013
玄関横の駐車スペースに停め、ちょうど買った荷物をキッチンや水回りに運び終わったタイミングで、ポツポツと雨が降ってきた。僕は、ミキに外に出て来ないよう言ってから、急いで庭の洗濯物をリビングへと取り込んだ。
薄手のハンカチやカットソーは乾いていたけれど、タオルやソックスは半分湿ったままだったので、リビングにロープを渡し、しばらく部屋干しさせておくことにした。こういう時だけ、衣類乾燥機があれば便利なのにと思ってしまう。置き場所が無いから、仕方ないんだけど。
「オバケだぞ~」
「こーら、ミキ。それはまだ濡れてるんだから、遊ばない」
「キャハハ」
ミキが、僕のワイシャツの袖に手を入れ、頭巾のように被ってふざけ始めたので、僕は台襟を後ろから掴み、そのままバンザイさせるような形で上に引っ張って脱がせた。
そんなこんなで、濡れていた衣類を干したり、乾いていた衣類を畳んで運んだりしているうちに、リビングに備え付けられている有線ラジオから、定期放送が流れ出した。このラジオは、防災用として各家庭に設置が義務付けられている物だ。聞きたくなければ、コンセントからプラグを抜いてしまえば良いのだが、動作確認の意味も兼ねて、我が家では点けっぱなしにしている。
『午後の取引の終値では、一ゴールド一九八マル台に留まり、前日に比べ……』
ステレオタイプの文言で為替レートの報告を終えると、キャスターは、続いて国政選挙についてのニュースを始めた。
硬直化する腐敗政治にメスを入れるというスローガンを掲げた新党に、若者や女性を中心に注目が集まっているらしい。あくまで、これはラジオ局が独自に調べたデータで、世論を的確に反映したものではなく、幾許かのバイアスが掛かっているのだろうけど、マイノリティーに贔屓したいという気持ちが、リスナー側にひしひしと伝わる内容だった。
きっと、街頭アンケートに答えた人物も、アンケートを行なった番組制作サイドも、なんなく現状に漠然とした閉塞感を覚えているのだろう。よくある事だ。
と、この時は、そんな月並みの感想しかいだかなかったのだが、後にして思えば、もう少し現状を重く捉え、よくよく考えておくべきだったかもしれない。
「パパ。ハリケーンがくるかもだから、らーゆがふるんだって」
「それは、雷雨のことかな? 辣油が降って来たら、ベッタベタになっちゃうよ」
「らいう?」
「雨と一緒に、雷が落ちてくることだよ」
「また、ゴロゴロドーンするの?」
「ハリケーンが上陸したら、するかもしれないね」
「えぇ~、いやだな~」
つらつらと考え事をする暇もなく、いつの間にか放送内容は気象予報へと移っていた。
深夜まで降り続くと聞いて、ミネは傘を持って出ただろうかと曖昧な記憶を辿りつつ、僕はエプロンを結び、夕食の支度を始めることにした。