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こぼれたミルク  作者: 若松ユウ
Ⅱ ボタンの掛け違え
13/67

012

 案の定というか、なんというか。

 生鮮食品や消耗品をカートに入れた後のこと。珍しくジャンクフードやソフトドリンクのコーナーを素通りしたので、一瞬、車内で話を聞いていたのかと思ったのだが、ミキの目的が別の場所にあっただけだった。


「パパ。これ、かって」

「お菓子は買わないよ」

「おかしじゃないもん。アイスだもん」


 ミキが向かった先は冷凍食品のコーナーで、両手で袋の両端を握りしめるように持っているのは、コーラ瓶型のビニル製容器に入った、チョコレート味のラクトアイスだ。ちなみに値段は、六十シルバー。

 ついでだから、ここで簡単に通貨について説明しておくと、この国では主軸通貨のゴールドと補助通貨のシルバーが使われている。一ゴールドは百シルバー。それから、僕の生まれた国ではマルという別の単位が使われていて、一ゴールドあたり何マルかは、日によって相場が変動している。最近は、一ゴールド二百マルくらいで落ち着いているけど、僕が留学して来た頃は、二百五十マル以上したと記憶している。

 

「アイスなんて食べたら、夕食(ディナー)が入らなくなるよ」

「ふたつあるから、いっこパパにあげる」

「そういう問題じゃなくてだね」

「おかいけいをべつにしたら、ママにはわかんないわ」


 やれやれ。自分の主張を通そうという場面になると、いつも以上に知恵が働くものだ。

 理論武装なんて、どこで覚えてきたのやら。


「ねっ? だから、かって。いいこにするから~」


 だったら、今すぐに聞き分けが良くなってもらいたいところだ。なんて言ったところで、皮肉が通じるとは思えない。参ったな。ミネは、こういう時に、どう対処してるんだろう?


「おねがい、パパ。これかってくれたら、キャラメルもドロップもいらないから」


 ミキは、今にも泣きそうな勢いだったので、他人が集まる前に白旗を揚げることにした。泣く子となんとやらには勝てない。


「わかったよ。今回だけだからね」

「わーい! ありがとう、パパ」


 袋をカートに入れると、ミキは僕の腰に横から抱きつき、嬉しそうに頬を脇腹に押し付けてきた。柔らかな頬の感触や体温がシャツ越しに伝わってきて、なんとも面映ゆい。アイス一つで、ここまで素直に喜びを顕わに出来るのも、子供のうちだけなんだろうな。


「さっ。とけないうちに、はやくレジにいこう、パパ」

「はいはい」

 

 ひとしきり喜んだ後、ミキはシャツのカフスを持ち、レジへと引っ張ろうとしたので、僕はカートを押し、キャッシャーと書かれた看板の下へと向かった。


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