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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅰ 平穏な日常
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003

 そしてシリアルは空になった、というミステリーは起こらないまま、朝食は恙無く終了した。そう簡単にエンゲル係数を急上昇させられては、いくら共働きとはいえ、家計が赤字になりかねないところだ。

 そうそう。共働きとは言っても、不況対策としてワークシェアリング制度が導入されてるから、僕もミネも、出勤は週四日までなんだ。僕の方は曜日が固定されてるけど、ミネの方は不定休だから、今日みたいに二人揃って出勤する日があったり、二人とも休みの日があったりで、週によってバラバラ。

 収入は多くないし、借家暮らしを余儀なくされるけど、ミキと接する時間が増えるのは、彼女の教育上に好ましいことだと思ってる。僕の父親は、稼ぎは良いけど家庭を顧みないタイプで、専業主婦の母親としょっちゅう口論してたから。あぁいう親には、なりたくない。


「パパ。はやく、はやく!」

「はいはい」


 革靴の紐を結ぶと、片手に鞄を持って立ち上がる。すると、空いた方の手を、さっきまでスニーカーをパタパタと踏み鳴らしていたミキが、その小さくて柔らかな手でキュッと握りしめる。

 手の大きさが全然違うから、僕の指二本分くらいしか掴めないんだけど、そこをなんとかして四本とも持とうとしてくるところがいじらしくて、思わず頬が緩んでしまう。

 そして、ビジネススーツ姿の僕と、キンダーガーデンの制服(ブレザー)を着たミキがエントランスを出ると、オフィスカジュアルに身を包んだミネがエントランスの電気を消し、ドアの鍵を閉める。

 

「それじゃあ、ミキのこと、お願い」

「任せて。いってらっしゃい、ミネ」

「いってらっしゃい、ママ!」

「いってきます」


 途中の十字路で二手に分かれ、ミネは駅へ、僕とミキはキンダーガーデンへと向かう。

 キンダーガーデンは、最寄り駅と、その一つ先の駅との中間付近にあるので、送り届けたあとは、そのままひと駅先へと向かうことにしている。

 もっと家に近い場所にも別のキンダガーデンがあるのだが、そちらは定員オーバーで入園できなかった。共働き世帯が増えたこともあり、どこも人手不足らしい。

 一応、玄関横には駐車スペースがあって、中古で買った普通乗用車が停めてあって、僕もミネも免許を持ってるんだけど、税金のせいで燃料代が高いから、遠方へ出掛ける時にしか使ってない。

 

「おはようございます、ミキちゃんのお父さん」

「おはようございます。今日も、よろしくお願いします」

「はい」

「センセイ、おはようございます!」

「はい、おはよう。今日もミキちゃんは元気ね~」


 さて。名残惜しいところだけれど、チューリップの描かれたピンクのエプロンをした女性保育士に、無事ミキを預けられたことだし、僕は勤め先へ向かうことにしよう。

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