森からの生還者
「ぐはっっ」
アドルフは数メートルふっ飛ばされ、木にたたきつけられた。
(魔力を腹に集めたおかげか、肋骨1,2本で済んだな。かなり痛いが、九死に一生を得たってやつだな。しかし、咄嗟に魔力を集めたが防御力を高められるのか。これを拳に、いや、ナイフに纏わせて攻撃力を高めればアイツにダメージを与えられそうだ。)
すぐさま立ち上がり、キングベアへ警戒しながらナイフへ魔力を集めだす。キングベアは野生の感からか魔力が威嚇し始めた。キングベアはナイフの攻撃を当たるとおそらく死ぬとわかったのだろう。それぐらいのポテンシャルをナイフに込められたのだ。しかし、逆にあのナイフさえ当たらなければいいのだとキングベアは判断した。
そして、再びキングベアの猛ラッシュが始まった。アドルフは攻撃を紙一重で避けていく。キングベアはナイフで攻撃してきた瞬間に止めを刺せばいい、今は攻撃を繰り返しアドルフの体力を減らし苦し紛れの攻撃を待つ。キングベアは勝利を確信ーーー
ドガ。鈍い音がなった。キングベアは何がどうなったのか理解できなかった。
アドルフはナイフで攻撃するつもりは全くなかった。右手で持ったナイフは囮で本命は左足であった。魔力は本来は集めるのに時間はかからない。ナイフに魔力を時間をかけて集めたのはすぐに魔力を集められないと思わせたかったからだ。獣の脳ではわからないと思うが念の為もあった。
そして、魔力を込め左足で、キングベアの頭に攻撃したのだ。今もキングベアは怯んでおり、アドルフは脳天にナイフを差し込んだ。
(危なかった。一歩間違っていたら死んでたな。この折れた肋骨は高い授業料になりそうだ。とりあえず、このキングベアを持って帰ろう。俺の2,3倍大きいぞ。はあ、これは苦労する。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(やべえ、目醒めたら昼すぎじゃねーか!アドルフもなんで起こさずに森へいったんだ。キングベアにあったら、間違いなく殺される。クソ、酒なんか飲むんじゃなかったぜ。)
ガゼフが急いで準備し、森へ行こうとすると森から何かを引きずった音が聞こえてきた。
(なんだと!ここまで来たのか。それじゃアドルフも…)
「ガゼフ、手伝ってくれー。こいつ重いんだ。」
アドルフは踏ん張った顔してキングベアーを引きずっていた。
「はあ?ハア!お前、キングベア倒したのか!Bランクの魔物だぞ。」
ガゼフは今までの心配していたのを忘れて、ただ驚くだけであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キングベアの解体や処理をした後、アドルフはガゼフにキングベアの一件を話した。
「なるほど、魔力が使えたのか。しかし、その年で魔法が使えるのは貴族の坊っちゃんぐらいだぜ。」
「ああ、小さい頃から魔法や格闘なんかの訓練をさせられてたからな。だけど、貴族の坊っちゃんとは待遇において雲泥の差があったのさ。あんときの俺達は人じゃなかった犬畜生だった。」
「通りで。しかし、よく出てこられたよな。そんな所は警備とか厳重だろうに。」
「それは、俺が一緒にいた奴らを犠牲にし、逃げたのさ。」
ガゼフに、施設にいた時の話をした。ガゼフは時折悲しそうな表情をしたが終始黙って聞いていた。
「なるほど、あいつらか…。その施設というのは第五研究所だろう。王国の中でも後ろめたいこと筆頭だ。本来は研究所は王国では第四研究所までしかなかった。その中で、異端の中の異端の魔術者、学者などさまざまな奴らが集められたところが第五研究所だ。」
「何故、ガゼフがそんなことまで知っている?」
「お前も話してくれたからよ、話すが元々俺は王国騎士団の団長をしていたんだ。しかし、ある時キレちまってな。お偉いさんをぶん殴っちまってよ。まあ、殴った理由はその第五研究所絡みの話でな。アドルフ、親のこと覚えていないだろ?」
「ああ、どこで生まれたのかもわからない。」
「そりゃそうさ。お前はあそこの施設で生まれたんだからな。考えてみろ。先天的に魔術の素養を持った奴らはどれだけ少ないと思ってるんだ。10000人に1人だ。そんな奴らを集めるのは至難の業だ。だからな作り始めたんだ。作るというよりも交配によって魔術師を生ませてきたんだよ。優秀な遺伝子と優秀な遺伝子を掛けあわせて超兵を作るんだとよ。それで、優秀な遺伝子の出処が貴族たちが金欲しさに末っ子とかをうっぱらてたんだ。その中の一人が俺の親父だった。それで妾の子、俺の同腹の妹を売り飛ばしたんだよ。そのことを聞いたのがその一年後だった。ま、その話も何十年前の話だ。」
「まあいいさ、非人道的な実験をしていたとしても力をもらえたんだ。それがなかったら、おれは腹の中だ。復讐とかそんなの興味ないさ。」
そのことを聞いたガゼフはいきなり大声で笑い始めた。
「ハハハハハ、そうか興味ないか。妹とか俺もいったけどよ。一回もあったことも無いんだ。殴ったのは本当だがな。単に感に触っただけだがな。」
「殴られた奴に同情するよ。」
アドルフもそう言うが、どこか楽しそうな顔をしていた。
「それで、今後どうするんだ。このまま、ここで猟師するのは出た意味ないだろ?」
「ああ、今回のキングベアと戦っていろいろと力不足だと痛感したよ。鍛えないとな。」
「そうだろうな。お前は子供にしちゃ強い。しかし、それは子供の中での話だ。世の中じゃゴロゴロとお前より強い奴がおる。そこで、お前に剣を教えてやる。」
子供がいたずらを企てている時のような笑みを浮かべ、ガゼフはそう言ったのだ。