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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅴ 冷たい親族と温かい友情
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 入院から一週間で、かなり体調が良くなってきた。

 主治医によれば、この調子なら、あともう一週間もすれば完治するだろうとのこと。

 ようやく一筋の光が射したような気分で、早く我が家に帰りたいと思い始めていた時、見慣れた大男のシルエットがカーテンに映った。


「だーれだ?」

「裏声を出してもバレバレだよ、ホン」


 真っ白なカーテンの向こう側から姿を現したのは、予想通りの人物だった。ただ、マウンテンパーカーを着ている所を見るのは初めてだったので、いささか驚いた。


「防寒具、持ってたんだね」

「滅多に着ないけどな。水臭いぞ、セキ。入院するなら、そう言えよ」

「休暇中だし、遠いから迷惑かと思って。余計な心配をさせたくないし」

「言わない方が、心配になるって。仲良くしたいと思ってない人間が、ランチに誘ったり、仕事を代わってやったりするかよ。――おやおや?」

 

 立て掛けてあったパイプ椅子を広げ、ギシッと金属音を立てながら座ると、棚の上に置いてあるフルーツバスケットに目を付けた。いや、鼻が利いたと言った方が正しいか。

 この籠は、兄さんが見舞いに来た後に送り付けて来た物だ。オレンジやバナナは食べたんだけど、一番の大物だけは残したままにしている。ホンは、それを片手で持って耳と頬骨に当てると、実の中央付近を太い指で医師が打診するようにトントンと叩いた。


「すっかり食べ頃に熟れてるぞ」

「そこの引き出しにジャックナイフとスプーンがあるはずだから、適当に食べて良いよ」

「やった! ご馳走になります」

 

 ホンは、ナイフでグルッと円周上に走らせて切れ目を入れると、両手で豪快に二つに割り、種をゴミ箱に捨ててから、片方を僕に差し出した。

 僕が受け取らないと、ホンは手前に引っ込めながら不思議そうに言った。


「セキは、まだ食べられないのか?」

「食事制限は無いよ。ただ、メロンが嫌いなだけ」

「嫌がらせか? 何でメロンが嫌いだって言わねぇんだよ」  

「関心が無いから、父さんも母さんも覚えてないんだよ。僕がメロンが嫌いだってことを」 


 間っ子は、両親からの愛情が兄弟で一番薄いと言われる続柄だという俗説がある。兄とは五歳違い、弟とは二歳違い。時間的に考えても、その後に僕がパッとしない子供だった事を踏まえても、興味が薄くなおざりになってしまうのは、仕方ない事だろう。

 しかし、だからといって、わざわざ飛行機に乗って見舞いに来た同僚に、その事を八つ当たりすべきではない。余計な事を言ってしまったと後悔の念が湧いて来た。

 これで嫌われても仕方ない、怒るなり呆れるなりするだろうと思っていると、ホンは、全く違う反応を示した。

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