表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅳ セキの災難とミネの心境 
45/67

043

 前回の続き。

 そんなこんなで、収穫祭を充分に楽しんだ僕達は、興奮冷めやらぬまま、ディナーの食材を買いにサウスマーケットへと向かった。だが、ここでも驚きが待っていた。

 収穫祭帰りに立ち寄る人が多いだろうと見越してか、収穫祭セールと銘打ち、いつもより更に安い価格になっている商品が多かったのだが、それだけではない。


「それでは、ここから一枚引いてください」

 

 子供連れの場合、レジで会計をする際、子供一人につき一回、(くじ)引きのチャンスがあったのだ。

 レジに並んでいる人達を観察していると、大抵は大人が代わりに籤を引き、十人中二人か三人が、五百シルバー分や十パーセント分の割引券を手にしているようだった。

 折角来たから、ついでにコレも買っておこうと、上下二段の(かご)いっぱいに買物をしたから、僅かでも安くなるなら良いと思っていたら、順番が回ってくる直前に、一緒にレジ待ちの列に並んでいたミキが、僕のスラックスの裾を引いて言った。


「パパ。ひいてもいい?」

「引きたいの?」

「ひきたいの。なんだか、あたりそうなきがする」


 第六感とでも言おうか、子供には、大人には分からない直感が働く時があるもの。別に、僕が引かなければいけないという訳でも無さそうなので、ミキに任せることにした。


「じゃあ、お嬢ちゃん。ここから一枚引いてくれるかな?」

「はぁい!」


 ミキは、箱の上部にある十字の切り込みに手を入れ、ゴソゴソと掻き回しながら一枚引き抜くと、それを両手で包み込み、胸元に近付けて祈るような仕草をしてから、サウスマーケットと書かれたエプロンをした店員に渡した。

 店員は、その子供らしい仕草にフッと笑みを零したが、渡された籤を開いた途端、目を丸くして籤を二度見し、エプロンのポケットからハンドベルを出し、カランカランと鳴らしながら祝福した。


「おめでとうございます!」


 一体、何がめでたいのかと思い、店員から渡された籤を見ると、五十パーセントオフという文字が書かれていた。店員の反応から察するに、おそらく、籤の中で一番の割引率なのだろう。無邪気なミキは、物欲センサーに無関係なのだろう。大人になると、欲の油で幸運を掴み損ねるようになるのかもしれないと思うと、日頃の行いを反省したくなる。


「どうしたの? 何の騒ぎ?」

「実は、つい今しがた、ミキが籤を引いたんだけどさ……」


 かくかくしかじか。状況を説明すると、ミネは残念そうに言った。

 

「それなら、もう一ランク高いのを持って来れば良かった」


 そう言いながら、ミネは片手に持っていたワインのボトルを二つ目の籠に追加した。既に一つ目の籠の精算を始めていた店員は、ミネを見てムッとした様子だったけれど、ミネと視線が合った途端、すぐに視線を籠に戻し、レジ打ちに専念し始めた。

 こういう狡賢さが、ミキに遺伝しないと良いのだけど。まぁ、そうさせないためにも、僕がしっかりしないといけないだろうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ