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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅳ セキの災難とミネの心境 
37/67

035

 築くのに時間が掛かり、壊すのは一瞬なのは、家屋と信用だろう。


「で、何が原因だったんだ?」

「些細な事だったと思うんだけどねぇ」


 僕が顎に指を当てながら首を傾げると、片目で空のビール瓶を覗いていたホンは、瓶を床に置いてソファーから立ち上がり、冷蔵庫から新しいビール瓶を出しながら言った。


「覚えてないのか?」

「頭に血が昇っちゃって。何を言ったか、何を言われたのか、もう忘れたよ」

 

 一旦、交感神経の昂ぶりがアセチルコリンによって抑制されてみると、ノルアドレナリンが放出されていた期間の事を振り返るのが嫌になる。

 お互いに何を口走ったかは曖昧な癖に、ラジオで新党発足並びに過半数の議席獲得という快挙をを喜ぶ党首の所信表明演説は耳に残っているんだから、人間の記憶は適当なものだと思う。

 ともかく、何らかのキッカケで口論になったあと、先にミネがミキを連れ、車で家を出てしまった。

 その後、残った僕も、何となく居心地が悪くなってしまったので、ホンに電話をしてみた。すると、ホンは既にアルコールが入っていたようで、宅呑みに付き合えと言われたので、家の戸締りをし、小屋でナナが大人しくしているのを確かめてから、アパートへとやってきた次第だ。


「まっ、後の事は明日の朝にでも考えようぜ。ほら、セキも飲め」


 そう言いながら、ホンは僕の肩甲骨の上あたりを平手でバシバシと叩き、瓶の王冠を前歯に挟んで開け、僕が持っているグラスに、なみなみとビールを注いだ。

 衛生概念というか、整理整頓というか、文化的な生活を送る上で必要であろう要素が、ホンには全くといって良いほど抜け落ちていて、水回りやキッチンは汚れたままである。彼女と付き合っていた頃は、もっとちゃんとしていたのにと、その事を軽く指摘したんだけど、これでも床が見えるように片したんだとか、クローゼットは開けると雪崩が起きるので触らないこととか言われてしまっては、閉口するしかない。

 きっと、このグラスも、まともに洗ってないに違いないと思いつつ、泡が零れないよう、急いで半分ほど飲み、折り畳みテーブルの上にグラスを置いた。

 酔っ払っているホンの言う事を真に受ける訳ではないが、夜中に考え事をしても、後ろ向きの暗い結論にしか達しないだろう。この場は、ひとまず問題を先送りするとして、久々に気の置けない酒宴を楽しむとしよう。

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