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祭りと言えば、露店や古物市が付き物。だから、ひょっとしたら居るかもしれないと思っていたら、予期していた通りだった。
「こちらでも販売されてるんですね」
「いやぁ、収穫祭に店を出すのは、三年ぶりなんだ。運が良い」
「ミキちゃんのは、マスタードなしにしてあげるね」
「わぁい!」
茶髪で雀斑顔の男性店主が、赤茶けた髪を三つ編みにしている少女と共に、見慣れたキッチンカーでホットドッグを販売していた。言うまでもなく、ミキが通うキンダーガーデンの友達と、その父親である。僕とミキが店を見付けるより一足早く、二人に呼び掛けられてしまったので、立ち寄らざるを得なくなった次第。
ミネとは、適当に空腹を満たしてから、聖堂の正面にある円形広場で合流することになっている。一緒に回らないのは、こうした場での食に対する貪欲さが違うからだ。昨年は、チャレンジメニューに挑戦して成功したらしく、年配の女性店主は大赤字だと嘆いていたそうな。今年は、どこかで商売上がったりにさせてなきゃ良いんだけど。
「呼び込みも板に付いてますけど、娘さんは、いつからお店のお手伝いを?」
「さぁて、いつ頃からだったかな。物心付いた頃には、俺や妻を真似してたんじゃないかなぁ」
「きょうのミキちゃんは、エレガントね。ドレスが、よくおにあいよ~」
「ありがとう。わたしも、きにいってるの」
そんな世間話をしているうちに、鉄板の上の腸詰めは良い焼き色になったので、店主は、包装紙にトングでコッペパンを置き、続いて、その切れ目に刻んで酢漬けにしたキャベツを敷き、そこへ焼き上がったソーセージを挟むと、反対の手で赤と黄の二本のボトルを指の股に器用に挟み、二筋の波型を描いていく。そしてまた、同じ工程を途中まで繰り返し、今度は赤のボトルだけを持って同じような波型を往復で描いていく。
昼休みに二度ほど目にした光景であるが、相変わらず鮮やかな手捌きだと見惚れてしまう。ミキも、ホットドッグが出来上がっていく工程を目の当たりにして、興味津々といった様子で円らな瞳をエメラルドに輝かせていた。
「こっちが旦那ので、こっちが嬢ちゃんのだ」
「ありがとうございます。――ミキ、ちょっと持ってて」
「はぁい」
「まちがえて、パパのをたべちゃだめよ、ミキちゃん」
ミキに持たせてる間に、僕はジャケットからコインケースを取り出し、商品代金を硬貨で支払う。すると、店主はそれを一旦、受け取ってエプロンの前ポケットに入れてから、僕の手を取って一枚の二十五シルバー硬貨を置いた。わざわざ、ぴったりの額を支払ったと断らずとも、二つ買って奇数の釣銭が返ってくるのは変だと気付くだろう。
「あのっ」
「それは、いつも娘が世話になってる礼だから」
僕が硬貨を返そうとすると、店主は受け取ろうとせず、軽くウインクをしてニヤリと口角を上げ、小声で囁いた。
どちらかと言えば、僕が日頃の御礼にチップを足すべき立場なのではないかと考えつつも、ここで再び突き返すのも好意を無視するようで失礼かと思い、そっと硬貨をコインケースに入れた。