施設にて
少年はこの壁の外はどうなっているのか知らない。少年は夢想する、この外では見知らぬすばらしい景色がいったいどれ程あるのだろうかと。しかし、逆に自分たちがいる施設が必要としている世界だから醜く見るにたえない光景しかないのではという不安もあった。どちらにしても外に出られなければ意味のない話だ。
「――――――、おい!86番!聞こえていないのか!」
怒声が聞こえた次には横に立っていた同い年の少女が警棒で殴られていた。
「……っ」
どうやら鳩尾を殴られ、呼吸困難になっているようだ。
殴った教官が再び警棒を振りあげた時、殴られた少女の自分とは反対の85番と思わしき少年が少女の前に出た。
「やめてください!リサはボロボロなんです!休ませてあげて下さい!」
「リサ?そいつは86番だ。名前なんてもう無い。休ませる必要も無い。倒れるならそいつはもうゴミだ。ゴミは処理せねばならない。また、弱者を庇うお前もゴミだ。」
そういうと別の教官を呼び、二人をどこかに運んでいった。
「いいか、お前らには名前も人権も力も無い。そんな奴に俺はメシを与え、力を与えるんだ。ありがたく思えよ。」
訓練が始まった。二人の脱落者が出たせいかいつもよりきつい訓練だと感じた。一人、また一人といつもにも増して脱落者が出て処分されていく。処分された後については知らされていない。しかし、それは自分には関係ないのだ。脱落しなければ良いだけの話だ。
今まで基礎トレーニング、対人格闘、その他には座学などまで多岐に渡る訓練を受けさせてきた。
その中でこの施設における重要な要素が魔術だ。この施設は各地の魔術の素養があり、身寄りの無い子供を集めて王国の兵士を作ろうとしているのだ。自分には生まれてから今まで親を見たこともなく、自分の名前も知らない。唯一87番と呼ばれただけだ。
この施設にはある種の身分制度があり、それは魔術の素養で一級から三級で分けられる。一級は英雄クラスの才能を持ち将来性がある子供で待遇が良く国益のために小さい時から洗脳し愛国心を植え付けさせる。二級は特別な才能は無いが、一定以上の魔力を宿しており、87番の少年がこれにあたる。最後に三級は人体、精神に異常があるもの、または魔術の素養が低いもので三級は訓練を受けずに実験体となるか飼ってる魔獣の餌になるのが大半であった。
三級から二級に上がることは無いが、二級から三級に落ちることがある。また、二級から一級に上がることもできる。
しかし、少年は一級へ上がることへ興味ない。洗脳され、王国に使い潰されたくないのだ。いつかこの施設から外に出て自由に世界を冒険し、素晴らしい景色を見るのだと。そのためなら、手段は選ばない。何をしても必ずかなえると。