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第1話 剣は重くて恐ろしい

今作でイメージされる世界観はダークなソウルやデモンズなソウルを基にご想像ください。

主人公の思考と三人称と地の文が入り混じる構成ですので、読みにくいかもしれませんがご勘弁を……

 ある日のこと。


 スマホに怪しげなメールが届いた。


【件名:今の人生に満足していますか?】


 同時に、足元から魔法陣のようなものが出現した。


 驚きと困惑で固まっていると、落雷が直撃し

 明滅する視界の中で、暴走トラックが突進してくるのが見えた。








 



 神さまを名乗るような奴には出会わなかったけれど、流行りの異世界転生だとか言うヤツにしては、詰め込みすぎじゃないだろうか?


 普通どれか1つの筈だろ……

 ……いや異世界転生はフィクションの話であって、それ自体が既に普通じゃないんだろうけど



 何にせよ、魔法陣に包まれた時の肉体の消失感は気色悪いし、雷の直撃は今も激痛を残してる。


 眼前に迫るトラックの恐怖は拭えないし、そもそも俺は今の人生に満足してる(異世界転生したくない)







 一瞬の激痛と恐怖は幻像を残して目眩を起こしていた。

 冷や汗が噴き出て呼吸が落ち着かない。

 嗚咽と吐き気が頭痛と一緒に響く


 痛い


 気持ち悪い


 怖い


 吐きそうだ









「ああ、勇者さま!どうかこの国のため───」



 華美な装飾と優美な衣服に身を纏った女は、これが本当に異世界転生とやらの定番通りであれば、お姫様なんだろう。


 底冷えするような昏い瞳を狂気に輝かせながら、女は言葉を続けた。



「───速やかに死んでください」



 普通は「この国をお助けください」じゃないだろうか……



 女の隣にいた騎士が抜剣する。

 鈍色の刃は薄暗い室内でも恐ろしく、全身甲冑(フルアーマー)の隙間から覗く視線が、下卑た笑みを浮かべている。



 お姫様が腹黒で悪役だっていうのも偶に聞くけど、それにしたって召喚と同時に勇者を殺そうとするのは聞いたことがない。



「───残り8人」



 掲げた剣を振り下ろす騎士が、そんな事を呟いた。


 小さな呟きだというのに鮮明に聞こえる。


 いや、聞こえるだけじゃない、

 迫り来る剣の軌道が見える。

 周囲を取り囲む連中の隙間が分かる。


 どう動けばこの場を切り抜けられるかが、一瞬もしない間に頭に浮かぶ。






 死の間際だから?


 臨死体験で脳が活性化?


 疑問は浮かぶ。

 けれど直ぐに頭の隅に消えていく。



 “大丈夫                  ”

   眼前に迫る刃は、暴走トラックより怖くない


 気持ち悪いぐらい冷静に、身体はスムーズに動いた。


 上体を逸らし、頭の後ろで地面に手をついて支える。

 顔面は刃の軌道上を離れ、鼻先一寸の距離を素通りしていく。
















 ガギン


 と、鉄と石のぶつかり合う音。

 欠けた剣の破片が、足元に転がる。



「チィッ!」



 騎士の反応は素早かった。

 驚きに硬直したり、その隙に逃げ出す好機が来たりとか、そんな都合のいい展開は来なかった。


 返す刃が振り上げられる。


 執拗に頭を狙うその剣の側面を足で挟んで捻り、抑え込むように蹴って身体を起こす。

 勢いをそのままに、背後にいたもう1人の騎士を蹴り倒し、腰に刺した直剣を拝借する。



 鞘から抜き放たれた剣は、先ほどまで自分の命を奪おうとしていたものと全く同じで、当たり前と言えば当たり前なのだが聖剣の輝きも、魔剣の煌めきも持たないごく普通の剣だった。


 ズシリと鉄の重みが手に伝わる。

 剣の構え方など知らない。


 手にしたところで周囲を取り囲む20数人の騎士を斬り伏せられるとも思えない。



「隊形を崩すな!“想定より早かった”だけだ。計画に変更はない!」



 リーダー格だろうか、一際目立った甲冑の騎士が他の騎士を叱咤する。


 僅かにあった騎士たちの緊張と警戒が、鶴の一声で張り詰められる。



「……うわっ、なんだあれ」



 力なく横たわる人影が、積荷のように山を築いている。

 足下に感じる鉄臭いニチャニチャとした質感は、考えたくもないが、想像だに(かた)くない。



「貴様で10人目というだけだ」



 凛然とした態度で、隊長格の騎士が答える。

 その口調は、人を殺したそいつらがまるで正義だと錯覚してしまいそうな程に整然としていた。



「へえ、以外。答えてくれるんだ?」


「ここで死ぬ貴様に何を言おうと関係あるまい」


「じゃあ他の質問にも答えてくれるわけ?」


(たわ)けたことを」



 不思議と、こんな状況でも平然と口は回っている。

 だからと言って、なにか事態が好転する訳でもないのだが…………



「?」




 …………気のせいだろうか

 騎士隊長の視線は、しきりに動いている。

 まるで、正対する俺にだけ伝わるアイコンタクトのように…………




 ────目線が左を示す。


 姿勢を左に傾ける。

 ほんの一瞬の差で、剣閃がすり抜ける。



「他の者は姫の護衛に回れ!奴は私が斬る!!」



 なにかの指文字だろう。

 言葉とは別に、6つの形に指を動かし背後の騎士たちに指示を出している。


 騎士隊長の指示通り、他の騎士たちは女を囲むように隊列を変え、少しだけ空間が広くなる。



「我々の隙間を掻い潜られては困るのでな、これで貴様は薄汚い鼠のように逃げ回ることしか出来まい」



 騎士隊長が剣の握りを変える。

 刃の中程を掴んでいた片手も柄に添え、やや傾きのある上段のような構えへと



「事情も知らないまま死ねるかっての」



 ────目線が左下を示す。


 倒れるように頭を下げ、曲げた足腰をバネのように左前面へと転がる。

 2度、重い鉄の塊が振り抜かれる音が背筋をなぞる。


 詳しい背景は分からないが、どうにもこの騎士隊長は俺を生かそうとしているようだ。


 この男のアイコンタクトを読み間違えなければ、振られた剣の刃の錆になることはないだろう。

 ……まあそれも、ここまでの一連が全て仕込みでなければの話だが………




























「〰︎〰︎〰︎〰︎ッ何をもたついているの!たかが勇者に!!」



 騎士隊長と俺の茶番劇が都合20を超えた程度で、姫の癇癪が限界に達した。


 そりゃあ自分の護衛だろう騎士の、リーダー格が何処の馬の骨とも分からんような奴に一撃も入れられずにいるのを見てるだけだから、当たり前っちゃあ当たり前だろうけど……



 それにしても


 “たかが勇者”とか、

 “この国のため死んでください”とか、


 この女の言葉には逐一疑問符が浮かぶ。



聖剣の“開典”(レスキュラス)を許可します。この程度の段階で躓くなんて有り得ません」



 おっ、厨二ワードが出てきたな。レスキュラスって言葉の意味は分かんないけど騎士隊長の剣に目線が向いてるし封印解除とかそんな感じだろう。

 つーか、なんで日本語で喋ってんのにそこだけ違うんだ?ご都合主義ってヤツ?




「仰せのままに」



 逡巡すら見せず、騎士は腰に提げたもう一振りの剣に手を掛ける。

 鞘の装飾が柄へ伸びるように形を変える。



「金色の…目……?」



 その様を見せつけるように、騎士は両手で剣の両端を掴み引き抜いた。



「さらばだ。君には我々を恨む権利がある」


「は───ァ──────?」



 時間が引き伸ばされたような、迫り来る光の奔流は絶望的なまでの神々しさと質量を持って、瞬きの内に男へ幾回もの走馬灯を走らせた。


 あれだけ調子の良かった身体も、声も息すらも吹き飛ばされるような、置き去りにするような衝撃が、回避という当たり前の想定を嘲笑うかの如く騎士の正面に立つ尽くを灰燼に帰した。





「……ご苦労さまですアルトリウス。聖剣の余波でこの部屋はもう使い物になりませんから、以後の儀式はエネメスの塔で行います」


「畏まりました」



 いつの間にやら、騎士の手にあった聖剣は鞘に収められ、眩く放たれていた光輝は鳴りを潜めている。

 閉じられた荊のような装飾と共に、、、


(呼称不明):この国の姫さま。主人公の召喚に際して現場を取り仕切る責任者のような立ち位置だが、果たして……

最近の悩みはヒップがキツく感じること。気のせいだと思いたい。


アルトリウス:騎士隊長(?)。聖剣を所持している。主人公を殺さず生きながらえさせようとしているが、姫の支持に抵抗する素振りは一切なくどんな立ち位置のかは分からない。

最近の悩みは国の将来


(呼称不明):主人公。文明の歴史が好きな17歳。誕生日を目前にしてオタクが好きそうな展開に巻き込まれた事に辟易としている。自分をオタクじゃないと主張し嫌悪しているがどう違うのかと聞かれると詰まる。

目下の悩みは遊ぶ約束をしていた友人にどう連絡すればよいか

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