しろ、さもなくば、御社の株式を買収して人事権を掌握するぞ」

「無茶苦茶だけど、あながち不可能では無さそうだから怖いよ」

「ハッハッハ。まっ、大船に乗った気で居ろって。そのうち、何とかなるさ。――そうそう。この秋に、地下にホームシアターを作ったんだ」

「執事さんが映写機を回すのかい?」

「そんな古いタイプじゃない。最新型さ」

 

 シラカンバの白い樹皮、チラつく小雪。そして、その後に待っているであろう白亜の豪邸。今回は、つくづく白い世界に縁があるようだ。

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