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撮影裏話とかエピソードゼロとか、そういうやつ?

 この『新米おかし』のコンセプトは、テーブルトークRPGのリプレイ風小説、というものです。

 ですので、フレイ、ミア、デイジー、ガルの四名にはプレイヤー(中の人)がいるかのように描いております。

 南野がゲームマスターという感じの立ち位置ですね。

 あくまでも、「かのように」で、実際には存在しませんが、ちょっとした出来心というやつで、ゲームを始める前のシーンなどを作ってみました。

 それでは、海のように広い心でお楽しみください。


「さてさて。それじゃあキャラクターの作成からだな」


 ゲームマスターがいった。

 無駄に明るい声で。

 初対面のやつの七割くらいは、こいつの人当たりの良さに騙されるが、俺はこいつがただの騒動師なことを知っている。


 騙されないぞ。

 ぜったい頭おかしいシナリオを用意しているに決まっているんだ。


 さてみんな。はじめまして。

 俺のことはフレイPLと呼んでくれ。


 PLってのは、プレイヤーって意味だ。今回のシナリオで、俺はフレイという人間をロールプレイするからフレイPL。

 俺の他に、ミアPL、デイジーPL、ガルPL。


 合計四人で卓を囲むことになった。

 このうち、ガルPLだけが初心者で、参加は今回が初めてだ。

 うまく誘導してやらないとな。


「ふうむ。初心者は戦士がオススメと書いてあるな。ルールブックに」


 ガルPLがうなる。

 まあ、それは事実だ。

 ついでに言うと、初プレイなら種族も人間の方が良い。


 なにしろ俺たちはたいてい人間だからね。

 いきなり異種族とかを演じるのは、ちょっと難しいんだ。


「そだねー 人間の戦士ってのが一番カンタンだよー」


 うんうんと頷くデイジーPL。

 こいつは経歴も長くて、いわゆるベテランプレイヤーだ。面倒見とかもいいから、けっこう初心者に頼られてる。

 誘導も上手いしね。


「しかし、人間の戦士というのは、いささか没個性ではないか? いくらでも転がっていそうだぞ?」

「あっはっは。個性なんてものはプレイで見せるのよ。設定が凝ってたら個性的になるなんて大間違いよ」


 首をかしげるガルPLに、ミアPLが笑ってみせる。


 それは事実なんだけど、こいつの場合は、そのプレイスタイルが問題だったりする。

 みんなはルーニーって言葉をしってるかい?


 テーブルトークRPGのプレイスタイルのひとつなんだけど、とにかく場を面白くしたがる人のことなんだ。

 なので、基本的にはおかしな行動をする。


 まえに一緒にやったときには、どうやったら全裸のままでいられるかと、真剣にゲームマスターに訊いていた。

 どうして全裸プレイがしたかったのか、いまだに謎だ。


「個性なぁ……たとえば?」

「戦士なんだから、傷を負うでしょ?」


「まあ、無傷では戦えぬよな」

「そしたらさ、傷を負うのが大好きとかどうよ?」


「傷は男の勲章とか、そういうやつか」

「うんうん。それそれ」


「ふーむ。それでいってみるか。屈強な男で筋肉ムキムキで」

「いいねー 格好いいねー」


「上半身裸とかどうだ?」

「最高!」

「だろ?」


 騙されるなーっ。

 ミアPLは、ぜったい格好いいなんて考えてないぞーっ。

 面白がってるだけだぞー!


「なに? フレイPL」

「いやべつに……」


 不意にこっちに視線を向けるミアPL。

 逆らわないでおく。

 怖いからね!


 ガルPLは犠牲になったのだ。

 なむなむ。


「ガルPLが戦士として、ミアPLはどうするんだよ?」


 話題を変えておこう。


「ん。今回は魔法職にしようかな。せっかくだしエルフの精霊使いで」

「ディー○リットですね。わかります」

「あっはっはっ わたしがそんなベタなエルフをやるとでも?」


 見よ。

 とかいって、キャラクターシートを見せてくれる。

 けっこう良いんじゃ……。


「なあ……」

「なにかな?」

「習得言語おかしくねーか? なんで大陸公用語が入ってないんだよ」


 ミアPLのシートに記された言語は、エルフ語、古代語、イヌ語、ネコ語、クジラ語、カバ語、キリン語。


 うん。

 おかしいよね。

 なにもかもがおかしいよね。


「おう」

「おうでなくてね。ミアPLさんや……」


「それがさ。わたしエルフじゃん」

「そっすね」


「したら大陸公用語は、ちゃんと選択しないと憶えられないじゃん」

「当たり前っすね」


 ルール上、人間キャラクターは、最初から大陸公用語を知っている。

 他の言語は言語習得ロールで憶えないといけない。


 逆にエルフはエルフ語を知っていて、他は別口に憶えないといけないのだ。


 で、大陸公用語というのは最も憶えやすい。

 エルフ語以外に、六つの言語を知っているということは、少なくともミアPLは、六回のロールのチャンスがあったということである。

 一回も大陸公用語が出ないとか、まさかないだろう。


「それ思い出したのが、書き込んだあとだった」


 てへ、とか笑ってる。

 つまり出てはいたのだろう。書いてなかっただけで。

 そして書いていないということは、ないのとイコールなのである。


「どーすんだよ? これ」

「フレイPLがエルフ語を憶えれば問題ない。がんばれ」

「……憶えてないとパーティー組むどころの騒ぎじゃない。やるしかないか」


 気合いを入れて、俺はダイスを握りしめた。





「大丈夫だよ! フレイPL! ボクがエルフ語習得したから!」

「ああ……」

「落ち込まないで! 大陸公用語しか知らないキャラクターでも大丈夫だよ!」


 デイジーPLの言葉が、剣のようにざっすざっすと突き刺さる。


 みなさん。お判りだろうか。

 俺は四回の言語習得ロールで、ことごとく大陸公用語を引き当てた。

 ようするに最初から知っている言葉を。


 ……かなしい。


「親友同士ってことにすれば、最初から一緒にいても問題なし!」

「ありがとうデイジーPL。助かる……よ?」


 相変わらず面倒見が良いなーとか思いながら、デイジーPLのキャラクターシートを覗き込んだ俺は絶句してしまった。

 魅力度が十八。


「カンスト……だと……?」

「うん! なんか最高値がでた! こんなしょーもない能力で!」


 きゃっきゃと笑っている。


 じっさい、魅力度はゲームにほとんど関係ない。

 いくら高くても、それで有利になるような場面はほとんどないからだ。

 まして、十七歳のプリーストの少年の魅力度がカンストして、どーするというのか。


「せめて美少女だったら良かったのにね!」

「採用」


 唐突に口を挟むゲームマスター。


「……なにが採用なんだ?」


 おそるおそる訊ねてみる。

 いや、たぶんね、おそらくね、まちがいなくロクでもない答えしか返ってこないだろうけど!


「美少女のような少年。それでいけ」


 男の娘じゃないですかやだー。


「いいよー 何くれる?」


 にやりとデイジーPLが笑った。


 うっわ。

 この黒プレイヤー。

 さも当然のように、ゲームマスターに取引をもちかけやがった。


 そりゃあ、ゲームマスターが提示した条件に乗るのだから、なにがしかの見返りがあってもおかしくはないのだが……。


「神官服+2をやる」

「マジ!? やったっ!」


 冒険前のパーティーにマジックアイテムとか、なに考えてんだこのゲームマスター。


「ただし、デザインはこれだ」


 くるりとノートパソコンをひっくり返す。

 ディスプレイに表示されていたのは、魔法少女だった。


「…………」


 だまりこむデイジーPL。

 きっと揺れているのだろう。

 最初から良い装備がもらえる。しかしデザインはアレ。


「せめてもの慈悲だ。ミニスカートではなくショートパンツで良いぞ」


 にやにやと笑うゲームマスター。


「……ショーパンでおなしゃす」


 デイジーPLが折れた。

 弱い。

 物欲には勝てなかったか。


「まあ、女が一人だけというのも寂しい話だからな。しかもその一人というのがルーニーときている。間違いなくおかしなことしかしない。見た目だけでも女に見える奴がいれば、場も華やぐだろう」

「いやあ」


 ぽりぽりとミアPLが頭を掻く。


 褒められてないよ?

 まったく褒められてないよ?


「ともあれ。このメンツでシナリオをはじめよう。今回は初心者も混じっているので、上手く誘導してやってくれ」


「うん!」

「まかされて」


 ゲームマスターの言葉に大きく頷く二人。

 不安しかないぞ。俺は。


「最初のすこしだけベテラン三人でロール。ガルPLは見ていて雰囲気を掴んでくれ。すぐに出番があるから」


「承知した」


 少しだけ緊張した面持ちでガルPLが頷いた。

 こほんとゲームマスターが咳払いをする。


「ここは大陸南部の交易都市ザブール。けっこう大きな町だな。田舎から出てきたばかりのフレイは、冒険者ギルドの扉に手をかけた。野心と冒険心を胸に抱いて」


 紡がれてゆく言葉。


 さあ、俺たちの冒険のはじまりだ。


 


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