043
前回の続き。
そんなこんなで、収穫祭を充分に楽しんだ僕達は、興奮冷めやらぬまま、ディナーの食材を買いにサウスマーケットへと向かった。だが、ここでも驚きが待っていた。
収穫祭帰りに立ち寄る人が多いだろうと見越してか、収穫祭セールと銘打ち、いつもより更に安い価格になっている商品が多かったのだが、それだけではない。
「それでは、ここから一枚引いてください」
子供連れの場合、レジで会計をする際、子供一人につき一回、籤引きのチャンスがあったのだ。
レジに並んでいる人達を観察していると、大抵は大人が代わりに籤を引き、十人中二人か三人が、五百シルバー分や十パーセント分の割引券を手にしているようだった。
折角来たから、ついでにコレも買っておこうと、上下二段の籠いっぱいに買物をしたから、僅かでも安くなるなら良いと思っていたら、順番が回ってくる直前に、一緒にレジ待ちの列に並んでいたミキが、僕のスラックスの裾を引いて言った。
「パパ。ひいてもいい?」
「引きたいの?」
「ひきたいの。なんだか、あたりそうなきがする」
第六感とでも言おうか、子供には、大人には分からない直感が働く時があるもの。別に、僕が引かなければいけないという訳でも無さそうなので、ミキに任せることにした。
「じゃあ、お嬢ちゃん。ここから一枚引いてくれるかな?」
「はぁい!」
ミキは、箱の上部にある十字の切り込みに手を入れ、ゴソゴソと掻き回しながら一枚引き抜くと、それを両手で包み込み、胸元に近付けて祈るような仕草をしてから、サウスマーケットと書かれたエプロンをした店員に渡した。
店員は、その子供らしい仕草にフッと笑みを零したが、渡された籤を開いた途端、目を丸くして籤を二度見し、エプロンのポケットからハンドベルを出し、カランカランと鳴らしながら祝福した。
「おめでとうございます!」
一体、何がめでたいのかと思い、店員から渡された籤を見ると、五十パーセントオフという文字が書かれていた。店員の反応から察するに、おそらく、籤の中で一番の割引率なのだろう。無邪気なミキは、物欲センサーに無関係なのだろう。大人になると、欲の油で幸運を掴み損ねるようになるのかもしれないと思うと、日頃の行いを反省したくなる。
「どうしたの? 何の騒ぎ?」
「実は、つい今しがた、ミキが籤を引いたんだけどさ……」
かくかくしかじか。状況を説明すると、ミネは残念そうに言った。
「それなら、もう一ランク高いのを持って来れば良かった」
そう言いながら、ミネは片手に持っていたワインのボトルを二つ目の籠に追加した。既に一つ目の籠の精算を始めていた店員は、ミネを見てムッとした様子だったけれど、ミネと視線が合った途端、すぐに視線を籠に戻し、レジ打ちに専念し始めた。
こういう狡賢さが、ミキに遺伝しないと良いのだけど。まぁ、そうさせないためにも、僕がしっかりしないといけないだろうな。