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帰宅後に経緯を説明すると、ミネは元の場所に戻せと突き放すどころか、小屋を作ると言い出し、先程まで図面を引いたり、捨てられていた木箱を解体してサイズを測ったりしていた。どうやらミネも、一度は犬を飼ってみたかったらしい。
その間、ミキは庭先でナナと名付けた仔犬と戯れている。ちなみに、ミネがダイナミックに後ろ脚を持ち上げて調べた結果、仔犬はメスだという事が判明している。
「じゃあ、ホームセンターに行ってくるから、ミキの事、よろしく」
「行ってらっしゃい。くれぐれも安全運転でね」
「わかってる。あっ、そうそう」
ミネは、キーを差し込んでエンジンを掛けた直後、言い忘れに気付き、早口で言った。
「電話があって、夕方、マツが来る事になったから」
「へぇ、久しぶりだね。元気そうだった?」
「フラれた愚痴を零すくらいには」
「あっ、また駄目だったんだ」
「だから、そんな男は止めとけって、私も言ったんだけど」
「言っても聞かないよ、彼女の場合」
「そうなの。そういう訳だから、後でミキと買い物に行った時に、チーズやハムなんかを買っておいて。マツがビールを持って来るらしいから」
「わかった。買っておくよ」
僕が了解すると、ミネはアクセルを踏み、木材や金具の調達へと向かった。
車が通りの角を曲がって見えなくなり、ガレージの三枚引き戸を閉めた頃、ミキが仔犬のナナを従えて駆けてきた。
「ママ、どこいったの?」
「ナナのお家の材料を買いに行ったんだよ。ミキも、ランチが終わったら買い物に行こうね」
「おかいもの! どこいくの? サウスマーケット?」
「違うよ。今日は歩いて行くから、ノーザンモールの方」
「な~んだ。そっちか」
ミキは、少しばかりがっかりしたようだった。
ノーザンモールは、安く豊富で大量にが売りのサウスマーケットと正反対の経営方針の小売店で、良品を適正価格で欲しい分だけということをモットーに、量の多さより質の高さを売りにしている。まとめ買いするには向かないけれど、徒歩圏内にあるので、ちょっとした不足を補う時に重宝している。
ただ、その為に、お子様には地味で面白味が無い店に見えるようだ。
とにもかくにも、まずはランチを済ませる事が優先事項なので、僕はナナを抱え上げ、ミキの手を引いて庭へ、そしてリビングへと向かう事にした。