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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅲ 歪んだ過去と歪な未来
30/67

029

 翌朝は、晴れてはいたが雲の流れが早く、いかにもハリケーンの到来を予感させる空模様だった。


「ナナ~。ドッグフードですよ~」

 

 中型の仔犬用のドッグフードを盛った餌皿を持ち、ミキがフランス窓を開けて庭先へと降りると、ナナは声と匂いに素早く反応し、犬小屋の中で立ち上がり、舌を垂らし、尻尾を振って喜びを表した。そして、ミキが餌皿をナナの前脚の前に置くと、カリカリと小気味良い音を立てながら夢中で食べ始めた。

 ミキは、その姿を満足そうに眺めつつ、フカフカの耳や頭の上を優しく撫でている。

 僕は、そんなミキをそのままにしておきたい衝動に駆られながらも、昨夜の決定事項と、今しがたの電話連絡での要件を伝えるため、片手を振ってこちらへ呼び寄せる。


「ミキ。こっちへおいで」

「は~い」


 ミキは、ナナの頭の上をポンポンと軽く叩いてモフモフタイムを締め括ると、リビングへと駆け戻ってきた。


「もうじかんなの?」

「そうだけど、その前に、ミキに伝えておきたい事があります」

「なぁに?」


 僕は、ミキが話を聞く姿勢になった事を確かめると、人差し指を立てながら言う。


「まず一つ目。来年の春になったら、ミキは七十七ジュニアスクールに通う事になりました」

「ななじゅうなな、じゅにあすくーる?」

「少し前にパパと見学に行ったんだけど、忘れちゃった?」

「あかいとんがりやねに、とりさんがいたところ?」

「違う、違う。風見鶏が有った方じゃなくて、白くて四角い建物が並んでた方だよ」


 ミキは、僕の説明にピンと来なかったようで、小首を傾げてしまった。どうやら七十七校は、十八校より印象が薄かったようだ。

 その辺りの情報は後々に補充するとして、僕はもう一本、中指を立て、二つ目の伝言に移る。


「夕方早くにハリケーンがやって来るかもしれなくなったので、今日のキンダーガーデンは、ランチを食べたらすぐに帰る準備をします。パパも、なるべく早くお仕事を切り上げて迎えに行くからね」

「わぁ。ハリケーン、くるのね?」

「そうだよ。帰って来たら、物干し台とか植木鉢とかと一緒に、ナナもリビングに移動させるからね」

「えっ! ナナをリビングにいれていいの?」

「ハリケーンが通り過ぎるまでは、家の外に出しておくと危険だからね。特別だよ」

「わーい!」


 ミキは、喜びを身体で表現しようと、ソファーの周りをピョンピョンとスキップして回り始めた。そんなミキを横目で見ながら、大きなリュックを持ったミネが僕に言った。


「ギリギリまでラボに居る事になると思うけど、這ってでも今日中には家に帰るつもりだから、玄関だけは閉め切らないでおいて」

「わかった。でも、なるべく早く切り上げて戻って来てね」

「善処します。――ミキ! いつまでも遊んでないで、鞄を持ちなさい」

「は~い」


 ミネは、ミキに一言注意すると、さっさとエントランスへと移動した。

 僕は、電気の消し忘れや、ガスの締め忘れが無いか目視で確認しつつ、鞄を持ったミキと一緒にエントランスへ向かった。

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