5話 資金繰りのため盗賊狩り!魔獣と魔族がいたよ。
「かな姉、これからどうするの?」
りりィが不安そうに聞いてくる。俺の秘策がギルドだと思ったようだ。
「かな姉、さっき何したの!?」
ミディはちょっと違うところで疑問に思ったようだ。さっきの覇気の件かな。
「んーーー実は転生してこことは違う世界から来たんだよね。言ってもわからないかもだけど。んで、人とは違う能力を持ってるっぽいねーー。一回見た能力何でも使えるみたいな。さっきのは覇気っていうか、無言で脅したっていうか、身体能力もだけど、これはもともとあったっぽいなぁ。」
説明をしている間に、二人の眼がキラキラと輝きだす。
「そうなんだ?!かな姉勇者様?!」
ミディがワクワクして尻尾を振り回しながら聞いてくる。
「勇者?」
勇者、そんなものにはなりたくないな。
「さらわれる前に、絵本で呼んだんだ。違う世界から勇者が来て、世界を救ってくれるって。」
よくあるおとぎ話なのか、それとも、実在する伝説なのか・・・
「そうなんだ?世界って、何か危機でもあるの?」
正直、この国を見ている限り、治安は悪いわ獣人は迫害されてるわ・・・
もし勇者が必要なのだとしたら、王を廃して世界を作り替えないといけない。
「よくわかんない。でも、僕らにとってはもうかな姉が勇者だよ。」
「そうそう。すごい人に買ってもらっちゃった!」
二人はまた興奮したようにきゃっきゃと話す。
よくある、何か世界的な危機とか、そういうのじゃないんだなぁ。
まあ、いつか出てくるかもしれないけど。
とりあえず馬車を買わないとな。こんな街にいつまでも居たくないし。
「とりあえず、金策をしなきゃだから、町を出るよ。」
そういうと二人の顔にはてなマークが浮かんだ。
「町を出てどうするの?」
りりィが聞いてくる。お金のことを一番心配しているのはりりィだ。
「ん?良いこと。」
にんまりと笑う。りりィたちには悪い顔に見えたかもしれない。
町を出るときは、検問のお兄さんに、
「馬車を新たに手に入れるため、金策をしてきます。」
というだけで「気を付けて」と普通に見送られた。
本当に、ここの検問は必要なのだろうか。
まあ、とりあえず、今日の目的をさっさと終わらせますかーー。
本当なら走ったら早いのだが、リリィたちを置いていくわけにはいかない。やはり、馬車は必要かな。
今回は仕方なく、時間をかけて行くしかないか。
片道3時間くらいのはずだ。あ、やっぱ日帰りは無理か?
「ねえ、3時間は歩くんだけど、大丈夫?」
心配になって二人に聞いた。
「獣人は人より持久力があるの、どうせなら走るの。」
「僕も走るー!」
そうか、動物と同じ感じなのか。
ミディは走ることにちょっとワクワクしているようだ。
「それは助かるなぁ。じゃあ、ついてきて、遅れるようだったら呼んでね。」
そう言って走り出す。すると直ぐに遠くから声がした。
後ろを振り返るとそこそこの距離にリリィたちが見える。あれ?
走って戻ると、一瞬だった。
「かな姉早すぎるの。」
「さすがに無理だよ。」
動物の能力を有している二人が呆然としている。
「ごめんごめん、一人だとわかんなかった。こんな速く走ってたんだね。駆け足程度で行ってみるから、もっかいね。」
なんだったら競歩でもいい気がしたが、まあ、出来るだけ抑えてみることにした。
今度はそれなりについてきている様子だった。
それでも、走り通して一時間半ほどで盗賊に絡まれたであろう昨日の場所に到着した。
何やら切った縄の切れ端が落ちているので、間違いはなさそうだ。
「ねえ、犬の能力って使えるの?匂いを辿るとか。」
ミディに聞いてみた。犬といえば定番だろう。
「人よりは嗅覚はいい方だと思うけど。」
「じゃあ、試してみてくれる?」
縄の切れ端を渡して、嗅いでもらう。
その様子を見ていたら、なんとなく出来る気がして、覚えたと返ってきた縄を俺も嗅いでみた。
周りを見てみると、匂いの痕跡が道のようになって続いている。
「おおーさすがチート。」
つい呟いた。
「チート?ってなに?」
「あ、気にしないで。さっき言ってた能力だよ。匂いの痕跡を辿るってのもできるみたい。」
おおーと尊敬のまなざしを受けた。
「ねえ、今嗅いだやつ、道みたいに見えたりしてる?」
ミディに能力の確認がてら聞いてみる。
「うん。すっごい薄いけど、見えるよ。」
そうか。俺のはすごくはっきり見える。違いからして、レベルとかありそうなのだが、鍛えてレベルを上げればミディもはっきりするのかな?
というか、俺のこの能力、なんレベルでの取得なんだろう。
「じゃあ、とりあえずそれを辿ろうか。」
道は、森の奥に続いているようだった。
そういえば、最初の怪力?や俊足は、何かを見たわけではないから、元の身体能力が上がってる?
見ないとわからないのは、その能力を知らないから?
ということは、本とかでも知識を得れば、色々使えるのかもしれない。
道を辿りながら、二人に聞いてみる。
「ほかに、特有の特技とかあるの?」
走りながらだから聞こえるのか心配だったが、杞憂に終わった。
「はい!私は、高いところから落ちても着地ができるの。後、戦いになると爪が伸びるよ。」
猫のような特徴そのままなんだな。
「僕は、嗅覚と、狩りができるよ。小動物だけど・・・」
やっぱ犬といえばだね。
「狩りなら私もできるもん。多分。」
りりィも対抗してくる。でも多分かーーまあ、育ててみようかな。
「わかった。今後に期待するね。とりあえず、目的地に着いたら隠れてて。危ないからね。」
二人はうなずく。匂いが強くなってきた。目的地はもうすぐだ。
襲撃場所から走って20分ほどで崖の下にある洞穴のようなところに到着した。
匂いがあるし、入り口には見張りが二人いた。間違いない。
「あれって、盗賊かな?」
恐々とりりィが小声で話す。
「あの匂い、良いものじゃないとは思っていたけど、、かな姉ここが目的なの?」
ミディも怖いようで、耳がペタンとなっている。
「そうだよ。お宝ため込んでないかなぁ?」
にやにやしてると、二人は少し引いたような顔をした。
その反面、怖がっていたのが和らいだのか、ミディの耳が元に戻っている。
「じゃあ、ここで待っててね。間違っても動かないでね。」
少し気を抜いたところを見て心配になった。
いくら俺が強くても、知らないとこでピンチになったら助けられない。
「気を付けてね。」
「やられないよね?」
俺が強いのは知っていて、それでも、単身乗り込むのは心配のようだ。
「大丈夫だよ。俺の強さ知ってるでしょ?」
俺はそういって、正面から堂々と入り口に向かった。
こちらに気付いた見張りの盗賊がにやにやしながら近づいてくる。
「お嬢ちゃん、ここがどこだか知っているのか?飛んで火にいる冬の・・・」
言い終わる前に腹に一発叩き込む。てか冬?夏じゃないのか。
「な、なにを・・・」
もう一人が剣を抜こうとしたので、こちらも早々に沈める。
やはり、昨日と同じくロープは常備らしいので、それを取り出して縛る。
懐は後で探るとして、とりあえず中に入ろうか。
中に入ると、ランタンのようなものが設置されていて意外と明るい。
道の先に、大きく開けた空間の中に数十人の盗賊が見えた。
見つかる前にさっと近づき、殴り倒していく。
「しゅ、襲撃だぁぁぁ!!!」
さすがに、叫んだだれかによって皆一斉に武器を構える。
殴り倒した男の腰から、剣を引き抜き、一斉にかかってきた剣をさばいていく。
見える、見えるなぁぁ。チートやべぇぇぇ。
自分で分かる、明らかに素人の振りだが、見える剣を弾くだけなので基本は大丈夫だ。
弾いて怯んだところを殴って気絶させる。剣で切ってもいいが、血はなるべく見たくない。
ていうか、これって強者の戦い方じゃね??我ながら強さに興奮しつつ、次々沈めていく。
ひときわ身なりの良いというか、派手な(といっても、ザ、盗賊だが)男が、最後に残った。
「な、何者だ!俺たちに何の恨みが・・・」
しょっぱなに襲われたというのがあるが、返り討ちにしたし、恨みはないな。
しかし、盗賊である以上どこかしらの恨みを買っていることがわからないのだろうか?
「いや、盗賊が何ゆうてますのん。」
言いながらにじり寄っていく。足元に、誰かが持っていたらしいロープが落ちていた。
不意に思いついた、スピードを生かして、気絶させずにロープをぐるぐる巻く、をやってみた。
意外とうまくいくものだ。
「んで?ため込んでるんでしょー?どこにあるの?」
にやにやしながら聞く。そもそもの目的だ。
「な、何の話だ。」
頭っぽい男に詰め寄る。しかし、男は目線をそらし、動きにくい状態から一生懸命離れようとする。
「他人から奪ったものに決まってるでしょうよ。」
言いながら剣を首元に当てる。離れようともがいていたのがピタッと止まった、軽く涙目になってきた。
「お、奥の部屋にある。だから殺さないで・・・」
殊勝にお願いしてきた。情けないが、結構な力の差でこんなものか。
しかし、大の男がこれで、よく頭が務まったな。
「あんがとさん。」
そういうと頭をどついた。起きてると面倒だし。
一息ついてると、りりィたちが中まで入ってきた。
「かな姉、表の二人は探っといたよ。」
りりィが報告してくる。何をすればいいかは宿屋の一件で分かっていたのだろう。
「すっげぇぇ。これみんな縛っとく?」
ワクワクした様子でミディが言う。
「うん。どうせそいつら縄常備してるからそれ使ってやっといてくれる?なんかあったらすぐ大声出してね。俺は奥のお宝見てくるわ。」
ここは二人に任せて、さっさと奥に進んだ。小さめの入り口が奥にある。
「聞かなくてもわかりやすかったな。」
中に入ると、大きな箱が複数個、乱雑に入っていた。どうやって入れたんだ?これ。
入り口は人ひとり、縮こまってやっと入る大きさだった。
あの入り口で中の広さにも驚いたが、中のものはどう考えても通りそうにない。
「誰?」
悩んでいると、声を掛けられた。残党かと思ったが、声が高い。
見回すと、小さな檻の中に何かいる。近づいてみれば、リリィたちの最初よりボロボロ、いや、ボロボロでドロドロな子供が縮こまっていた。
「君、捕まっているの?」
話しかけてみた。
「た、助けて欲しいのだ!なんで我が売られなければならん!人間は野蛮なのだ!」
子供は急に、檻に取りすがって懇願してきた。
おお?何やら高圧的なしゃべり方。でも、あの盗賊に捕まる程度・・・?一応出してやるか。
檻を壊して、外に出してやる。
「お前は何者だ?匂いから盗賊どもとは違うと思って声を掛けたが、外の盗賊はどうしたのだ?」
思ったよりも小さい。6歳くらいのサイズだろうか。
頭には、かわいらしい顔に似合わない、大きく曲がった角が生えている。
「匂いって…変なにおいする?盗賊は倒したよ。君は、なんでこんなところに?」
小さいので、しゃがんで答える。腕を嗅いでみたが、特に何の匂いもしない。
「いや、盗賊は臭かったのだ。変なにおいがしないからというのが正しい。すまない。実は、たまたま、人里の方に遊びに来ていたら捕まってしまったのだ。」
たまたまって・・・交友でもあるのかな?しかし、あの人の町を見る限り、獣人は・・・
「獣人が人の里に近づいたら危険だよ?奴隷にされちゃうんだから。」
トルノさんもそういっていた。
「わ、我は獣人なんかじゃないのだ!魔族の王の息子ぞ!」
は?
「え??うそでしょ。なんで、そんな強そうなのが普通に捕まってるの?」
歳が若いとはいえ、魔王の息子だ。英才教育はもちろん、潜在能力もけた違い・・・のはずだ。
「知らないのだ!人間くらい一捻りだと思ったのに!全然敵わなかったのだ・・・!」
遊びにって、滅ぼしに・・・っていうノリだったのだろうか・・・
「そうだったのーーーちなみに、戦ったことは?」
なんだか、ほほえましい予感がした。一気に扱いが子供相手になる。
「我が屋の親衛隊長にも勝ったのだぞ!!親衛隊長だからな!強いのだ!」
言いながら、かなり涙目だ。察するに、かなり手加減というか、幼稚園相手のお父さんのノリだったのでは?
「そうかーーどうする?帰れる?」
これは、かなり弱いんだろうな。魔族、仲良くなれそうな気さえする。
「別に、一人でも帰れるのだ。その前に、我を助けた礼をやる!なんでも言うがいいのだ!」
帰れると思ったのか、急に、気が大きくなった。
「えーー?」
言ってもお子様に何を頼めと…?見た目の通り、幼稚園くらいの感覚だ。
「あ、ねえ、この箱とか、運び込んでるとこ見てたでしょ?どうやってた?教えてくれたらそれでいいよ。」
気になっていたことだ。ちょうどよかった。
「なんだそんなこと、礼になんかならないのだ。あやつら、アイテムボックスを使っておったのだろ?念じれば出るではないか。」
念じる?目を閉じ、手を差し出してみた。
すると、ブラックホールのようなものが出た。
「出たか?それは他人には見えないのだ。人によって容量は異なるのだ。バッグ程度から、無限まであるぞ。因みに我は無限なのだ!」
出来ることがあってさらに偉そうな態度になった。とても微笑ましい。
俺のはどうだろう。とりあえず手近にあったでかい箱を数個入れてみた。
「あ、これでいっぱいっぽい。まあ、結構入った方かな。」
ということは、せっかくのお宝?を間引かなきゃいけないということだ。ま、元々そういうつもりではあったのだが、せっかくのアイテムボックス。そして、ここに無限とのたまう子が礼をすると言っている。
「じゃあ、しばらくそのアイテムボックス借りるってのはどう?もちろん、食事や泊まる場所は保証するよ。」
ついでに、魔王のところにでも送ってあげよう。このままだと又どっかで捕まりそうだし。
「それが礼でいいのだな?わかった我が同行してやる。ありがたく思うのだ。」
納得したらしい。とりあえず、これでここのもの全部運べそうだ。
「助かるよ。よろしくね。俺は要。」
「我は マリノティウスなのだ。」
「長いね…マリスって呼んでいい?」
「む、まあ、特別なのだ。」
長い名前は苦手だ。フルネームを言われなくてよかった。きっと長い。
「じゃあマリス、ここにあるもの全部入れてくれる?あ、力はある方?」
「了解なのだ!力もあるぞ!ほら。」
手近な箱を持ち上げる。問題なさそうだ。
マリスは嬉しそうに次々モノを収納していく。無限というのはあながち嘘でもなさそうだ。
とりあえず、収納不足は問題無くなった。ありがたい。
「先に表に出てるね。収納終わったら出てきて。」
大丈夫だろうが、リリィたちのほうも気になる。
「了解なのだ!」
外に出ると、見事に縛られた盗賊がひとまとめになっていた。
「おお。頑張ったね、りりぃ、ミディ。」
「かな姉!お金もこんなにあったよ!」
ミディが両手に抱えた大袋を持って、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「これなら、馬車買えそうだね!」
気になっていた資金問題が解決してりりィは嬉しそうだ。
「うん、結構いろいろ貯めこんでたなーやっぱいい稼ぎになるわ。」
これなら大きめの馬車で寝どこも作れそうだ。そういいつつ、盗賊のほうを見ていると、んん?ひときわ派手な頭ららしき男の姿が見えない。
「リリィ。ちょっと派手な奴どうした?」
聞くと、リリィはびっくりしたような顔をして、
「え?結構手前にいたはずなの。あっちの方。」
りりィの指す方を見ると、抜け出したであろう縄が落ちていた。
「おいおい、縄抜けて・・・」
ドゴォォォオォォ・・・
奥の方で洞窟の壁が崩れた。
そちらの方を見やると、瓦礫の中から、見たことがないくらい大きな熊のような何かが出てきた。
「はっはっはっは!さっきは不意を突かれてしまったが、こいつがいればお前がいかに強かろうと敵うまい!」
熊の後ろのほうから、男の声がした。
「こいつは隷従させるのに苦労したんだよ。近くの森で暴れていたやつだが、犠牲も大きかった。しかし、本当にこいつが暴れると被害も大きいからほとんど使うことがないんだが・・・」
ああいうのも隷属できるってことか・・・!?
グオォオオオオオオオオオオ
熊が吠える、と、その勢いのままこちらに突進してきた。
ん?なんか声掛けでもしたか!?
突っ込んできた熊に蹴りを一発入れる。熊は吹っ飛んでいった。
「りりィ!ミディ!奥の部屋に入っていて!」
吹っ飛んだ先で、熊は早々に起き上がろうとしている。
「で、でも。」
「いいから早く!!!」
りりィが何か言いかけるが、急かす。正直、守りながらは、どうなるかわからない。
慌てて奥の方に走っていく二人を見て取って、熊のほうを確認した。
「グゥルルルルルル」
魔獣は、こちらに対して威嚇してきている。
「いいぞ、やってしまえーーー。」
盗賊の頭は傍観者を決め込むようだ。何かを指示する様子はない。
「ちょっと、こいつちゃんとあんたに隷属しているんでしょうね?」
熊からは視線を外さず、気になったことを聞く。
「どうにか隷属できたが、俺でもコントロールは難しい。だから、お前らを殺すまで、そいつは止まらん!!正直、部下どもの命すら危うい!!」
何をそんなに嬉しそうに・・・気でも狂ったか?それとももともとこんな質なのか。
呆れていると、熊が再び襲い掛かってきた。
「グゥオオオオオオオオ」
咆哮とともに突進し、立ち上がるとその鋭い爪を振りかぶる。
「普通に熊みたいな感じだな。」
そんな場面ではないのに呑気なことをつぶやいてしまう。
それというのも、初めて相対したにも関わらず、俺はひどく冷静だった。
りりィたちには焦ったように声を掛けたが、どうなるかわからなかっただけで、負ける気はしていなかった。
「人より、動物のほうが効くんじゃね?」
俺は、目に力を入れ睨み付けた。ギルドで使った覇気?のようなものだ。
「ぐぅ、グゥルルルルルル」
振りかぶった腕を下ろし、こちらを警戒する熊。俺から一定の距離を保つ。
完全とはいかなかったが、警戒されるくらいには効いたようだ。
「ふむ。」
そうなればこの状況。試してみたかったことが出来るのではないか。
正体不明の術を、リリィやミディで試す気はなかったので、ちょうどいい。
「かの者を隷属から解き放ち、自由となれ。」
考えていた、隷属解除の呪文を唱えてみる。今まで、よくわからない不安があったためやめていたのだ。
とりあえず、ヒールの呪文も、多少の変更が可能だった。
ということは、関連する言葉での発動が可能なのではないか。そう思ったのだ。
俺の言葉に反応して、熊の腕が光る。よく見れば、隷属の首輪が腕にあった。
サイズが小さくて腕にしか入らなかったのだろうか・・・?
光が収まると、自然と腕輪(首輪?)が外れる。
「おお、成功だ。」
「グオオオヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!!!」
急に熊が咆哮を上げ、徐に盗賊の頭へと突進していった。
「は?え、ちょっと待っ・・・・・・」
男は、腰を探るような手つきをして、抵抗することなく熊の餌食になった。
バキグシャっ!
「えええーーーマジかぁ・・・」
隷属が解かれたことによって、恨みでもあったのか、男を殺した熊。
急なことで、俺は手を出せなかった。まあ、自業自得なのを助けるつもりもないが、不意なことに対して反応が遅れている。ある意味、これは課題だ。りりィ達を守ることが出来ない。しかし、一度隷属させただけの力はあったのだから、ガードするとか、何かあっただろうに、抵抗もなくやられたな。
ああ、そういえば腰元を探ってたな。武器の類をりりィたちが取っていたのか。それにしても弱い。
熊は殺した男のはらわたを食っていた。食事をまともに与えられなかったのだろうか・・・?
しかし、グロイ・・・
「おい熊!お前、自由のがいいのか?それとも、俺のとこ来るか?」
不意に思いついて声を掛けてみた。
熊は、血にまみれた口をなめて掃除すると、こちらにのそのそと近づいてきた。
そのまま、目の前に伏せる。
「そうか、ついてくるか。」
伏せった熊の頭を撫でる。あ、もしかしてこいつ乗れたりするんじゃないか?まあ、それは後で検証するとして。
ひとしきり頭を撫でてやると、他の盗賊に向けて威嚇しだした。捕まった恨みがまだあるらしい。
「それ以上はやめとけ。連れて行かないぞ?」
俺が声を掛けると、熊はこちらを見る。
「ルルルルルルルルル」
少し不満そうだが、了承したように唸った。おお、可愛いじゃないか。というか、魔獣は懐くんだな。これはいいことを発見できた。無理やり隷属とか、やっぱり性に合わない。
熊は、盗賊にはもう興味がないというように、犬のようにじゃれついてきた。加減もなかなかできている。
そのうち、しきりに俺を舐め、口をあけた、う、かなり血生臭い・・・
「かな姉!!だいじょう・・・」
りりィの声が聞こえた気がしたが、丁度熊が口を開けて俺の顔を咥えてしまい、見えない。
ん~やっぱり相当血生臭い。
「か、かなねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
やべ、リリィの悲痛な叫びが聞こえる。
俺は、熊の体をポンポンと叩く、熊はしぶしぶ口の中で嘗め回していた俺の頭を離す。
「リリィ、なんもないよ。じゃれてただけだ。」
剣を構えて走り寄ってきていたりりィを制しながら頭を出す。
よだれでベトベトだが、にっこり笑ってやると、リリィは腰を抜かして泣き出した。
「かな姉が死んだと思ったぁぁぁぁあ。」
わんわん泣き始めるりりィ。困って熊のほうを見ると、心成しか、申し訳なさそうにしている。
「かな姉!!」
泣き続けるりりィに困っていると、遅れてミディとマリスが出てきた。
「えっと、どういう状況?」