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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅴ 冷たい親族と温かい友情
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 一人で丸ごとメロンを完食したホンが帰国してから、十日が経った。

 中間予想より三日程遅れたが、投薬治療の効果が確認され、ようやく退院が認められた。

 ここしばらく付き(まと)っていた気怠さが無くなった事で、頭も冴えたような気がして、何とも調子が良い。


「……という事で、これから空港に向かうところなんだ」

『そう、良かった。気を付けて帰ってきて。無理しないように』

「そうするよ。そっちの空港に着いたら、また電話するから」

『わかった。じゃあ、また』


 電話を切ると、行きと同じタクシー会社の車が、病院正面のロータリーで待っていた。今日は雪も止んでいて、比較的過ごしやすい天気になっている。

 タクシーの車内では、このまま、後は家に帰るだけだとホッと一安心していた。

 ところが、現実は甘いものではなく、到着した空港内は、予期せぬ事態に騒然としていた。


「西部行きの便が欠航とは、どういう事だ!」

「ゴールドをマルに替えられないのは、どうしてなの? 説明なさい」

 

 西部からの便で観光やビジネスに来ていたと思しき赤毛の群衆に対して、金髪の空港職員達は、あたふたとカウンターの内外を行ったり来たりしながら、説明に追われていた。

 これは、向こうで何かあったようだと思い、落ち着くまで様子を見ようとロビーのベンチで座っていると、アナウンスが流れた。

 

『えー、西部国際エアポートへ向かう便が欠航している件についてですが……』


 一方で業務無線を聞きながら、一方でマイクに向かって話す職員の、しどろもどろな説明をまとめると、次のようになる。

 まず、当選した新党が提出した臨時法がスピード施行された事が、そもそもの騒動の原因であること。

 続いて、その臨時法の内容だが、このトラブルに関係しているのは、ハリケーン被害の迅速な完全復旧を目的とした二法であるということ。

 その内の一つは、国内での救援物資や救助隊員の輸送を優先するため、一部の国際線の受け入れを制限するというもの。そして、もう一つは、復興中の急速なインフレーションを防ぐため、ゴールドの持ち出し限度額が大幅に引き下げられたというものだ。

 

「大風が吹けば、何とやらだなぁ……」


 ハリケーンへの対処が後手後手に回っていた前の与党に、痺れを切らしている被災者は多いだろう。加えて、多文化共生社会を良しとしない層も、一定数あったということか。サイレントマジョリティーに火を点けて得票に繋げるのは、容易だっただろうな。

 このまま、新党首が語る勇ましい演説に意識操作され、偏った知識や愛国心を拗らせ、選民思想や自民族至高主義に走らなければ良いけれど。

 

「考えすぎかな。それより、また雪が降って来る前に、今夜の宿泊先をどうにかしなきゃ」


 騒々しいロビーに掻き消される程度の声量で、誰にともなくボソッと呟くと、ベンチから立ち上がり、トランクを片手に電話の列へと並んだ。

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