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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅱ ボタンの掛け違え
16/67

015

 深夜、寝室、一つのベッドに枕が二つ。

 マッサージどころか耳かきをしていたとしても、いかがわしい妄想が捗りそうな単語の列だが、一切、そういう展開にはならない事を、最初に断っておこう。

 何故ならば、こちらに背を向けて熟睡しているミネと僕との間には、ミキが居るからだ。


 それは、三十分ほど前のこと。もぞもぞと毛布の内側で何かしら重量感のある物が蠢く気配を察知し、枕元の読書灯を点けて毛布をめくると、中には瞳を潤ませたミキの姿が確認できた。


「パパぁ~」

「どうした、ミキ?」

「ミキのおへや、ユーレーさんがいるの」

「幽霊?」


 ふと隣の枕元を見て、軽く鼾を掻きながらミネが眠っているのを確認すると、僕はミネを起こさないようにベッドを下り、ミキの手を引いて子供部屋へと移動した。

 子供部屋に入って灯りを点け、カーテンも窓も閉まっていることや、クローゼットの中にもデスクやベッドの下にも、誰も何も無い事を二人で視認してから、僕は言った。


「ほら。どこにも幽霊なんて居ないよ。もう、部屋の外へ出て行っちゃったんだ」

「でも、パパがいなくなったら、もどってくるかも」


 きっと、悪い夢を見たのを、現実に起きたと勘違いしてるだけなんだろうけど、それを説明したところで、どうにかなるものではないだろう。

 ミキがキンダーガーデンに入る前なら、添い寝して落ち着かせることも出来たんだけど、セミシングルベッドは狭いし、ミキは小さくても女の子だからなぁ。


「ねぇ、パパ」

「なんだい?」

「パパとママのおへやでねちゃ、だめ?」


 なるほど、そう来たかと思いつつ、僕はミキを抱きかかえ、寝室へと戻ってきたのだ。

 そして、今に至る訳なんだけど……


「パパのもうふ、おおきくてあったかい」

「そうかい」


 ミキを間に挟んで川の字に並び、毛布の上からミキの細い肩口を優しくトントンと叩いて眠りを誘っているのだけれど、久々に親子三人で寝るというイベント性に興奮してか、ミキは、先ほどから欠伸ひとつこぼそうとしない。


「いいな、パパとママは。いつも、こんなおっきなベッドで」

「パパもママも、もう大人だからね」


 クイーンサイズのベッドは、セミシングルベッドの二倍の幅だから、二人で使うと、一人当たりの面積はセミシングルと変わらない。

 だけど、そんな物理的な事をミキに説明しても理解できないかもしれないし、ミキが言いたいところは、他にあるのかもしれない。

 ミキがもう少し大きくなって、ジュニアスクールやハイスクール、更にはカレッジに通うようになる頃には、きっとミキは今日の事を忘れて、一人だけの生活が欲しくなってるんだろうな。そう考えると、子供の面倒を看られる時期というのは、存外に短い間なんだろう。


「あのね、パパ」

「何かな、ミキ」

「パパの……」


 そこまで言いかけたところで、ようやく睡魔がやってきたようで、何というセリフが続くつもりだったのかは、分からずじまい。

 やや気になったが、天使を揺り起こすのも忍びなかったので、僕は静かに読書灯の紐を引き、頭の端で翌朝にミネに何と説明しようか考えつつ、目を閉じた。

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