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9話 獣の習性は時に激しい

「じゃ、食事も済んだことだし、テディ、川ってどの方角?」

「あっちだよ。そんなに遠くないはず。」

「いいね、近いんだ。じゃあ、火を消して向かおうよ。汗かいただろうし、ちゃんと水浴びはしないとね。」

普通に、みんなで行く準備をしていると、マリスが声を上げた。

「ちょっと待て、テディも一緒に行くのか?」

「そうだよ?昨日もみんなで水浴びしたじゃん。」

「そ、そうかもしれぬが、いや、違う!昨日はテディは獣だったのだ!昨日とは違う!そもそも、カナメには恥じらいというものがないのか??」

失礼な。・・・いや、無いのかもしれない?というか、恥ずかしがってもたもたしているのが恥ずかしいと思っている俺としては、ちょっと考え方自体が違いそうだ。そういや、テディは今人型。挙句さっき襲われかけてたんだった。

「うっかりしてたわ。昨日もマリス恥ずかしそうだったもんねぇ。どうする?別々にする?」

皆に向けて聞いてみる。

「僕らは一緒でもいいけど・・・」

ミディはそういいつつ、テディを見る。あ、ミディでもそこはまずいと思っているんだ。

「俺は一緒がいいなぁ。カナメの体綺麗だし、また見たい。」

テディが想定外の発言をかました。いや、それはアウトでしょう。さすがにちょっと引いてしまった。

「それ見たことか!カナメは危機感も薄いのだ!今日から男女別なのだ!テディ、ミディ、行くのだ!」

マリスが、憤慨したように、二人を引っ張っていく。引っ張られてはいるが、ミディも大きくうなずき、そこは同感のようだった。マリスがなぜそんなに怒っているのかはちょっとわからないが、俺が気にしなさすぎではあるような気もする。

「リリィはどう思う?」

なんとなく、聞いてみた。

「やっぱり、もう少し気にした方がいいと思うの。」

「そうかぁ。まあ、リリィが大きくなったら、別のがいいかなとは思っていたんだよ?」

自分でも言い訳がましいとは思うんだが。

「それを思っていて、何で自分の場合を考えないの?テディは人の姿になったけど、文字通り獣だと思った方がいいと思うの。」

思ったよりも大人なことを言う。

「リリィ急に冷たいーーていうか、本当に俺のこと好きとか、信じられないんだけど・・・というか、大していい体でもないし、見ても仕方ないと思うけどなぁ。」

「そういう問題じゃないと思うの・・・かな姉は、自分を過小評価しすぎじゃないかなぁ?」

この問題に関しては平行線だな。俺は根本的な考えがどうしてもちょっとずれている気はするが、それを直す気はさらさらないのだ。そういや、なんか、綺麗とか言ってたな・・・どこが・・・?うん、テディに対してはちょっと気を付けておこうかな。

「ねえ、俺の顔って、普通以下だよね?不細工の分類だと思うんだけど・・・」

「そんなことないと思うの。かな姉は美人だよ!」

マジかぁ・・・まさか、美醜の基準が違うのか?そういや、盗賊のやつらも終始にやにやしていたな。あと、ギルドでも耳を疑ったこと言っていたような・・・アイテムボックスから鞄を、鞄から鏡を取り出し、顔をまじまじと見る。見慣れたいつもの俺の顔だ。美人になっていたりなどない。まさか、今俺が見ている顔と、みんなに見えている顔が違うとか言わないよなぁ?

「何それ!!顔が映るの?」

あ、そういえば使ったことなかったな。

「これ?鏡っていうんだけど。水に顔が映るみたいな感じで、はっきり映るだろ?」

「へぇー初めて見た。王様のところにはあるらしいって聞いたことがあるけど、かな姉ってすごい人?」

「いや、俺の世界では当たり前に持っているようなものだよ。鏡って高級品なんだ。制服だけじゃなくて、こういうのも売ったら良かったかもな。もう売る必要ないけど。」

盗賊からかっぱらったのはお金もたくさんだったし、頭の持っていたものは多分相当なものだ。セーラー服も売らなければよかったか?いや、正直あれは必要ない。今は理想のパンツスタイルだし、全く問題ないな。しかも、コスプレをしているのに、むしろこっちが普通とか、最高としか言えない。本来銃刀法違反のサバイバルナイフ、装備していてもおかしくないし、もっと長い剣が持てる。振るうことが出来る!

悦に入っていると、マリスが怒鳴っている声が聞こえる。

「テディ!服を着ろ!!その格好でそっちに戻るな!!」

「カーナメーー!!」

テディの俺を呼ぶ声も聞こえる。これは、振り返らない方が賢明だろうか。

少し悩んでいると、背中に結構な衝撃が来た。

「カナメ、カナメ、カナメぇ!子作りしよう!」

テディが勢いよく抱き着いてきた衝撃だった。力強く抱きしめられている。衝撃的な発言とお尻に当たる硬い感触に少し固まる。え?なんで急に?さっきまでそんな素振りなかったじゃない?!

「カナメ!殴り飛ばせ!!」

マリスが叫ぶ。その言葉に固まった体が動き俺は反射的に、テディの顔を思いきりはたいた。

「ぶへぇ!」

変な声を上げで吹き飛ぶテディ。あ、やりすぎた気がする。

「カナメ!大丈夫か?」

「うん、びっくりしたけど、とりあえずテディのほうが心配かな。」

「失念していたのだ。キラーベアーは満月の夜に発情するのだ。」

「ええ?マジで?さっきまで平気だったじゃん。」

「どうも、月が見えていなければ大丈夫らしい。さっきまで雲で隠れていた月が出てきたとたん、走り出したのだ。」

「そうなんだ。じゃあ、満月の夜は隔離しなきゃだね。」

そんな生体なのか。動物だから春だけってわけじゃないんだな…様子を見にテディの方へ行くと、テディは気絶していた。アイテムボックスから縄を出し、ぐるぐる巻いておく。

「じゃあ、とりあえずテディのこと頼んだよ。なんかあっても、無理に止めようとするなよ。力の差がありすぎるんだから。」

「わかったのだ。出来るだけ見張っておくのだ。」

テディをマリスに託して、リリィを連れて川へ向かった。月が出てきていて、思ったよりも明るい。しかしびっくりしたな、種族ごとにああいったことがあるってことか。まあ、そうめったに惚れられることもないと…思いたい。

早々に洗って、戻ろうと思った矢先に、何かの気配がした。

「カナメーーーー!!」

「うわぁ!テディ!?縄抜けてきたのか!」

反射的に今度は逆の頬を張り倒す。ちょっと加減をしてしまったのか、今度は気絶まではしなかった。

両頬が結構晴れている。そんな状態で、まだこちらに向かってくるようだ。落ち着いてみていると、目の色が違う。正気を失っているようにも見えた。下の方は・・・まあ、見ないようにして、あ、これがバーサク状態ってやつか?こういう時に出るもの!?そういえば、俺を抱きしめる力とか、戦った時よりも強くなっていたような・・・?

「発情期ってこんなんになるの?こわぁ。りりィ、とりあえずマリス達のとこ行・・・」

「カナメ!大丈夫か!?」

縄を持ってこちらに来るマリス。

「マリス。来ちゃったか。ちょっと危なそうだから、リリィ連れてあっち戻っといて。」

遠巻きに指示しようとしたが、マリスが早々に俺に近づく。その瞬間、テディがマリスに対して動いた。

「カナメ俺の!近づくな!」

うわマジか!危ない!!

とっさにマリスを抱えてかばう。背に軽い痛みが走った。テディに引っかかれたらしい。

「きゃあぁぁぁ!かな姉ぇぇぇ!!」

「カナメ!俺以外のやつに抱き着くな!!」

りりィが悲鳴を上げ、テディが咆哮する。りりィの反応、もしかして、痛いと思うってことは結構な傷か。テディのやつ、マリスを殺す気か。

マリスをりりィの方へ突き飛ばし、テディに対峙する。

「テディ、ちょっとおいたが過ぎるなぁぁぁ???」

威圧発動、ゆっくりとテディに近づく。ちょっと怒っているから、威圧もいつもの倍効果があるはず。

実際、正気を失っていたはずのテディが、それに怯んだ。グルグルと威嚇をしながら、距離をとる。

「お仕置き。」

そういって瞬時に距離を詰めると、思いっきり力を込めてテディの額にデコピンを決めた。

テディは木を薙ぎ倒しながら吹っ飛んで見えなくなった。

「マリス、ケガはない?」

「だ、大丈夫なのだ。そ、それよりも早く服を着るのだ!」

マリスはこちらを見ないように抗議してくる。

「かな姉!それよりも背中の傷・・・!かなりひどいよ!?」

ああ、そういやそうだった。あまり気にしていなかった。ヒールを掛け、服を着て、マリス達を連れてミディのところに戻った。

「かな姉!大丈夫だった??テディが縄を引きちぎっちゃって・・・」

ミディが心配そうに近づいてくる。

「とりあえず、朝までは気絶してるんじゃないかなぁ?」

朝になったら様子を見に行こう。

キラーベアーの交配ってあんなに激しいのか?ありゃ、ライバルと戦って血だらけでとか、ありそう。なんだったら雌とも戦って認めさせてからとかもありそうだなーーまさに野生の行為だな。

これからどうするかなぁ。テディと話をしてみないと。バーサク状態は制御することが出来るようになれば力とかも上がるみたいだし、便利そうなんだけどなぁ。

「とりあえず寝ようか。」

順調かと思いきや、バタバタした日だったなぁ今日は。


朝になって、一人起きた俺はテディの様子を見に行くことにした。

昨日の場所に行くと、吹き飛ばしたその場所にテディはいた。なんだか丸まっている。

「テディ、起きてる?ちょっと強くしすぎたけど、大丈夫か?」

声を掛けると、テディはガバッと起き上がり、こちらを見た。うわ、すごい泣いてる。

「カナメ、ごめん!あんな、襲うつもりなんてなかったんだ・・・でも、満月見たら、カナメのことしか考えられなくなっちゃって・・・しかも、カナメに傷まで・・・本当に・・・うう、ぐずっ・・・」

また泣き出すテディ。とても痛々しい。襲われたのは俺なのに、傷ついているのはテディの方だな。

「昨日は正気を失っていたねぇ。今までああいうことはあったの?」

昨日の攻防でドロドロだったので、川の方へ誘導しつつ、聞いてみる。テディは泣きながらも従い、トボトボ歩いた。

「発情期はずっとあったけど、適当に自分でしてなんてことなかったんだ。仲間が発情期で争ってるのは見てたけど、俺にとっては他人ごとだった。実は俺、誰かを好きになったの初めてで、こういうことだったんだ。こんなに、自制が効かないとは思わなかったよ・・・マリスにも悪いことしちゃった。本当にごめんなさい。」

べそべそ泣いているが、はっきりとした口調で話すテディ。昨日の状態は相当ショックだったのだろう。なかなか泣き止まない。川について体を洗ってやる。でっかい子供みたいだ。

「傷は治したし、今これだけ落ち着いているのだから問題は無いと思うよ。いつまでもべそかいてたってしんどいだろ?いい加減泣き止め。」

洗い終わってから頭を撫でてやる。テディはうなずいて、目をこすった。

「服あるからちゃんと着て。戻ったら皆に誤ってそれで終わり。今後だけど、満月の夜は荷台に乗って月を見なければ問題ない?」

「うん。多分それで大丈夫だと思う。」

川から上がって、服が濡れたので乾燥の呪文を唱える。テディは上がって水気を飛ばすと、もそもそと着替えた。

あ、そういえば、好きって言われてスルーしてしまったな・・・まあいいか。

「カナメ、カナメは俺のことどう思ってる?」

おう、聞かれてしまった。どう答えたものやら・・・

「こないだも言ったけど、テディのことは嫌いじゃないよ?でも、子供作りたい好きとはちょっと違うかな。というか、俺この世界に来てまだ数日だし、恋愛をしている暇がないっていうか、それよりも気になることがあるっていうか、とにかく、今直ぐどうこうはちょっと難しいかな。ごめんね。」

「そっか。嫌われてなくてよかった。それに、全くダメってわけじゃないんだね?じゃあ、俺にもちょっとはチャンスあるかな!」

そういうと、テディは少し浮上したようだった。ポジティブだなぁ。というか、嫌われてしまったと思ってたのかな。それなら、浮上の意味もちょっと変わるか。

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