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菓子の中で

菓子の中で


一ヶ月も前からオレンジ色のかぼちゃやら、こうもりやら、魔女やらが街中のどこもかしもにもいて、当日ごろにはすっかり、飽きているハロウィンだが、大人のオレには関係ないと、春男に会う前はそう、思っていた。

だが、それは間違っているとオレはたまに思い知らされるのだ。

「なんで、オレが手伝うんだ!」

「ほら、愚痴言ってないで。焼けたよ。」

春男の家では、菓子作り大会が開かれていた。

「ごめんないさいね。」

と、あやまっているのは、春男のアパートの隣に住んでいたあやちゃんだ。引越しをしたはずだが、春男の本のファンでたまにこうしてやってきている。

「ホントにねぇ。」

 今日の客人はあやちゃんだけではない。あやちゃんの幼馴染の母親だという。

「無理言ってごめんなさいね。」

「いいんですよ。」

 春男はそう言って、にっこりと笑った。

 話は数日前、あやちゃんからメールが届いたそうだ。(いつのまにか春男とメル友になっていたようだ)

 菓子つくりを教えて欲しい相手がいる、ということだそうで、本日を迎えたのだ。最初は簡単だと、思っていたがこれがなかなか難しい。

オレは、しばらく手伝っていると春男だけがなにやら別なものを作っているようだ、ということに気がついた。

「なんか、お前だけ違うもの、作ってないか?」

「これはね、できてからのお楽しみ〜。」

 春男はにやにや笑った。

 さっそくケーキを焼始めた。焼いている間にフルーツを切ったりして忙しい。焼けると冷ましてクリームを塗る。フルーツをもる。

 春男も同じようなことをしていた。

「はい、じゃあ試食。これも食っていいよ。」

 オレは春男が作っていたほうをパクリと一口食べた。

「まずっ!」

 オレはすぐに言った。

 あやちゃんも、おばさんも一口食べた。

「確かにおいしい……とは言い難いですね……べつに、嫌いじゃない味ですけど」

「普段から当たり前のようにケーキを食べている人からすれば不味いかもね。」

 そう言いつつ、春男は食べている。

「春男、それ失敗なのか?」

「いや、小麦アレルギーの子供用ケーキ。外見的には普通のやつとそんなに変らないだろう?」

「……ああ。だけど、これはどうしたんだ?」

「これは今日の目的。この人が習いたかったのは、これなんだよ。ですよね?」

そのおばさんは微笑んだ。

「ええ。姉がアレルギーがひどいので子供にもその影響が出るかもしれないからと、洋食物を食べさせていなかったんですけど、今度、学校でハロウィンパーティをするそうなんです。どうしても同じような物が食べさせてあげたいんだと、姉から泣きつかれまして。娘が、あやちゃんの同級生ですけど、料理研究家のマキさんならわかるんじゃないかと言ったのをきっかけに、教わりに行こうと思ったんですけど、まさか、息子さんに習うことになるとは思ってもいませんでした。ありがとうございました。」

 そういっておばさんは、あやちゃんと一緒に帰っていった。


もちろん作ったものはできるだけたくさん持たせた。そうしないと、オレと春男で食べることになるからだ。

二人が帰ると、オレは、ドサリとソファに座り込んだ。

「結構、菓子も疲れるな。」

「そうだねぇ。」

春男は洗い物をしながら答えた。

「お前、普段菓子なんか作らないじゃないか。なんで教えることになったんだよ?」

「そうなんだよ。本当は母さんに教えてもらおうと持ってたんだけど、だけど、いま、イタリアに行っていてさ。なんでも、パスタの伝統料理食べに行ってくるって日本にいないんだよ。それで、父さんに聞いたわけ。」

春男の父親も料理が得意だ。

「だけど、普通は知らないだろ、こんな菓子の作り方。お前の家に誰かアレルギー持ちでもいるのか?」

「いや、だけど父さんの知り合いにアレルギーの子供がいてね、せめて気分だけでも子供の誕生日を祝ってやりたいって言うから、その人のために習ってきたらしい。ついでに僕もね。」

「誰に?」

「知り合いの知り合いに。」

オレは思った。それは他人の域に入るのではなかろうかと。

「だけど、嫌いじゃないのに食べられないっていうのは辛いよな。」

「うん。とくに子供の時はそうだろうね。みんなが食べているのにどうして自分だけがダメなんだろうって思うよね。」

春男は洗い物が終わったようだ。そのまま食器を拭き始めた。

「親だって、わざと食べさせないわけじゃないもんな。」

「そうだねぇ。」

 オレはふと思った。

「だけど、間違って他の子のを食べたらどうするんだ?」

「大丈夫。全部、あのケーキにするんだよ。あのおばさんとお母さんで作って持っていくんだって。学校の先生たちにも、ほかの保護者にも了解を得ているそうだよ。」

「うげ、まずくねぇ?あれじゃ、誰も食わないかもしれないぞ。」

「いいじゃないか、残したって。同じ物を食べたことがあるっていう思い出のほうが大事なんだよ。」

春男はそう言って、布巾をしまい、いつもの椅子に座り、パソコンに向かった。

「そうかなぁ?」

「引っ越すんだとさ。」

「誰が?」

「姪っ子さん。アメリカだって。だから、最後の思い出なんだよ。それで、ほかの親たちもそういうことならと、協力してハロウィンパーティにこぎつけたそうだ。」

「そうか。」

オレは、自分が小学校の時のことをぼんやり思い出していた。そういえば、いつも給食を食べずに弁当を持ってきている子の姿をぼんやりと思い出した。いままで、すっかり忘れていたのに、そんなこともあったなぁと思ったのは、その子も途中で引っ越したからだった。

「なんでも食えるって、大事だな。」

「そうだねぇ。」

 春男はやっぱりのんびりと言った。

「それで。親父さんの知り合いの子供の誕生日のほうはうまくいったのか?」

「ああ、あっちは、家族だけでの誕生日会だから大人がまずいのを我慢すればいいだけだろう?おじいさんたちまで呼んで盛大にやったそうだよ。」

「親はありがたいな。」

 オレはしみじみと言った。



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