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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅱ ボタンの掛け違え
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020

 午後の仕事を終え、残業をする事無く定時でオフィスを出ると、明日は休みだという開放感も手伝って、何とも清々しい気分だった。……ミキの迎えに行くまでは。


「ねぇ、パパ。パパとママは、どうしてけっこんしようとおもったの?」

「ママと結婚したら、きっと幸せになれるんじゃないかと思ったからだよ」


 誰に吹き込まれたのか知らないが、今日のミキは、やたらと恋愛関係の事を知りたがる。

 まったく。キンダーガーデンでの数時間に、何に影響されたのやら。


「どうして、そうおもったの? しあわせってなぁに?」


 手を引いて家路に向かう道すがら、ミキから「恋をするとは何か?」とか「夫婦とは何か?」とかいった、明確な正解が無く答えに窮する質問の容赦ない攻撃に遭い、僕は脳内ディクショナリーをフルスピードで検索しなければならなかった。

 幸せが何かなんて、僕の方が知りたいくらいだよ。

 ミキへの適当な答えを探しながらも、頭の片隅では、こんなに家まで距離があると感じたことが、今まであっただろうかと、過去の記憶の引き出しに眠るアーカイブを出しながら考えていた。

 知識欲や好奇心が旺盛な事は好ましい限りだけれど、そろそろ、自力で調べる方法を教えてあげる時期に来てるのかもしれない。


 家に帰ってからジャケットを脱いでエプロンを着け、冷蔵庫と相談して晩の献立を組みたてようとキッチンへ移動しつつ、はたして六歳児に百科事典を引けるだろうかと、僕自身の幼少期や、兄や弟がどうだったかの朧げな経験を参考にしつつ検討していると、ミキの興味は別の事に移ったようで、タッタッタと軽快に二階へと移動して行った。

 子供部屋に向かったのなら、そっとしておこう。不審な物音や声がしたら、すぐに駆け付けられる距離に居ることだし。

 

「人参も玉葱もあるし、たしかブイヨンもあったはず……」


 フードラックの浅型の籠の中を覗き込むと、開けて間もないブイヨンの缶が見付かったので、ひとまず野菜スープが出来そうだと安心した。

 その直後の事だった。


「パパ、パパ! これ、パパとママでしょう?」


 二階からダダダッと賑やかな足音を立ててキッチンへ戻って来たミキの小脇には、発見して欲しくない物ベストスリーに入る代物が抱えられていた。

 

「このきれいなおてがみ、なんてかいてあるの?」


 僕は、冷蔵庫に肉か魚があったか確かめることも忘れ、ミキが持っている便箋に対する説明責任を果たすことで、結果的に帰路の質問への一つの明解になるかもしれないと思った。だが、それと同時に、ここへミネが帰宅したら、とんでもない勘違いをするのではないかという懸念も考えに入れていた。

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