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第20話 衝撃のダークエルフ(笑)


 氷の精霊の力を操り、洞窟竜の死体をかちんこちんに凍らせたミア。

 軽く頷いたガイツが収納袋を取り出し、するっと片付けてしまう。


「けっこうぎりぎりだな。もうなんぼも入らねえ」

「これ収納できるってだけですごいけどね」


 さすがは高位のマジックアイテムといったところだろう。

 どれほど重いものを入れても、袋以上の重さにはならないらしい。


「俺たちもこういうのが欲しいな」


 羨ましそうなフレイである。

 もっともこれは彼だけの感想ではないだろう。


 戦利品を得れば得るほど、荷物は重くなってゆく。重量だけならまだ頑張って運ぼうって気にもなるが、でかくてかさばるものは諦めるしかない。

 なかなかに切ない問題なのだ。


 命がけで迷宮に挑み、宝物を見つけても、全部は持って帰れないとか。

 もっのすごい悔しいのである。


 実際フレイたちだってドラゴンの素材を諦めた。


 今回、短時日(たんじじつ)のうちに再アタックできたのは望外の幸運といって良い。

 しかもA級冒険者を引き連れて。

 当初の予定通り連れてきたのが人足(にんそく)たちだったら、とても十二層までは潜れなかっただろう。


「さすがにやんねえぞ。これは」


 ガイツが苦笑する。

 彼しかもってない唯一無二のアイテムだ。


 魔術協会(アカデミー)からの貸し出し要請にも首を横に振り続けている逸品である。

 貸すくらいなら良いんだけど、なにしろ魔術協会は研究機関なので、いろいろと調べてるうちに壊しちゃいました、みたいなことがあるかもしれないのだ。

 それは、ちょっと洒落にならない。


「わかってるよ。アニキ」

「手に入れた場所くらいは教えてやるけどな。地下街だ」


 これもザブールからそんなに離れていない遺跡である。

 地下街という名前なのは、本当にそんな感じだから。


 構造的には地下二層。

 ただの一本道で、通路の両側に部屋が並んでいるだけ。

 迷宮といえるようなモノではない。


 商店街みたいな作りなので、地下街って呼ばれるようになった。

 で、そんな簡単な構造だから、とっくの昔に調べ尽くされている。


「なんでそんなところに、すげーマジックアイテムが……」

戦利品(トレジャー)じゃなくて戦利品(トロフィー)さ。鉢合わせたマンティコアがもってたんだ」

「マジか……」


 これまた高位のモンスターである。


 ライオンくらいの巨体で四つ脚。毒をもったサソリみたいな尻尾があって、老人のような顔をしており、鋭い牙が三列に並んでいる。

 戦闘力はもちろんもっのすごく高い。

 その上、古代語魔法(エイシェントマジック)を使ってくるという。


 一言でいって、相当ヤバい相手だ。

 たぶん洞窟竜より。


「ていうか、よく勝てたわね。そんなのに」


 横から口を挟むミア。

 強者ぞろいのガイツチームだが、さすがに分が悪いだろう。


「死ぬかと思ったぜ。いや本気で」


 腕試しに地下街に赴いたE級の連中が次々と消息を絶つという事件があった。

 調査のために派遣されたのが、ガイツチームだった。


 救出ではない。

 全員、まず死んでいるだろうと予想されたから。

 事故か、それともモンスターにやられたのかを調べ、ついでにE級たちの魔晶石(クリスタル)を回収する。


 簡単な仕事のはずだったのに、地下街に住み着いていたのはマンティコアだったというオチだ。

 さしものA級チームも、死を覚悟して戦った。


「つーかアニキたちじゃなかったら、普通に食われて終わりじゃね?」


 やれやれと肩をすくめるフレイである。

 死を覚悟して戦って、勝てちゃうのがA級のA級たる所以(ゆえん)だろう。

 フレイたちだったら、覚悟以前に、ぱっくんちょと食べられてしまう。


「マンティコアを倒さないと手に入らないようなお宝じゃ、ちょっと手が出ないわね」

「だな。しかも持ってるとは限らないだろうしっ!?」

「きゃっ!?」


 突如として、フレイがミアを押し倒す。


 一瞬前まで彼らがいた場所を通過していく魔力光。

 フレイの髪を二、三本斬り飛ばして。


 どこから攻撃された?


 さっと戦闘態勢をとる冒険者たち。

 フレイ、ミア、デイジーを中に入れ、カイツ、メイサン、ゴルン、ガルが外側を固める。

 全方位警戒の円陣。


「……犯罪者は現場に戻るというのは、あながち間違っていないようだな」


 滲み出すように現れる姿。

 男だ。

 ローブをまとい、ねじくれた杖を手にし、鮮やかな銀髪と深紅の瞳を持つ浅黒い肌の。


「ダークエルフ……」


 フレイに組み敷かれたまま、ミアが呟く。

 男の耳は、彼女と同じように長く尖っていた。





「なんでダークエルフがこんなところに……」


 かすれた声を絞り出すガイツ。

 はるかな昔から人間と対立してきた闇の眷属(ダークサイド)

 ダークエルフ族もそのひとつだ。

 魔族(デーモン)と並んで高い魔力を持ち、エルフ族からみれば天敵みたいな存在である。


「なぜかと問うか。人間よ」


 ばさっとローブを広げ、朗々と告げる。


 あ、答えてくれるらしい。

 語りたいというなら止める理由はないので、ガイツチームもフレイチームも拝聴することにした。


「ここは餌場(えさば)だよ。きさまら低脳で愚かな人間どもをおびき寄せるためのな」

「あ、はい」


 低脳も愚かも同じ意味じゃね? と、フレイは思ったが、つっこむのはやめておいた。

 大陸公用語(パブリック)の添削をするような場面ではないから。

 たぶん。


「人間たちはマジックアイテムに目がないからな! 私の個人的な財産を囮にしておびき寄せ、ケイブドラゴンに食わせてしまおうという高度な計画だ!」

「あ、はい」


 高度なんだろうか。

 だったら地下一層とか、もっと浅いところに仕掛けた方が良いと思う。

 十二層まで降りてくる人間は、そこそこ強いよ?


 現実問題として、フレイたちは洞窟竜たおしちゃったし。


「えっとですね。ダークエルフさん」

「パンナコッタだ! 種族名で呼ぶな! 失礼なやつだな!」


 自分だって人間人間と種族名で言ってるクセに怒ってる。

 うわめんどくせぇ、と、フレイは思ったが、ここは我慢して話を続けることにした。


「あ、すんません。パンナコッタさん。こころみに問うんですけど、この罠って引っかかった人、います?」

「いない! なんでだっ!!」

「ですよね……」


 深く深く頷くフレイだった。


 罠っちゅーもんは、獲物が通る場所に仕掛けなくては意味がない。

 てきとーな場所にてきとーに設置したって、猪だろうが鹿だろうが人間だろうが、引っかからないのである。


「十年も前から用意していたのに! ぜんぜん誰もこなくて! やっと引っかかったと思ったらドラゴン負けちゃった!」


 むっきーって怒ってるパンナコッタさん。

 なんだろう。

 面白そうな人だ。


「ええとですね。シスコームに潜る冒険者は魔晶石(クリスタル)が目当てだと思うんですよ」

「そうなの? じゃあまっすぐ最下層に行っちゃう感じ?」


 フレイの説明を、ふむふむと身を乗り出してきく。

 研究熱心である。

 ともあれ、魔晶石は最下層にあるらしい。


「まあそうですね。だから罠を仕掛けるなら目的地の近くに仕掛けないといけないんですよ」

「いや、でもさ。最下層まで辿り着けない人間もいるじゃん?」


 だから中間地点の十二層に仕掛けたんだと主張する。

 気持ちは判らないでもないけど、最も無意味なやり方だ。


「中間地点は普通にスルーされますよ。その発想で仕掛けるなら最初の分岐でやらないとダメですって」


 どんなルートを進もうと絶対に通る場所。

 そういうポイントに仕掛けるのだ。


「なるほど。勉強になるわぁ」

「恐縮です」

「じゃあもういっかい作るかぁ。エサのマジックアイテム返してくれ」

「あ、もうないっす。ぜんぶ売っちゃったんで」


 残ってるのはこれくらいしか、と、装備しているジャマダハルを見せるフレイ。

 献上したんだよ、とか、言っても仕方ないし。


「えー! ダメじゃんっ!」

「ダメ言われても……」


「絶対に許さない! こうなったらお前らの持ってるマジックアイテム奪ってエサにする!!」

「んなむちゃくちゃな」


「うっさい! これでもくらえ(Take that you fiend)!!」

 怒れるパンナコッタの杖の先に、魔力光が集束する。


 

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