010
庭で洗濯物を干していると、自転車に乗った局員が、我が家のポストに投函して行く音が聞こえたので、エプロンの端で水滴を拭いつつ、ポストへ向かった。
「なんだ。選挙のハガキと、候補者の公報か」
二通をエプロンのポケットに挿し込むと、僕は庭に戻り、籠に残っていたワイシャツを干してしまい、そのまま籠を持ってリビングへと戻った。
そして、それらをポケットから出してローテーブルに置き、ダイニングを抜けて脱衣所に籠を戻すと、キッチンでコーヒーメーカーをセットしてから、リビングのソファーに座る。
そして、ハガキは横に置いたまま、広報を斜め読みした。
別に、選挙に無関心な訳ではなく、さりとて、プラカードや横断幕を手にデモ行進するような活動家でもない。
ただ、僕はこの国で生まれた人間では無いから、地方選挙には投票権があっても、国政選挙には投票権が無く、今回は後者なので、ハガキはミネの分しか届いていない。
この実態について、積極的では無いにしろ、表立って反対運動をするつもりは無いので、消極的には国策を認めて、現状を受け入れていることになるのだろう。
「こうも違いがハッキリすると、自分が外様であると意識させられて、なんとなくスッキリしないんだよなぁ……」
モヤモヤとした気持ちをカフェインで吹き飛ばそうと、ソファーから立ち上がってキッチンへ向かう途中で、電話が鳴った。僕は、ダイニングへと踏み込みかけた足を引っ込め、電話台の上でベルを鳴らしているダイヤルフォンの受話器を取る。
「もしもし、セキ?」
「そうだよ、ミネ。どうしたの? ずいぶん疲れてそうだね」
「ちょいとプロジェクトが支障を来してて。で、今日も遅くなりそうだから」
「分かった。ミキは、僕が迎えに行くよ」
「ありがとう。それじゃあ、また」
「おつかれさま。またね」
通話が切れてから受話器を置き、僕は大きくため息を吐いてから、掛け時計を見上げた。鳩が五回飛び出して鳴く時間までは、まだまだ余裕がある。今のうちに、買い物リストを作っておこう。
「パンと、卵と、あと牛乳かな。洗剤やトイレットペーパーは、どうだったかな……」
メモにペンを走らせる。書き出してみると、買わなきゃいけない物や、買っておきたい物は結構ありそうだと分かる。
重い物や嵩張る物が多いから、車を出そう。十ゴールド以上買えば、最初の二時間まで駐車料金が無料だったはず。それで、あの傘を助手席に乗せていこう。