倒産の危機
倒産の危機
それは木枯らしがふき始めたころだった。
「倒産!?」
編集長が電話相手に怒鳴っている
「いつ?!」
一気に出版社全体が静かになった。
「ああ。そうか、うんうん、わかった。」
電話が終わった。受話器を置いたとたんに、編集長はどうやら視線が自分に注がれているのがわかったらしく、慌てて言った。
「うちじゃないぞ!」
とりあえずほっとした空気が流れた。
オレは聞いてみた。
「じゃあ、どこが?」
「エクフメデェアだ。」
「え、エクフメっていったら、パソコン関係の本、大量に扱っているところですよね?そんな噂全然聞かなかったのに……。」
「そうだな。明日には業界紙に載るだろ。六億の負債で倒産だ。」
「えー……。」
「あー…僕、あそこの本には世話になったけどなぁ……。」
社員があれこれ言い出す。
「じゃあ社員とかは全員解雇とかに?」
「なるだろうな……。」
「そうか……。」
出版関係で知り合い同士なこともあるせいか、なんだか空気が重かった……。
「エクフメ?潰れたの?あらあら。」
一方、春男は自分がまったくと言ってもいいほど関係ないせいか、軽く言った。いや、こいつの場合、本を出している出版社が潰れても同じ口調かもしれない。
「負債抱えて、倒産だとさ。危ないなんてうわさ聞かなかったけどなぁ。」
「倒産する前って噂が流れるものなの?」
「いや、噂がたつと噂が本当になるからなぁ……基本的には一気に潰れる。」
「じゃあ、君のところもありえないわけじゃないんだね。」
さらりと春男は嫌なことを言った。
「お前な、うちが潰れたらお前、本出せなくなるだろうが。いや、本は出るかもしれないが、オレみたいな優秀な担当はつかないぞ。」
「そうかもね。」
春男があっさり認めたので、オレは自分で言っていてちょっと恥ずかしくなった。しかし春男は気に止めず話を続けた。
「だけどさ?たしかに活字離れって言われているけど、一万部とか突破する書籍が出たり、携帯小説が流行していたりするじゃないか。それでも潰れるのかね?」
「ん〜。全体的な本の売上は落ちる一方だし、漫画とかでも継続的に売れるっていうのは一部だからなぁ……。景品的なおまけを付けて本を出すこともあるが……本が安けりゃ付属品なんか、いらんって人も増えているしなぁ。」
「ある意味贅沢な話だね。まぁ、君のところの会社が、潰れる前には少なくともこれは書き終わるだろうと思うな。」
春男はのんびりと言った。オレは思った。こいつはきっとつぶれても、のんきに書きつづけているだろうと。




