春男とジャム
「春男とジャム」
食いに来い、と言われるときは必ず、なにかがあふれている時だ。それがわかっていながらでも、食べに行くのは春男の家の味にだんだん舌が慣れてきているかもしれない。いや、完全に慣れているのだ。
「きたぞ。」
「おー。今日はパンだぞ。」
春男は珍しく出迎えた。
「パンが大量に送られてきたのか?」
「いーや。パンは自分で買った。送ってきたのは、ジャム!」
「ジャム……。」
なるほど、春男の言うように、机の上にはおおきなビンに詰められたジャムがおいてある。しかし、どうみても季節に合わないジャムもある。
「だけど、これは……多すぎないか?」
「買ってきたのも、入ってるんだ。」
それにしても。リンゴにイチゴにキウィにゆず、イチジクにブドウに、ブルベリーにラズベリー。プルーンに洋ナシにバナナ、オレンジにモモにサクランボ。
「だけど、ジャムなんか保存がきくだろうが。そんなにすぐに食べなくたって。」
春男は食パンを、オーブントースターに入れながら、首を振った。
「それは蓋をあけてない場合。今回のは母さんの手作り。砂糖が効いているから一応、もつとは思うんだけど……。」
「砂糖?砂糖がなにか関係あるのか?」
「あるさ。甘いほうが保存的には長持ちするんだ。だけど、一度あけたら、冷蔵庫保管しておかないと、かびるよ。あ、焼けた。ハイ。」
「どうも。どれを塗っていいんだ?」
「それでも。」
机の上には、瓶が口をあけたまま、置いてある。
オレはスタンダードにイチゴで食べながら言った。
「料理とかには使えないのか?」
「使って、これなんだよ!」
春男は悲鳴にも近いように言った。
「使って……って、どんだけ、マキさん、ジャム作ったんだよ!」
「こっちが聞きたい……。」
春男はため息をついた。
「あとで、マーマレードで煮たチキンがあるから持って帰って。ついでに、明日、会社でこれ、たくさん配って。」
春男は冷蔵庫からケーキのホールを出してきた。
「ケーキ……。なにが使ってあるんだ?」
「モモのコンポート。とにかく、僕だけじゃどうしようもないんだ。父さんはもうちょっと太っていたよ。さすがに、もっと食べてくれといえなかった……。」
春男はため息をついた。あいかわらず、春男の母親は膨大な量を作ったらしい。
しかし、いくら食べられるといっても基本的に甘い。あまいパンを食べるにも限界というものがある。それでも、きゅうりやハムやチーズなども間に入れて、休み休み、食べた。
そして持って帰らないと、なんにも書けない!という春男の脅しを受けて、オレは甘いパンを持って帰ることにした。もちろんケーキもだ。
毎回、行くんじゃなかったと思うのだが、行ってしまう。きっと次回もなにかあったら、春男から呼び出しをくらい、オレはまた行くことになる。なんで、作家の担当がこんなことで悩むのかと、オレはため息をついた。




