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6話 荷車ゲット!

泣きじゃくるりりィと、それにオロオロする俺と熊。

「いや、丁度こいつがじゃれて頭咥えるところにりりィが出てきて、勘違いしちゃったみたいな?誤解は解けたんだけど、どうしたらいい?」

困り顔で問うてみたが、ミディはそんなことはお構いなしに熊に羨望の瞳を送っている。

「かな姉、そいつ懐かせちゃったの?すごいね!え?隷属の術も使ってないの!?魔獣って懐くの!?」

興奮しきりに、熊の周りをグルグルするミディ。熊が目を回している・・・?

「ミディ、興奮してるのはわかるが、回るのはやめてやれ。しかし、お前賢いな。俺の仲間だってわかったのか?」

熊を撫でてやりながら声を掛けると、マリスが口を開いた。

「この魔獣は知能が高くて、主と認めればその意図さえ組む。言葉もわかっているのだ。」

「お、マリス。荷物は収納できたか?」 

マリスに気付いて声を掛けると、マリスは胸を張った。

「もちろんなのだ。そ奴らと多少もめたが、大事無いのだ。でも、びっくりしたのだ。そ奴らが急に入ってきて、魔族と見るや剣を構えて、ちょっと怖かったのだ・・・」

軽く落ち込むマリスを見て、ミディが慌てた。

「だ、だって魔族は怖いって聞いてたから、びっくりして。でも、様子が違ったし、かな姉が助けてくれたっていうから剣はすぐ下したよ??」

そうか。状況はよくわかった。

「じゃあ、改めて、マリスは俺が助けてその礼に、無限のアイテムボックスを貸してくれることになった。これから一緒に旅をすることになる。りりィとミディは、俺が奴隷商から買ったが、奴隷のつもりはない。仲間だ。んで、ここの熊は戦っているうちに、隷属契約を解いてやったら懐いた。ついてきたいというので連れていく。みんな、仲良くするように。」

「よろしくなの」

「よろしくな!」

「よろしくなのだ!」

「がうっ」

しかし、すごく短期間に仲間が4人、三人と一匹?大所帯になってしまう予感がするなぁ・・・ん?あんまり見ないようにしていたけど、盗賊の頭が死んだところ、なんかいっぱいあるな。

「あれ?なんであんなにあそこ散らかっているんだ?」

「あれは、あの者のアイテムボックスに入っていたものなのだ。死んだから散らばったのではないか?」

口にした疑問に、マリスが答えてくれる。アイテムボックスの中身って、死んだら出るのか・・・

ちょっと嫌だけど、あの辺も物色してみるか。大事なものとか、持ってそうだし。

近づいてみると、多量の金貨があふれている箱と、大きな箱があった。大きな箱を開けると、金銀財宝と呼ばれる類のアイテムが詰まっている。ということは、あの倉庫には大したものはないのか。

「なるほど。大事なものはアイテムボックスに入れておくのか。本人が出すか、殺さないとアイテムが手に入らない?んーーーそれは、ちょっとやだなぁ・・・」

懐を探っても、少量のアイテムしか手に入らないということだ。まあ、金銀財宝集めるようなつもりはないし、旅の資金だけあればいいか。

そう思うと、何も考えずに入れてしまった奥のガラクタが、邪魔になるような気がしてきた。

ん~~どうしたもんかなぁ。やっぱここで選別していくか?あ、地図っぽいのがある。

「マリス、ちょっとこっち来て。」

マリスが近づいてくる。あ、そういえば、子供にこの惨状は・・・

「どうしたのだ?」

全く平気そうに、マリスは傍まで来た。

「実は、この世界のこと、あんまり知らないんだよ。ここに散らばってるアイテムで、使えそうなものを選んでもらっていい?」

人任せで情けないが、聞いてみた。

「任せろ!人とは違って、このなりでも100過ぎてるのだ。それなりに知識はあるのだ!」

えええ!!そうか、さすが魔族。まさかのご年配。

「じゃあ、どういう感じで見た目も成長するの?」

ものすごくゆっくりと背が伸びるのだろうか・・・?だとしたら、200歳300歳にならないと大人にならないのだろうか??ものすごく興味がある。

「我々魔族、それと、獣人や魔獣なんかもだが、レベルが大きく関係しているのだ。最近知ったのだが、父上は小さいものが好きで我のレベルを上げないようにしていたようなのだ。同年代に比べてあまりにも成長しないから、問いただしてみたらそういうことだったのだ。その手の勉強も避けられていたようだし、つい怒って城を飛び出してきたのだ。本当は、レベルを上げるために、城を出てきたのだ。」

ああ、それで。見た目に合った幼さだとは思ったが、甘やかされて育ったということか。

説明しながらもアイテムの物色はしてくれている。最初の印象とは違い、処理能力は高そうだ。

「じゃあ、レベルが上がれば、一気に成長するんだ。すごいね。人とは全然違うんだね。レベルを上げるのって、どどうすればいいの?」

手渡されるアイテムをボックスに収納しつつ、聞いてみる。

「レベルは、戦闘で上がるのだ。我は、戦闘をしたことがない。だから、一番幼い、人で言うところの6,7歳くらいの見た目で止まっているのだ。10ずつしか違わない兄上たちはとっくに見た目も大人だというのに、問いただすまで全く気付かなかったのだ・・・」

親ばかというか、なんというか、魔族ってもっと殺伐としているんだと思っていたけど・・・

魔王の子供という立場で、話しぶりから末っ子?っぽいけど、レベルを上げないようにするとかするんだな。

しかし、本当に平気そうだな。

「こういうの見たことはあるの?相当グロイと思うんだけど、平気そうだね。」

マリスは、何のことはないという顔で、物色を続ける。

「あるぞ。参加はしていないが、親衛隊長についていって、戦闘の見学はいつもしていたのだ。」

どういったものかはわからないが、こういうものが平気になるような戦闘だったのだろう。

しかし、見ているだけではレベルは上がらないということか・・・

今後、りりィ達にも参加させてやらないと、身を守るにはレベル上げが一番だ。

物色が終わり、この場を離れる。

「要、こ奴らは殺さないのか?」

残りの盗賊を指さし、マリスが聞いてきた。

確かに、アイテムを根こそぎ取ろうと思えば、殺すのが一番だろう。

「いや、頭が殺されたのは不可抗力だ。基本、殺したくはないな。」

正直、熊のことを止めようと思えば止められた。課題だと思った対応の遅れは、感覚的に守る対象としていなかったから。多分、リリィたちが目の届く範囲で危なくなった場合、動けるはずだ。

「アイテムのこともそうだが、こ奴らは盗賊だ。また、悪行を繰り返すのだ。放っといていいのか?」

一応、ふんじばってある旨を近くのあの町に報告をする気ではいた。

そうすれば、いいようにしてくれるだろう。

殺すのは簡単だが、元の世界では殺しはご法度だった。俺も、出来ればしたくはない。

「俺は異世界から来たんだ。その世界では殺しは大罪だったし、日常で殺しがあるようなことはほとんどない。人がこんな風に死ぬところは、初めて見たんだ。正直、自分で殺すとか、考えられない。でも、この世界に来た以上、俺が手を下さないといけない場面は・・・・・・そう遠くない時にあるんだろうけど、今は考えたくないな。」

しんみりと説明をする俺に、マリスは顔を輝かせた。ん?なんで?

「カナメは異世界から来たのか!?」

あ、そういうこと。

「ということは、カナメは勇者なのか??」

え?そんな嬉しそうに。魔王と勇者って敵なんじゃ?

「勇者の物語って魔族にもあるの?」

ミディが言っていた絵本のようなものがあるのだろうか。

「あるのだ!魔族は倒される側だから、教育本としてあるのだ!でも、勇者ってカッコいいのだ!まあ、倒されるような父上ではないがな!!」

何やら誇らしげだ。その信用があるから、単純なヒーローとして憧れられたのか。

「へぇーそんなものなのかな?あ、俺は勇者じゃないと思うよ?じゃなきゃマリスを仲間にって言わないよ。」

本当の勇者でも、あの状態の子供を放ってはおかないとは思うが。

「そうなのか?じゃあ、勇者じゃなくてよかったのだ。」

「まあ、勇者でも仲間にしてたかもだけど。」

「そうなのか?じゃあどっちでもいいのだ。」

「いいんだね。マリスもなかなかに柔軟だねぇ。」

一瞬まずいかと思ったが、ほのぼのとする雰囲気で俺は安心した。

「さて、荷物の整理をしてしまうから、リリィとミディも手伝ってくれ。」

財宝と呼べるものは手に入った。であれば、ガラクタに分類されるものは置いていった方がいい。

「マリス、すまないが、収納したものをもう一度出してくれないか?」

費用が潤沢になるようにと、何でも持っていこうと思っていたが、頭の所持品が手に入った今となってはガラクタだ。

面倒な作業だが、荷物整理は大事だしな。

「そういえばりりィやミディはアイテムボックスは使えるの?」

当たり前に使えるようだし、マリスを送った後でも使えるとしたら便利だ。

「ごめんなさい。私のは、小さめの鞄くらいにしかならないの・・・」

りりィが落ち込んでしまった。

「僕は、大きいリュックくらい。」

ミディも申し訳なさそうだ。

「そっかぁ、別に、それでも入れらるものはあるだろうし、気にしなくていいよ。」

頭を撫でながらそう言うと、二人ともほっとしたような顔になった。

気を取り直して、荷物整理を開始する。

「かな姉、武器もいろいろあるし、服もあるよ!」

りりィがはしゃぐ。

「かな姉、これって今後便利じゃない??」

ミディはキャンプセットのようなものを手に、聞いてきた。たしかにそれは、野宿の時とか便利そうだ。

「わからないアイテムは我に任せるのだ!」

みんなで作業して、たくさんあったものの仕分けは完了した。

りりィは長さのちょうどよさそうな剣と、アイアンクロウを見つけて装備した。

ミディは剣と弓を選んだ。

マリスは剣二本選んで、腰の両側にさしていた。マリスは二刀流なのかな?

俺も、手ごろな剣があった。基本は素手で行くつもりだ。剣を使ってみても、剣の達人相手なんかには通用しないだろうし、適当にガードができるくらいには役に立たないだろうかというチョイスだ。しかし、剣なんか扱ったことないから、練習もしないとな。

そのほか、装備品も充実したものになった。

りりィやミディは、最初に買ってあげた服に、軽鎧の肩、胸当てがあったし、俺も動きやすさ重視で部分的な防具を手に入れた。

そういえば、マリスの格好は、なかなかにひどい・・・

「マリス、良さそうな服は無かった?」

物色している間も、これといって選んではなさそうだった。

「我は、この装備でいいのだ。動きやすいし、あったかいのだ。」

そういうが、ボロ雑巾のように汚れているし、顔や頭もドロドロだ。

「近くに、水辺は無いかなぁ?正直、その状態は良いとは言えないよ。」

衛生面の問題だ。病気になってしまいそうだ。

「水なら、この近くに川があったぞ。連れてこられるときに見たのだ。」

それならば、さっさと切り上げて水浴びをしよう。

熊も洗ってやりたいし。

「あ、熊の名前どうしようかなぁ?」

いつまでも熊じゃ味気ない。

「グル?」

熊は首を傾げてこちらを見た。物色には、戦力外だから、暇そうにしていたが、こちらの会話は聞こえているようだ。

「あ、はいはい!私たちと同じように、テディがいいと思うの!」

りりィが元気に提案をしてくる。

「僕もいいと思う!兄弟って感じするね!」

ミディも賛成のようだ。しかしテディとは。元の世界で熊といえば、テディベアだったが、こちらにもあるのだろうか。

「じゃあ、テディにしようか!テディ、お前の名前は今からテディだ。仲良くしようぜ!」

テディのところに行って、頭を撫でてやる。心成しか嬉しそうだ。

選別もそこそこに、早速川へと向かった。

「おお、きれいな川だねぇ。」

さすが、自然の川だ。俺の住んでいたところでは、ほとんど見ることが出来ない。

「よし入ろう。マリス、おいで。」

マリスを呼ぶと、なんだか遠巻きにしていた。

「わ、我は良いのだ。このままで。」

犬猫じゃあるまいし、水が嫌いなのだろうか?

「だめ!ドロドロじゃないか!俺がしてあげるから。」

そう言って半ば強引にマリスの服を脱がした。その拍子に、ぼろぼろと汚れが落ちる。

「うわ、すごいな。どのくらい水に入ってないのさ。」

服を脱がされて恥ずかしそうにしているマリスにそう言うと、少しすねたような仕種をした。

「別に、死ぬわけじゃないのだ。」

そりゃそうだけど。

「汚いのが原因で、病気になることもあるんだよ?ある程度はキレイにしておかないと。」

そういいつつ、俺も装備を外して脱いだ。

「え、まっ、カナメも脱ぐのか!?」

何故か、マリスが慌てる。

「だって濡れるじゃん。まあ、洗って乾かすんだけど。一応着替えもあるし問題ないでしょ。」

言いつつ全部脱ぐ。ボックスの中から、先ほど見つけた布を取り出す。ボディタオル変わりだ。

「だ、だからと言って、いい歳の女が・・・」

マリスが何か言っているが、気にせず川に連れて入った。川に入っただけで、汚れが水に溶ける。

「うわーすごいねーー」

タオルでゴシゴシこすればこすっただけ、汚れが落ちていく。

「おお、マリスって色白いんだね。顔も、かなりの美男子だねぇ。」

にこにことほほえましく、洗ってやった。しかし、マリスはこちらを見ようとしない。

因みに、りりィやミディも裸で川で遊んでいた。テディも一緒だ。

マリスをゴシゴシと頭まで洗ってやると、なんと髪はキレイな青だった。

「おお、この髪すごいきれいだな!さっきまで色もよくわからなかったからなぁ。よし、きれいになった。遊んでていいぞ?」

布を軽く水洗いし、今度はテディだ。あの毛並みはキレイにしたらとてもふわふわになりそうだ。

マリスを置いて、テディのほうに向かう。大きなテディを洗うのは骨が折れたが、何とかきれいになった。

適当な服を着て、さっきまで来ていた服も全部洗う。ふう、なかなかの重労働だ。洗濯機が欲しい。

マリスはあの後、リリィやミディに捕まって、楽しそうに水遊びをしていた。

様子がおかしかったので、ひとまずほっとした。やはり、いくら100歳とはいえ、見た目は子供なのだから母親の気分…あ、様子がおかしかったのはそういうことか。いくら子供のような見た目とはいえ、兄弟は大人の姿だろうし、少なからず異性への関心もあるということか。

でも、今後川で水浴びなんか日常になるだろうし、子供相手にしている気にしかならないし、マリスには慣れてもらおう。

ひとまず、ほほえましい光景を見ながら、マリスには悪いが俺は考えないことにした。

濡れた服を、木に渡したロープにひっかけていると、視界に何かが見えた。

気になって近づいてみると、そういえばトルノさんに見せてもらうの忘れていたな。荷車がたくさん、放置されていた。

多分、金貨5枚のものとは比べ物にならないような、立派な荷車ばかりだ。

「まじかーー車ごと盗ってたんだなぁ。てか、これって目立たないのか?よく今までアジトが見つからなかったな。」

そう独り言を言いつつ、どれにしようかと悩む。

正直、テディもマリスもいるし、町のほうに戻るのはちょっとと思っていたのだ。

盗賊って、ある意味何でも持っているなぁ。まあ、当分は必要ないけど、またお金に困ったら盗賊探してもいいかもなぁ。というか、今後お金って必要になるんだろうか?てか、俺は、これからどうするつもりだっけ?なんとなくで町に行って、ついりりィ達をを買ってしまって、旅をするのに車がいるからってお金がいるって盗賊襲いに来て、一人殺しちゃったのはちょっと、かなり想定外だったけど、まあ、マリスとテディに会えたのはよかったと思うし、やっぱり車いるなぁって思っているところに、この巡り合わせ。うん、順調すぎてかなり怖いわ。

見て回っていると、十数人は乗れそうな大きな馬車もあった。でも、このサイズは、魔獣二体はいるかなぁ?というか、テディは荷車引いてくれないかなぁ?嫌がったらできないけど、テディも乗れるのって、あのデカいやつしかないな。

「カナメ!!いたのだ。どこに行っていたのかと思ったのだ!なんだここは?荷車がいっぱいあるのだ。」

川から上がって服を着たらしいマリスが、息を切らせて出てきた。

そんな遠くないから気にしていなかったが、不安にさせてしまったらしい。

「マリス。ごめんごめん、ちょっと見つけちゃって、どれを持っていこうかなぁって。」

それにしても、きれいになって服をきちんと着れば、マリスは美少年に分類されるほどキレイな少年だった。

これは、大きくなったらまた綺麗になるんだろうなぁ。

「荷車を見つけたのは良いんだけど、これを引く魔獣がちょっと難しいよねーー」

考えていることを言うと、マリスは事も無げに、

「そんなもの、テディに引かせればいいのだ。カナメの頼みなら、喜んで従うと思うぞ。」

そうなのか。確かに結構懐いてくれているとは思っていたが、辛くは無いのだろうか。

「テディ、嫌って思わないかな?」

心配を聞いてみた。魔族で、知識も豊富だから、その辺マリスは頼りになりそうだ。

「カナメは優しいな。嫌がっても無理やりするのが普通だ。それに、隷属の契約もしていないようだし、しないのか?あの魔獣はとりわけ力の強いタイプだから、流通してるような魔獣が2体いるような荷車でも平気で引くぞ。」

「あ、隷属!忘れてた!せっかく使えるようになったのに!」

急に大声を出してびっくりしたマリスを置いて、俺は川のほうに戻った。

すると丁度、リリィやミディ、テディが川から出て、テディが全身震わせて水を飛ばしているところだった。

「リリィ、ミディ、ちょっとおいで。」

呼びかけると、二人も全身を震わせて水を落としてから近寄ってきた。

「丁度良かった。服着る前のほうがいいかな。かの者を隷属から解き放ち、自由となれ。」

二人の首輪が光って取れる。見るからに邪魔そうだったし、奴隷感があって嫌だったのだ。一人で満足そうに微笑んでいると、二人の様子はちょっと違った。

「え、かな姉、私たち必要なくなったの?」

「かな姉、やだよ。捨てないで…!」

二人が涙目で必死に抱き着いてくる。え?ダメだった??

「え?なんで?捨てたりしないよ。だってこれ邪魔でしょう?嫌じゃなかったの?」

慌てて訂正すると、二人はほっとした顔をして、でも、ちょっと不安そうにした。

「奴隷の首輪は、所有者がいる証でもあるの。これがないと、誰の所有もない獣人だと思われるかも・・・」

「確かに、邪魔な時もあるけど、ある意味安心もしてたんだ。急に外すからびっくりしたよ。」

そうか、そんな理由もあるのか・・・ただ嫌だろうって、外してやらなきゃって思っていた。

「隷属って、嫌っていうだけじゃないんだねぇ。」

「どちらにしても、ご主人様によるかなぁ。基本は、嫌で仕方がないものだと思うよ。」

ミディが苦笑する。そりゃそうだ。町には、幸せそうな奴隷など見かけなかった。しかし、どうしようか。また首輪をつけるのは、なんだか嫌だ。

「あ、そうか。人の町に行かなきゃいいんじゃないの?それなら、奴隷でないことなんか気にならないよ!」

名案とばかりに俺は手を打った。そういえば、二人はまだ裸だ。

「とりあえず服を着て。当初の予定だと町に戻るつもりだったけど、マリスって、人にはどう思われるかな?」

ミディの最初の対応が気になる。まずいのではないかと思った。

「マリスは、町に行くのはダメだと思う。魔族って人の敵で、僕ら獣人も、魔族に属するとして、扱いが悪いんだ。マリスは強くはないかもしれないけど、連れてるってだけでかな姉も捕まっちゃうと思う。」

一緒にいるだけで犯罪者のレベルか。ということは、やっぱり人の町に行くのは今後無理だな。

「やっぱりそうか。逆にちょうどいいよ。俺が人であることが問題になる可能性もあるけど、逆に、マリスがいるから人以外のほうがうまく行くと思わないか?」

マリスたちが後ろ指さされるより、俺が後ろ指さされた方が気も楽だ。

「カナメ、お前は、すごい決断をするのだな。」

急にマリスの声が聞こえた。あれ、いつの間に。

「ま、どうせマリスを魔王城まで送り届けなきゃいけないし!」

最初にした約束を口にする。

「「えええええええ!?」」

二人がびっくりしている。

「あれ?言ってなかったっけ?」

というか、そんなにびっくりすることなのか?

「魔王城って、すんごい遠くにあるらしいの!」

「魔王城の周りは、とんでもなく強い魔物がうようよいるって!」

「ああ、確かにいるな。」

きゃあきゃあ訴えてくる二人に、マリスが同意する。って、マリスって弱いんじゃなかったっけ?

「え?マリス、そいつら倒してここまで来たの?その割にはレベルが上がっているようには…」

あ、気に障るいい方しちゃったかも。

「いや、倉庫から転移の魔法のオーブを盗んで、人の町の近くまで飛んだのだ。城の周りの魔獣たちは、話も聞かないし、強いから、その、怖くて・・・この辺なら、レベルも低くて倒せそうなのがいると、本で読んだのだ。」

良かった。気にしてないみたい。なるほど。転移の魔法ね。

「って、そんなのがあるなら、それで帰ればいいんじゃない?」

捕まる必要もなかったはずだ。

「転移して、スライム数匹倒して休んでいるところに、盗賊共の襲撃を受けたのだ。びっくりして、手に持っていた水晶を落として割ってしまって…呆然としているところを普通に捕まったのだ。」

ドジっ子か。ちょっと可愛いと思ってしまうが、ほのぼのとした内容ではない。

ドジ一つで命すら危うくなる世界。俺も他人ごとではない。

「そうだったんだ。大変だったね。とりあえず、レベルを上げながら魔王城に向かうということで、いいかな?」

レベル上げは、マリスのみならず、リリィやミディにも必要だ。

「後、テディには、荷車を引いてほしいんだけど、出来るかな?」

テディに話しかけると、

「グル!」

任せろとでも言いたげに返事をした。頼もしい限りだ。

「じゃあ、まず、荷車を取りに行こうか。もう目星はつけてあるんだ。」

そういって、テディを連れて荷車置き場?へと向かう。

「じゃあテディ、多分これから大所帯になるから、この大きいのを引いてほしいんだ。頼めるかな?」

「グオヲヲヲヲヲヲヲヲ!!!」

テディが気合を入れるように吠える!が、いそいそと普通に荷車を引く棒を咥える。何やら誇らしそうにしているが、

「吠える意味あった?」

つい聞いてしまった。まあ、いいか。テディは変わらず誇らしげだ。

テディの収まりもいいようだし、皆の元へ戻った。

「わぁ、テディ、ちゃんと荷車引いてるねー!」

「テディ、カッコいいのー」

りりィとミディがテディを囲んでほめている。テディも嬉しそうだ。

俺は徐に、枯れ木を集めだした。

「カナメ、何をしているんだ?」

「のろしを上げようと思って。町に寄ることは難しいし、かといって伝える手段もないし。」

電話があればいいのだが、この世界にはなさそうだし。

火が燃え移りにくそうなところを選んで、枯れ枝を組んでいく。

キャンプセットに入っていた火打石で火をつける。容易に火が付き、煙が立ち始めた。

火つけって、もっと難しいものだと思っていたが…まあいいか。

町の人が来る前に動かなければならない。

テディの引く車に皆で乗り込む。

俺は御者台で、テディに声を掛けた。

「さあ、出発しようか。テディ、お前の知っている、人以外の町か何かへ向かってくれないか?」

「グオ!」

返事をするように一声鳴くと、テディは力強く荷車を引き始めた。

どこに向かうかはテディ次第。その町にいる人?獣?が最初から敵対していませんように。

その願いは、微妙に叶うのだった。

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