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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅲ 歪んだ過去と歪な未来
32/67

031

 その後、ハリケーンは深夜の内に我が家の上空を通過し、翌日の午後には遥か北東の山脈を越えて去って行ったと発表された。

 ただ、新聞やラジオ等のメディアの情報によると、山間部では倒木や土砂災害等が、沿岸部では塩害や漂着物の処理等が、依然として問題となっていて、一部地域では停電や断水が続いている事もあり、被災者は、行政の対応の遅さに苛立ちを募らせているらしい。

 幸いにも、我が家は広い平野部のおよそ中央に位置し、周囲は住宅街であるため、鉄塔が倒れたり看板が飛んでくるといったような被害も無く、また、オフィスやキンダーガーデンの方にも目立った被害も無かった事から、三日振りに日常生活が再開された。

 ただ、嵐が過ぎる前と全く同じかといえば、そうではない。


「うおぉ、さむぅい」

「ホントだ。風が冷たいね」


 ハリケーンが寒気の集団を引っ張って来てくれたお陰で、朝晩がグッと冷え込むようになったのだ。今は、僕もミキもマフラーだけで対策しているが、収穫祭が終わる頃には、手袋をしたり、コートを着たりしなければいけない寒さがやってくるだろう。

 昼間には温かさが戻るだけ、まだマシなのだろうか、なんて事を悠長に考える余裕が無くなるくらい、視線の先に居る人物の服装には違和感を覚える。


「ミネ。今朝は、この秋一番の冷え込みだって新聞に載ってたんだけど」

「それが、何か問題でも?」

「せめて、ジャケットかセーターでも着たらどうかと思ってさ」


 現在のミネの格好は、フランネルのシャツとグレンチェックのスラックス。僕だったら、とても平然としていられない薄着だけれど、ミネは鳥肌ひとつ立てていない。


「すでに、筋肉という自前のジャケットを着てるの。ほら」

「あつっ!」


 ミネは、出し抜けに僕の右手首を掴むと、そのまま両手で僕の右手をサンドイッチしてみせた。ここは玄関を一歩出た屋外で、ミネは直前までポケットに手を入れていた訳ではないにも関わらず、手の平は僕より暖かかった。


「私が熱いというより、セキが冷た過ぎるのよ。肌の色も美白だから、ちゃんと血が通ってるか不安になる」

「褒めてるんだか貶してるんだか、よく分からない評価だね」

「凍死しやしないか、ひやひやしてるの!」

「わっ!」

 

 そう言うと、ミネは僕にタックルでも仕掛けるような勢いで抱き着いて来た。まぁ、本人にとっては、軽くハグを求めに行った程度なんだろうけど、こうした事を準備不足な段階でやられると、身体的にも精神的にも反応が追い付かない。


「ひゅー、ひゅー!」

「煽らないでよ、ミキ。ママが調子に乗るか、らっ!」


 ミキが、どこで囃し立て方を覚えたのかは、ある程度予測が付く。それよりも、直近の問題は、今、ミネが何を考えているのか、全く以って心が読み取れないところだ。これ以上、密着しているのは、色んな意味で宜しくない。

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