罪と罰
昨日、貴方に伝えた事を忘れてませんよね?
そういう彼女の唇は紅かった。
そういえば何か言われてたな、と霞んだ記憶を形作ってみるも当てはめれるような情景は浮かんでこない。
彼女が言うには私は彼女の自殺の手伝いを約束したらしいが、当然知らないし、そんな事を許す自分でも無い。
でも確かに自分と約束を交わしたと彼女は言う。
彼女の艶やかな髪が長いまつげの瞳を見せる。
その瞳の中に嘘は見えない。
しかし僕は君と今日初めて会ったんだよ。と言っても通じない。
いやはや困った。こんな山奥でこんな事に出くわすとは思ってなかった。
ふと彼女から視線を逸らすと煌々と地上に銀河が形成されていた。
この景色に負けない彼女の炎を僕は避けたがっていた。
彼女はおもむろにトレンチコートの内ポケットからそこまでの長さの紐を取り出した。
手を出してと言われて出した手にだれて紐が乗る。
おいおい、なんで僕なんだい?
彼女は私にうなじを見せた。
僕はその線に垂線を引くと考えると手が震えた。
君はいつ僕とそんな約束をしたんだ?
自分勝手だな。と思う。
貴方とは、「ん?」西新宿で会いました。
西新宿、西新宿。
わかんないなぁ。西新宿なんて僕は行かないよ。
僕は紐を彼女に返した。
吊るなら一人にしてくれ!
自分勝手だな。また思った。
だいたい君を知らないし、君が何で僕だけが知ってるこの場所を知っているのかもしらない。今はそんな事はどうでもいい。
なぜ君の介錯を僕がしなければいけないんだ!
堂々巡りなことばっか言ってるなぁ。と心で2回ほど復唱した。
しかし彼女は一言、貴方にしてもらわなければいけないんです。と言う。
なぜなのか。なぜ君の今後を僕は今から奪わなければいけないのか。なぜ君は泣きながら微笑んで僕を見るのか。
彼女は暖かい手で僕の介錯をリードした。
すっと彼女の首に輪がかかる。
刹那彼女の首は鬱血を起こす。
無機物を僕は気に吊るした。
僕は起きた。右手に紐の跡がある。
しかし気づかない。
そしてまた僕はあの場所に行く。
そして気づかない。
そしてまた彼女に会う。
そしてまた気づかない。
ある日高校生が山登りの途中に1本だけ枝の垂れた柏の木を見つけた。
その柏の枝には赤い口紅が塗られていた。